メッセージ

Arrival
2016年
アメリカ
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督
テッド・チャン「あなたの人生の物語」原作
エリック・ハイセラー脚本
ブラッドフォード・ヤング撮影
ルイ・モラン視覚効果監修
ヨハン・ヨハンソン音楽
エイミー・アダムス 、、、ルイーズ・バンクス(言語学者)
ジェレミー・レナー 、、、イアン・ドネリー(物理学者)
フォレスト・ウィテカー 、、、ウェバー大佐(アメリカ軍大佐)
マイケル・スタールバーグ 、、、ハルペーン
マーク・オブライエン 、、、マークス大尉
ツィ・マー 、、、シャン上将(中国軍)
新たな言語(体系)を身に付け、そのことばで思考するようになれば、確かに意思の疎通が可能になるだけでなくその相手の世界観も自ずと受容出来るようになるはずだ。夢も驚くべき変容がみられるかも知れない。
突如現れたその相手は、非線形の時間観念を生きる「他者」であった。
彼らはわれわれにとっての未来を既に知る者であった。
それは正確な言い方ではなく、全てを同時に知る者たちと謂うべきか。
われわれのような言語体系をもち、線形的な事象認識~表象の内に生きる者にとって、それを生きるとは、、、先に待っているものが分かっていてもそれを受け容れて生きることを意味するだろう。
言語学者ルイーズ・バンクスは、「彼ら」とのコンタクトを経て、自身の未来の記憶を鮮明に想起するようになる。
フラッシュバック或いは夢のなかで。
独身の1人暮らしの身でありながら、彼女の娘との暮らし、娘の哀しい運命についても克明に思い出す、、、。
最初は、ただの幻想~悪夢と思っていたが、彼らとのコミュニケーションを探るうちに彼女の意識も変性してゆく。
そして、その記憶は彼女自身のものであることに気付く。
彼らの言語は、手から霧状に発する墨のような物質で空間に丸い輪を描く。
前後という観念の無い(地球人とは明らかに異なる)ことをルイーズは悟る。
その輪のパタンは様々であるが、多くは日本の書のような閉じていない丸でもある。
(空海の円を想わせるような)。
線も墨の濃淡に似ている。
それは非常に直接的で効率的な観念の視覚化と受け取れるものだ。
彼らは姿と音は感知できるが、その巨大な姿でありながら地上すれすれの空中に静止し、地球に対し物理的影響を全く与えないようにしていた。

「彼ら」は、12か国に同時に現れ~”Arrival”到着し、そこに留まり続けている。
ルイーズは、彼らと人類の間に立ち、意思の疎通を図る。
到着し滞在する理由、その目的を何とか聞き出そう、未知の言語を探ろうと始めた研究心を刺激する試みであったが。
すぐに人類の命運のかかった途轍もなく大きな仕事となっていた。
結局、「武器=道具」を与える為に地球に来たのだと彼女は聞き出す。
それは、人類への贈り物であると。
彼らはワザと世界各地12に分けた情報のピースを一つに組み上げないと解けないメッセージを発信したのだ。
(情報を共有させること~真に協調させることこそが彼らのギフトであった)。
だがそれを地球に対する攻撃と受け取った中国が彼らに宣戦布告する。
彼らが世界を分断して相互に戦わせて滅ぼすように仕向けていると受け取ったのだ。
その強大な力に靡く(そういう趨勢なのだ)ロシア他4か国もそれに倣う。
のっぴきならない状況に陥ったときに、ルイーズの脳裏にシャン上将からパーティーで礼を謂われるイメージを見る。
そしてすぐその意味に気付き、ネットワークを切られている中国に国際電話をする。
和平後に国の協調が図られたこと祝する席でシャンから耳打ちされた内容を改めて彼に伝えるのだった。
攻撃はギリギリのところで避けられ、情報は共有され世界は繋がる。

彼らのブランクーシの彫刻のような船体を「ヘプタポッド」と名付ける。
ルイーズと物理学者のイアン・ドネリーと面会を重ねる「相手」は取り敢えず、アボットとコステロと名付けられた。
名付けない事には思考も話も進まない。
ちなみに、予定通りに結ばれるルイーズとイアンとの娘は円環を意味するハンナ(Hannah)と名付けられる。
これはルイーズの「先に待っているものが分かっていても受け容れる。全ての瞬間を大切に生きる」ことの決意を表す。
「始まりと終わりなど存在しない」
彼女は娘からも大きなヒントを夢想の中で受け取っている。
ノンゼロサムゲーム(positive-sum game)の理論である。
ここでは情報をこちらから進んで渡すことで全ての情報を共有(相手の情報も獲得)しようとする策である。
各国は自らの国にいる訪問者の情報を完全に秘匿していた。
戦争の前段階である。
この危機を彼女の非線形時間観念が救った。
そして彼女は娘の悲劇を予め知りながらも運命の全てを受け容れる。
この精神は、先のことが分かればそれを回避しようという線形時間観念からすでに解かれた認識によるものだ。
(タイムリープものSFによくあるパタンから外れた)。
すでに「彼ら」の認識に近いものであろう。

映像と音楽が素晴らしい融合をみせる。
VFXは極めて自然で荘厳であった。
エイリアンはこれまでSFに観たどれにも似ていない。
独創的なフィギュアである。
そしてその世界観も。
「ブレードランナー」、「コンタクト」、「第9地区」、「インタステラー」に並ぶマスターピースである。
この映画の監督は要チェックだ。
「プリズナーズ」も際立った映画であった。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ。
明日(10/27)公開の「ブレードランナー2049」の監督である!
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わたしも月曜日に観に行く。

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