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松本 竣介

MatsumotoShunsuke001.png
音のない世界の音楽が聴こえる。
静寂の中に、ミニマル・ミュージックの理知的な調べが続いていた。
恐らく。

彼は13で聴覚を失い、16で画家を志し、36歳で夭逝。
「天に続く道を行く」と決意し、そのままずっとブレることがなかった。
余計な雑音が入らないことも、内部の純化と熟成に寄与したはず。

彼は耳のせいで徴兵を免れる。
そして街を歩く。

何処に行くか。
行くところなどない。
決まった場所を観測するように描き続ける。
「Y市の橋」であり「ニコライ堂」であり、、、。

何と言うか、戦争中はそこの定点観測に明け暮れていたのではないか。
巷には「戦争画」が溢れかえっていた。

そのなかで異彩を放つ彼の絵は、極めて静謐で知的に見える。
それも張り詰めた強靭な静謐さに湛えられている。
何処かクレーの絵に似た、この世離れした佇まいも感じられる。


その要因は、ひとつに黒い輪郭線である。(現実に「黒」や「輪郭線」はない)。
この線が絵によっては、抽象的な自立した「黒い線」として画面に重なる、別次元の生成として調和して息づく。
そしてもう一つが、塗り重ねである。
透明色の重層的な塗り重ねは、バルテュスも好んでおこなっているが、松本もかなりの時間の畳み込みを画面に施している。
重厚な絵の具の層が、内部で光の乱反射を招き、宝石のように煌めく光を内包する。
(以前、バルテュス展でそれを確認したとき、身震いがしたことを覚えている)。
それからもう一点あげれば、徹底した風景の編集作業であろう。
松本はスケッチ(クロッキー)した最初の題材を、アトリエにおける油絵の下絵の段階で、各要素を組み換え、入れ替え、改変し、自分にとってあるべき風景に再構成する。
この操作によって命名された一般的な場所が、イデアとしての風景に思えてくる。
彼の絵が非常に理知的~詩的に見える所以でもあろう。

「今、沈黙することは賢い。、、、一切の芸術家としての表現行為は、作者の腹の底まで浸み込んだ肉体化されたもののみに限り、それ以外は表現不可能。」
全くその通りだ。
彼の手記にあるマニフェストは、別に反戦とかそういった政治的なイデオロギーとは無関係なものだ。
自分の意志=身体性に抗う何かを創作するなんて、そもそも不可能だ!という至極真っ当なことを述べているに過ぎない。
藤田嗣治が戦争画を描いたのは、心底、自分も祖国の人々を守るため一兵卒として戦いたいと願った為の必然であり、そこには死力を尽くし自己犠牲の精神で戦うしかなかったヒトの壮絶な姿が明確に捉えられている。(戦意高揚などという愚劣でワザとらしいものでは決してなく、本当の写実である)。それは崇高な内的必然から生まれた藝術に他ならない。
その点で、松本も藤田も自身の身体性において、全く妥協や矛盾はなかった。
松本の「立てる像」の孤高の壮絶さ、これはある意味、彼の戦争画であろう。

MatsumotoShunsuke002.png

この時期において糾弾されるべき者は、ただ政府の圧力で描きたくない戦争画をいやいや描いた画家たちである。
自分の「腹の底まで浸み込んだ肉体化されたもの」を蔑ろにして、違うものを描いた画家たちこそ画家としても人間としても糾弾されるべきである。(しかし、そういう連中は戦後、自分の責任を逃れようと藤田一人にそれを押し付けようと迫った)。
松本も、戦争画を描くのなら、戦後も継続して描くべきだ。と語っていた。そこに芸術性があるのなら描く意味はある、といったことを、、、。
実際、戦後も戦争画を描き続けた画家はいる。戦争と捕虜体験を描き続けた「シベリヤ・シリーズ」の香月泰男など。


松本 竣介は絵だけでなく、文筆も精力的にしており、言語感覚も鋭く瑞々しい。
彼は家族を疎開させても独り自分は空襲の激しい東京に最後まで残り、終戦を見届けた。
従軍しなかった自分の責任と考えてのことだろうか。
彼は実際に空襲の最中にも外で絵を描いていたという。

戦後の絵には、赤が目立ち、焼け溶け落ちた鉄骨の黒い線が彼の内心に共振しているかのような画面が現れる。
彼は、その下に眠る人々の魂に哀悼の意を表しながらも、一切の夾雑物の焼き払われた光景の圧倒的な美しさに驚嘆を隠さなかった。




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