ロスト・エモーション

Equals
2015年
アメリカ
ドレイク・ドレマス監督・原案
ネイサン・パーカー脚本
リドリー・スコット、ラッセル・レヴィン、イ・ジェウ製作総指揮
ニコラス・ホルト、、、サイラス
クリステン・スチュワート、、、ニア
ガイ・ピアース、、、ジョナス(闇感染者)
”Equals”のままが良い。
「イコールズ」、、、絶滅の危機に瀕した人類の共同体の名前である。
世界大戦により地上の99.6%が破壊され、残った人類は「イコールズ」という管理コミュニティを形成し感情のない世界に人々は暮らしていた。
クリステン・スチュワートは「パニック・ルーム」でジュディ・フォスターの娘役で出ていた女優だ。
大きくなって、、、と思った(笑。
「メメント」、「 L.A.コンフィデンシャル」での印象が深いガイ・ピアースであったが、、、
白を基調として繊細な陰りをもつ物語が淡々と物静かに過ぎてゆく。
時に青のグラデーションの深みがサイラスとニアのふたりの苦悩と愛を包み込む。
建造物は安藤忠雄のデザインによるものが使用されている。
急ごしらえのセットでは到底味わえないスケールと特殊な空間センスであった。
アップで非常に細やかな心情を掬い取るカメラワークも秀逸。
遺伝子操作により感情を抑制することで共同体の統制を図るという方針は既視感がタップリで陳腐でさえあるが、、、
最初は異様に冷たく機械的な人の動きが基本となるトーンで進む。
ちょっと見ていてむず痒さを感じるほどに。
しかし、感情を見せる瞳や手の動きなど微細なカットが忍び込みシーンに不安と焦燥感を呼ぶ。
白い空間に青い影が生じて、重苦しさが湧いて来る。
多くの成員が感情の片鱗も見せない中、感情、情感を抑えて生きる人間のいることをサイラスは知る。
彼らは感染者と呼ばれ、施設送りになり果ては処刑されてしまう運命をもつが、平静を装い感情を隠して生活を送る。
それほど、この社会では感情が恐れられ忌み嫌われているのだった。
サイラスもニアもひとりになると何故か不安と突き上げるものを覚え、涙が溢れ出す、、、。
この映画は、「出版部」に努めるサイラス(画家)とニア(執筆者)がお互いに、はっきりと惹かれ合う辺りから、独自の微視的な展開で魅せはじめる。
彼らは密かに隠れて会い、(固く禁止されている)お互いの心境を語り合う。
それは次第に愛情を呼び覚まし、彼らはお互いに愛し合い生まれて初めて嵐のような感情の高揚を経験する。
サイラスは闇の感染者(感情に目覚めた者)の作る闇感染者ネットワークに入り、「思いのこもった」人間と共にすることで影響を受け、感情を恐れず受け入れるようになる。
自分の存在意義は、遠く離れた宇宙に探られるのではなく、すぐ目の前にあったことにサイラスは思い当たる。
ニアとはもう離れられない。
感情が確固たる認識を呼び、それ~感情は病ではないことを彼ははっきりと確信した。
感情のある状態こそが本来の姿であるという、この共同体パラダイムにおいてはコペルニクス的認識の転換を得る。
ひとたびそれを認識すると、むしろ感情を失くしたら自分が存在しないにも等しいことを知る。
確かに、このコミュニティでは自殺者が多い。
(感情は人間の生きる原動力とも謂える根源的なエネルギーであろう)。
サイラスはニアと共同体の外、生きる保障もない原生林の生い茂る欠陥者(普通の人間)の生息する場所に逃げることを決める。
これも活き活きした感情によって決定したことなのだ。
しかし,ニアは妊娠していることが血液検査で発覚し捉えられ、処分されることになってしまう。
ニアはすんでのところで、闇感染者たちの手回しにより、自殺者とIDを入れ替えることにより助けられる。
時を同じくして、これまで不完全であった感情を完全に抑制する医療が開発された。
つまりもう誰も施設送りされ処分されることなく、その施術を受ければ社会復帰ができるようになったのだ。
ここでは、面白いことに、統括する指導者や管理者の姿や警察、捜査官、諜報部員、高度な監視システムなどは、ほぼ何も出てこない。
施設全体に流れる放送やモニターを見せるにとどめる。
保険安全局が共同体構成員の「感情」「妊娠」のコントロールをしているようだが、その実態がつぶさに素描されることはない。
僅かに、感染を調べる血液検査と感染者を施設に隔離する場面が映る程度である。
社会システムをアクション系から観る(描く)ような要素を意図的に排した映画なのだ。
あくまでも内省的に局所的に、風のそよぎに打ち震える「感情」にフォーカスした展開で最後までゆく。
最後のニアが死んだものと思い込み、感情を取り払う手術を受けてしまったサイラスを伴って共同体の外に逃げるニアの不安と恐れと希望の綯交ぜとなった表情~心象の表現がこの映画の価値を決めている。
この最後のブーツストラップで、際立つSF作品と成り得たと言えよう。

質感に徹底して拘る、好きなタイプのSFである。
やはりリドリー・スコット総監督というのも頷ける。
ゴダールのアルファヴァルがSFであるという意味において優れたSFだ。

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