くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ

Ernest et Celestine
2012
フランス
バンジャマン・レネール、ステファン・オビエ、バンサン・パタール監督
ガブリエル・バンサン(ベルギー)原作
アーネスト、、、クマのおじさん
セレスティーヌ、、、ネズミの少女
絵本を元にした映画であり、その質感を大切にして映像に再現していることが分かる。
動きはジブリの古畑アニメを彷彿させる。
ネズミ世界、クマ世界、それぞれの世界からのはみ出し者同士が接点をもつ。
お互い自分の世界が居心地悪い彼らが親しくなるのに時間はいらなかった。
ネズミ社会では、クマは意地が悪くネズミを食べてしまう怖い存在だと教え込まれている。
おまけにセレスティーヌは孤児でクマの前歯を集める仕事を強制されているが、彼女はスケッチばかりしていて邪魔者扱いされている。
クマにとってネズミは地下に住む生き物であり、本来自分たちとは別世界のものたちである。
しかもアーネストは両親から裁判官になることを望まれていた。
しかし彼のなりたいのは、音楽家か詩人であり、一文無しの腹ペコクマなのだ。
アーネストがたまたまごみ箱をあさっていると、中にネズミが眠っており食べてしまおうかと思ったが、彼女がお菓子屋さんを紹介してくれたことで、その地下倉庫で思う存分甘いお菓子を食べることが出来た。
そのお礼としてアーネストは、そのネズミ、セレスティーヌの歯の収集に手を貸す。
アーネストは沢山の歯を袋に詰め、ネズミのいる地下世界まで運んだところで眠くなり、そのまま眠ってしまう。
(クマのアーネストがすぐに眠ってしまうところなどありそうで面白い)。
ここで、彼らは一緒にいるところを見つかり、盗みと互いの境界を侵犯したことで、共犯者としてネズミ・クマ双方から追われる身となる。
と同時に彼らはとても仲良くなる。ずっと一緒に暮らしたいと思うような絆が芽生える。

クマのアーネストは音楽、ネズミのセレスティーヌは絵が得意である。
特に、「アーネスト、見せてあげる、これが冬の絵」とセレスティーヌが絵を描くのに合わせて、「音楽をつけるとしたらこんな感じかな」とアーネストが音楽を付ける。このハーモニーは絶品と謂えよう。
大変良質な環境ビデオ(ブライアン・イーノの創るような)の趣があった。
クマにとって冬の世界は、未知の世界である。
それを覗いた感動をふたりで音と画像により表現しようなんて素敵な関係ではないか。

クマとネズミとのはっきり分かれた棲み分け上下社会という他にも、シニカルな面はしっかり押さえている。
夫がお菓子屋でたくさんのお菓子を子供たちに売りつけ、その真向かいで妻が経営する歯を悪くしたものに入れ歯を売りつける店で大儲けする夫婦が描かれ、彼らは絶対に息子だけには甘いものは食べさせない。
これは典型的な小市民像であり、市場社会の縮図である。
アーネストとセレスティーヌは、そのどちらからも商品を掠め取る。
こうした搾取と完結性を崩すひとつの象徴的で無意識的な彼らの行為か。
クマ裁判長とネズミ裁判長の両界において絶対的な権力を持つ者がどちらも、裁判中に起きた火災から裁こうとしていたアーネストとセレスティーヌによって救い出される。
皆、周りの提灯持ちは、我先に逃げてしまった。
そして下で起きた火災は上にも及ぶのだ。自然~物理的災害は境界などお構いなく容赦なく浸食する。
(核戦争のメタファーにも感じ取れる)。
アニメ全体は、とても柔らかで清々しい水彩タッチで、優しく流れてゆく。
最後は、どちらも無罪放免となり、穏やかで和やかなふたりの生活が描かれる。
これまでのふたりの辿った物語を絵本にするのだ。
恐らく、この噺のように(笑。
おしゃれである。流石フランスアニメだ。
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