スノーデン

Snowden
2016年
アメリカ
オリバー・ストーン監督
キーラン・フィッツジェラルド、オリバー・ストーン脚本
ルーク・ハーディング『スノーデンファイル 地球上で最も追われている男の真実』、アナトリー・クチェレナ『Time of the Octopus』原作
ジョセフ・ゴードン=レヴィット、、、エドワード・スノーデン
シャイリーン・ウッドリー、、、リンゼイ・ミルズ(スノーデンの恋人、カメラマン)
メリッサ・レオ、、、ローラ・ポイトラス(ドキュメンタリー映画作家)
ザカリー・クイント、、、グレン・グリーンウォルド(ジャーナリスト)
トム・ウィルキンソン、、、イーウェン・マカスキル(『ガーディアン』のジャーナリスト)
ニコラス・ケイジ、、、ハンク・フォレスター(元米国諜報機関職員、スノーデンの理解者)
ベン・シュネッツァー、、、ガブリエル・ソル(NSAの同僚)
レイキース・リー・スタンフィールド、、、パトリック・ヘインズ(NSAの同僚)
リス・エヴァンス、、、コービン・オブライアン(CIA教官)
実話である。
「シチズンフォー スノーデンの暴露」のドキュメンタリーフィルムが強烈であった。
自分は、テロから人々の命を守るという使命感で仕事をしていたが、自分が守っていたのは、政府の覇権だけだったことに気付いた男の行動を追ったもの。
彼はローラ・ポイトラスの力を借りて『ガーディアン』から世界に向けて告発を行う。
何より驚いたのが酒もドラッグもやらないコンピュータが心の友のスノーデン氏とジョセフ・ゴードン=レヴィットがそっくりなこと。
これもドキュメンタリー的臨場感のうちで観る事が出来た。
恋人と和む様子もかなりたっぷり描かれていたのが、先のドキュメンタリーとは、かなり異なるところ。
映画は回想が入るからこのシーンや実際にCIAやNSAで働いていた時の様子~体験も生々しく差し挟まれる。
それらの秘密に守られた機関の恐怖で支配しようとする内情も肌に伝わって来る。
権力欲に取り憑かれ他者を利用することしか考えていない人間(同僚)の多いこともグロテスクに窺える。
恋人リンゼイのリベラルな思想?に彼が傾いてゆくのも無理もない。
ストレスのせいもあり、彼は癲癇の発作にも悩まされるようになる。
電子レンジに携帯を入れて電波をカットするところはハッとした。それで電波を遮断するのだ。
毛布を被ってノートのパスワードを保護するところもそれらしく如何にもと思った。
ハンク・フォレスターの仕事場で彼と暗号機やコンピュータの話をするところはオタクぽく面白い。
セキュリティーの強さを掻い潜って、ルービックキューブにマイクロSDカードを潜めてデータを持ち出すところはドキドキした。
(ある意味、癲癇の持病が上手く隠れ蓑~病気で早帰り~データ持ち出しに加担した)。
しかし、データの盗み出し自体は、実際あんな素人臭いものではないはず。
あのような普通のコピーが効くとは思えない。(恐らく本当はどうやったかは、人には漏らせないはず)。

