神々のたそがれ

Hard to Be a God
2013年
ロシア
アレクセイ・ゲルマン監督・脚本
スヴェトラーナ・カルマリータ脚本(ゲルマン死後、妻が引き継ぎ完成)
ストルガツキー兄弟「神様はつらい」原作
レオニード・ヤルモルニク、、、ドン・ルマータ (地球人の「神」)
アレクサンドル・チュトゥコ、、、ドン・レバ(反動的指導者)
ユーリー・ツリーロ、、、男爵
エヴゲーニー・ゲルチャコフ、、、医師ブダフ
ナタリア・マテーワ、、、アリ
これは「SF映画」であるらしい。タルコフスキーの「ソラリス」もSFの枠に入ってはいるが、神学的な哲学作品であろう。
その意味で、これも舞台設定だけは地球より800年くらい遅れた丁度ルネサンス初期に当たる?ある惑星に30人ほど派遣された地球の学者が神の立場で彼らに関わる(観察する)噺であるか、、、噺などというものではないのだが、、、。
「そう言えば、最近映画界に非常に才能ある人間が現れたよ。
レニングラードのアレクセイ・ゲルマンだ。」(タルコフスキー談より)
実際にこの映画を彼が観たら何と評することだろう。
「ルートヴィヒ 神々の黄昏」は、ルキーノ・ヴィスコンティの豪華絢爛な美しくも虚しい傑作であるが、こちらはロシアのアレクセイ・ゲルマン監督のもの。
これを「映画」という枠で語れるのかどうかすら疑わしい、前代未聞、空前絶後の映像作品である。
絵画ではヒエロニムス・ボスが描き得た世界に近いようにも思うが、、、。

ルネサンスに当たると謂っても非常に反動的な体制が敷かれ、書物を焼いたり、大学を潰したり、知識人・学者を追いやったり処刑したりを繰り返す社会である。(中世という方が当たっていよう)。
商人が幅を利かせていて、灰色隊という組織も蔓延り、残虐な殺戮が日常的に行われている。
アルカナルという都市を舞台に描く、、、(ロシアの何処かの田舎であろうか、、、)。
そんな内容を語ってもおよそ意味のないこと。
ストーリーとして俯瞰する視座~空間を与えない画像で3時間充填されているのだ。
ヒトが他者の身体性を常に侵犯して接触し合い押し合い圧し合い、殺し合い、唾を吐き、血や内臓がドロドロ滴り落ち、糞尿やその他の汚物塗れの雨水でグチャグチャの地を徘徊しのた打ち回る。
ともかく狭い空間にヒトや動物が寄り集まり重なり合い妙なものを食べ、疫病も流行ってあたりまえな空気がこちらにまで漂ってくるような息苦しさを覚える。
映像の力とはこのように惨たらしくも作用するのだ。
「混沌の地獄絵図」などと距離を持って冷静に語れない強度。
キャストの嘲りがあからさまにこちらに向けられているところもある。

そう、キャストがこちら(視聴者)を意識しているかのようなカメラ目線を送って来るのは何故なのか?
なかには手や物でカメラレンズを遮る真似をする演者もいる。
われわれと彼らが地続きであることを示しているのか?
こういう人々の神となったらさぞつらいだろう、、、と、観ていて思っていたが、その世界はこの世界でもあるのか?
めくるめく距離感すら定かでなくなってくるのだ。
ドキュメンタリータッチと謂うか、、、
「この体験」という同時性において。
ある意味、いや厳然とこのような知的退行は今、起きているのだと思う。
その実感は充分にもっている。
特に自己投影、狂信、不寛容において、、、。
また、ドン・ルマータに「何をやってみても結果は同じだ、、、。」(搾取の構造は変わらない)とも言わせている。

このような作品をどうやって製作するのか、過程が想像できない。
ただ、ディテールに拘り続け、撮影に6年、編集に5年を費やし、最後の段階で監督自身が亡くなっているという。
映画を観てから、これだけ知ってもその壮絶さに気の遠くなる想いだ。
(よくキャストの精神が持ったと思う)。
しかも撮影は、パラジャーノフの「スラム砦の伝説」のユーリー・クリメンコが担当しているとのこと。
全然違うので驚く。やはり監督の采配で固められている。
彼のスワンソングであるか。

セルゲイ・エイゼンシュテイン、アンドレイ・タルコフスキー、セルゲイ・パラジャーノフ、アレクサンドル・ソクーロフ、、、に並ぶソ連~ロシアの危険で凄まじい映画監督を知った。
その怪物度からすると独り際立つ。
まさに途轍もない監督の、ことばなど寄せ付けない(無意味になる)映像作品であった。
この作品、わたしはDVDを購入していたが、Blu-ray版の付録映像がとても充実しているということを知った。
わたしの知りたかったメイキング映像がふんだんに入っているとのこと、、、。
監督のインタビューも、、、。残念。
購入を検討している人は、Blu-ray版がお得であると想われる。きっと。

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