S君の仕事-Ⅱ

ジオラマ飾り棚の一部。
トロッコの絵から見られたように、彩度・明度が上がり、更に遠近によって出来るダイナミックな(動きの感じられる)構図(広がり)が設えられる。
そして稠密な構造物も現れる。
まるでバベルの塔のような。
人工的な光~光線が(過剰に)発せられる。
彼の作るジオラマのあちこちの部分に灯る光のように絵の中の様々な要素が地形が発光し始める。
ただし、そこには重力が感じられない。
夢の中のように(永遠の白昼夢か)。
そう、どれも精巧で軽い素材の(ミニチュアの)ジオラマの世界なのだ。
きっと、、、。
それから、これらの絵には題名が分かるようになっていなかったため、題を表記出来ない。
本人に聞いておけばよかったが、学生時代の友人の悪口に夢中になっていてそれどころではなかった。
果たして彼も題名を考えていたかどうか、分からない。
S君が暇な時に確認しておきたい。

これは初期作のデザインの集大成的な感じである。
兎も角、それまでの場面と要素を全部取り込んでみたという。
この距離感も初期作の特徴である。うんと引いていて近くのものは描かない。
望遠鏡で覗いた構図か。
ここでひとつ締めくくりたかった、のだろうか。
そのままジオラマの完成予想図としてもよいだろう。

恐らく筆致が変わって来たこともあるのだろうが、明らかに全体の精緻さの質が変化した。
牛が題材ということもあるが、点描による描写が柔らかさと厚みを獲得している。
牛がやけに美味しそうだが、食べてみたら甘い薄皮に包まれたこれまた飛び切り甘くて美味しい餡子が詰まっていることは間違いあるまい。
だが一口サイズで食べ易いはず。
モーレツに甘いお菓子が食べたくなる絵(逸品)である。

ピグモンがいる。サイズから謂ってガラモンではない。
それがオウムやフクロウやトラのいるジャングルの端に所在なく佇んでいる。
川岸はカーペットで子供のゲームかジオラマセットの為にサッとリビングにでも敷かれたようだ。
彼らはただ素っ気なくその上に順番に並べられただけなのかも知れない。
強力な光源のスウィッチが入ったところで、それを仕掛けたのが暗がりにいるシルクハット?の紳士S君である。

ジオラマ感バッチリな地形。少女の乗る汽車の形のミニトロッコを後ろから手押す少年。
もはや投影とか代理とかはどうでもよい。余りそうした関係(意味)性には重きは置いていないだろう。
これから二人はお城、或いは城塞の街に赴く。それしかコースはない。
スイッチを押せば行くべきところに着いて止まる模型なのだ(スタートに戻して何度でも始まる)。
脇にはグラスファイバーでLEDライトも灯りそうな滝と人魚(度々登場する脇役)も。
スヌーズレンの仕掛けにも似たメンタルヘルスの効能も感じられるのだが。
熱を発しない過剰照明を背景に、山のように高くそそり立つお城の周囲を飛び回り続けるドラゴン。
この反復と回帰の運動。
非常にベタな形体配置と仕掛けにも思えるが、それをズバッと描いてしまうところが彼の最大の強みでもあり、、、
郷愁とも切り離されたある種の(根源的な)淋しさを湛え続ける。

このバベルの塔のような構造物(恐らく)は何か?
ただ、この塔以外にも水上都市があり、、、何と塔は水上へと突き出た建造物なのだ!
手前からそれに向けて静かに運行する船がある種の予感を誘う。
まさかノアの箱舟なんてことは、、、。いや他にも海賊船みたいな影もある。
錯綜する物語が、その光や光線や鳥たちの動きからも禍々しく漂い来る。
何でもありの模型世界が何か予言的な、黙示禄のような世界の感触を生む。
そんなことも起きる確率はあると思う。
明日に続く。