このスノーデンというひと、飛び抜けて出来る人であったことが分かる。
最初のCIAの適性試験で担当都市のインフラ稼働シュミレーションを5時間で仕上げるところをを38分でやってしまう。
当初から目をかけられていた優秀な存在だ。
ここはドキュメンタリーでは伝えられずに、映画で強調すべきところであったか。
当然、他の関係者たちの人物像もしっかり描かれる。
かつて優秀な頭脳を買われNSAで活躍していたハンク・フォレスターのアウトロー振りは面白く、恋人と同じくスノーデンに影響を与えてゆく。「情報は、軍需産業が潤う管理体制の為に使われ、業者に税金が流れるようにもっていかれる、、、」など、ここでそんなこと言っていいのか、みたいなことをスノーデンにどんどん漏らしてゆく。左遷された者の強みか。
裏も表も心得ている悪友ガブリエル・ソルの情報からもスノーデンは覚醒し始める。
ガブリエルがスノーデンを「白雪姫」と呼んでいたが、スノーデンは技術的には天才であったが、それ~自分の仕事や作成したプログラムが、何にどう使われているのかについては、驚くほど無知であった。ガブリエルから初めてプリズムのことも教えられる。
スノーデンという人は、恐らく誰よりもピュアな状態でCIAやNSAの内部・中枢で働き始めてしまった人なのかも知れない。
コービン・オブライアン教官の視点、気持ちも理解できる。「君を下らない石油戦争などに巻き込みたくはない。」
これから備えなければならないのは、ロシア、中国、イランのサイバー攻撃だ。君の優れた頭脳はそこで使う、と。
テロは短期的な脅威に過ぎないから、そんなところで使いたくないということだ。
(20年後にはイラクは見捨てられ誰も目を向けない、となる、、、)。
いろいろそちらの方でも興味深い含蓄のある話が出てきて考えさせられる。いちいち拾わないが、、、。
回想とホテルでの取材の情景がシャープにクロスして展開してゆく。
XKEYSCOREを開けるところなど、ちょっとドキドキしてしまう。
何でも検索出来てしまう検索インターフェイスだ。(プリズム収集データ)。
またそのインターフェイス操作がとても丁寧に映される。
まるでソフトの使用法ヴィデオみたいに得意になってガブリエルがスノーデンにやってみせる(笑。
こんなものを見ていたのか、と改めて愕然とする。
(Googleと違い、公開していない世界中の人の全ての情報の検索が出来てしまうのだ!)
そしてイギリス諜報局開発の、パソコンが電源オフであっても作動させ、Webカメラを通して映像を取り込むなど、一般人に対しそんなことが許されるのか、というレベルまで行き着いていることが分かる。
空恐ろしかったのは、彼が日本出張で(スノーデンは日本語にも明るい)日本の通信情報も全て検索可能なものにし(つまり通信システムを乗っ取り)、物的なインフラも全て(送電、病院、ダムなどを)コントロール下においてしまった。
日本が同盟国でなくなれば、ネットワーク~ライフラインが直ちに閉じられてしまうような工作には愕然とする。
それは、今でもそのままなのか?恐らくそうなのだろう。どうにかしてもらいたい。
(日本がアメリカに逆らえないのも分かる)。
それは他の国に対しても同様であるという。
そして要人の追跡調査と場合によっては失脚させるための情報操作など。
結局テロは口実で、経済的・社会的な支配が目的であった。
彼の告発は直接的には、アメリカ国民の電子情報を全て盗み見て管理していたNSAに対するものであったが、勿論それに留まらない普遍性を帯びる。
一言で謂えば、「個」に対する人権の問題である。

香港のホテルの一室での取材フィルムを撮る4人の緊張状況については、「シチズンフォー スノーデンの暴露」の方でもかなり味わったが、こちらはよりドラマ仕立てであり、ローラ・ポイトラスの人柄も伝わって来る。
スパイ活動法違反で告訴され、ウィキリークスの助けなどを借りて出国(香港からロシア)するところなど、やはり冷や冷やする。
ロシアに滞在できる期間をもう超えたはずだが、これから先彼はどうするのか。
恋人が現地で合流できたことは、ほっとするも、、、。

この映画も現地アメリカでは撮れなかったという。
スノーデン開発の携帯電話バックアップシステム「エピックシェルター」が、軍事目的に転用され、狙った携帯(シム)を持っていることで追跡され無人爆撃機(ドローン)で爆撃されているところを目の当たりにしたことで彼はかなりの疑問を抱く。
その携帯をテロ犯罪者本人が持っているとは限らない。またその特定は何をもとに行われているのか。
ハートビートと名づけられた作戦は、それに反応する人間が他国に比べアメリカ人に多いことにも疑問を抱く。
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