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吉田 博

もう一人、版画を。わたしはこの画家については「光る海」(版画)から入っており、それ以前の画業や人となりなどについてはほとんど知らない。明治~大正~昭和を跨ぎ活躍した画家~版画家であり、時代を通しての第一人者であるが、然程知らないのだ。
だが、その版画が途轍もない魅力を湛えている為、一言だけ記しておきたい。

yoshida hiroshi001

ダイアナ妃がとても気に入り購入したという彼の「光る海」
執務室に飾っていたことは知られている。
日が傾く頃の瀬戸内海の静かで永遠を感じさせる柔らかな水面の光、、、。


画才を認められ吉田嘉三郎の養子となったことで吉田の姓を名乗る。
その当時は水彩画が基本で、油絵も描いていた。
若くして渡米し、デトロイトで作品を多数展示・発表するが、高い評価を得て受け容れられ、作品も売れる。

自然の幽玄な姿を写し取る緻密で重厚な作風は、東洋的とは謂えるが、伝統的描画ではなく欧米にも日本にも比べるものがないことからも話題を呼んだ。
その後、ニューヨーク、フィラデルフィア、ワシントンDCでも展覧会を開き名も知れ渡る。
そして題材を求め、欧州諸国、及びモロッコ、エジプトにも外遊し作品制作に励む。

版画に移行する前の水彩・油彩の吉田の絵は、只管重厚で哲学的な趣の深いもので、当時主流であった黒田清輝の軽やかで明るい「新派」からは「旧派」扱いを受け、日本においては孤立を余儀なくされていた。
アメリカ~ヨーロッパでは、かなり認められた存在であったにも拘らず、暫く本国日本では誰もが知る画家とは言えない位置にいた。

yoshida hiroshi004

尤も、アカデミックな場においては、水彩画の「ピラミッドの月夜」、「池の鯉」、「新月」、「峡谷」などや油彩の「精華」、「千古の雪」など非常に高い評価を博しているものも多い。文部省美術展覧会で文部省買い上げや無鑑査で出品する権利を得ており、審査員としての出品も果たしていた。


しかし新版画の版元、渡辺庄三郎に出会い彼の版画舗から木版画を出版し始めることにより、日本においても一般的に高い評価がつくようになる。
充分に画家としての高い地位についていた40歳からの挑戦であり、新境地の開拓でもあった。
彼が本格的に活躍が広く認められるのは版画に目覚め、何と彫りと刷りまで職人レベルの力をつけ独りで出版するようになってからと謂えよう。
版画の制作ペースも速く、忽ちボストンを拠点に、フィラデルフィア、デトロイトなどで何度も展覧会を開いている。
しかも独自の手法を幾つも開発し、一見版画には見えない版画作品の趣を得ることになる。
(海外の吉田 博の研究家はそれを「発明」と呼んでいる)。

yoshida hiroshi002

名作と呼び名も高い「剣岳の朝」
夏の夜明けの一瞬である。
印象派的な儚い美をしっかりとした版画の構築性で捉えている。
光と空気が優しく柔らかい。
その光と空気のリアリティの為か、臨場感が異様に高い。
「画家は自然と人間の間に立って、それを見ることのできない人のために自然の美を表してみせるのが天職である。」
確かにわれわれもそこに溶け込むように風景を感じることが出来るのだ、、、。
こんな時間は、名画相手の絵画鑑賞であっても、それほど味わえるものではない。


彼はその題材を求め、日本でも諸外国においても山岳をモチーフとすることが多かった。
自身山登りが好きで、必ず頂上まで登ってしまい、山中に籠って描くことも多かったようだ。
その為、その視座によるパノラマ画面の雄大で清々しい風景も多い。
しかし、何処に行っても(外国に行っても)観光化が進み、それが悩みでもあったらしい。
人の知らない自然の美を伝えなければならないのだ。
山を描く版画家であれば、彼も当然「富士山」を描いている。
そこには、西洋画だけでなく明らかに葛飾北斎などの浮世絵の影響が感じとれる。
版画を学び取るに当り浮世絵の線や色彩、形体の単純化の研究が作画にとても有効に働いたと考えられる。
確実に水彩・油彩に見られない特異な表現~美が加わっている。
(何処を描いても人の知らない自然を魅せてしまうような、、、)。

yoshida hiroshi003

彼は山のほかに、山の谷間などを流れる渓流なども好んで描いている。
水の表現では彼の右に出る画家はいないとまで謂わしめるようになるが、確かに水~多様な速度の水流は圧巻であり、飛び抜けた動勢と質感である。
水の湧き出て流れ、砕け落ちる「音」まで聴こえてくる。
まさに自然の美を純粋に伝えるレヴェルに到達している、と感じられる。


それを可能にする方法として、まず秀でたデッサン力は言うまでもないが、掘りの輪郭線の強弱・太さの微妙な調節、線も光に対する色で刷り分けるなどを細やかな手間を惜しまない。
しかし一番大きな効果は、画面に深い陰影を埋め込むための「ネズミ版」を執拗に重ねて刷ることで、版画であることに気付かないような深い奥行きのある画面が生成されることとなる。
この「ネズミ版」を30回以上重ね刷ることが彼の作品では普通であった。
欧州歴訪を終え、自身の版画スタジオから「アメリカ・シリーズ」、「ヨーロッパ・シリーズ」を出版する。
この彼の版画の光景は、欧米とか日本とか関係なく、、、光と風の創る、未知の永遠の瞬間に想える。


水彩や油彩の頃と比べると、作風に重厚さは基調として保たれてはいるが、優しさ~穏やかさや柔らか味が加わっていることが分かる。
ここが、恐らくダイアナ妃を強く惹きつけたところであろう。
斯く言うわたしも、そうなのだ(笑。
一度目を向けたら、なかなか離れられない画面である。


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