ぼくのバラ色の人生

Ma vie en rose
1997年
フランス、ベルギー、イギリス
アラン・ベルリネール監督・脚本
ミシェール・ラロック、、、アンナ・ファーブル(リュドヴィックの母)
ジャン=フィリップ・エコフェ、、、ピエール・ファーブル(リュドヴィックの父)
エレーヌ・ヴァンサン、、、エリザベス
ジョルジュ・デュ・フレネ、、、リュドヴィック・ファーブル(7歳のMtFトランスジェンダー)
1997年。かなり早い時期の問題提起か。
7歳のリュドヴィック・ファーブルは、自分を素直に出すと必ず周りがあたふたして、大騒ぎになったりする。
何故なのか、とても不思議なのだ。
理不尽なことに凄く叱られたりもする。
お姉ちゃんのピンクのドレスを着て何が悪いの?

所謂彼は、MtFトランスジェンダーと言われる人なのだ。
大きくなったら女の子になる、と夢見ている男の子。
わたしもそれくらいの頃は、鉄人になるとか、、、友達も似たような憧れを口にしていた。
何の悪気などあろうはずもない。本当に彼のなりたいもので、憧れなのだ。
彼女のいや、彼の弟が「それって猫を殺すことより悪いの!」と親に問いかけている。
まさにそこである。
例えバカ息子が猫を一匹悪戯で殺しても、学校に呼び出され転校を勧められたり、近所全ての家から署名が集まり転居を強いられたり、父親がリストラされたりはしまい。
大きくなって女の子になるの、、、という彼の極めて自然な感情は、動物の虐殺より遥かに罪が重いのだ!
この男の子がデンとしたもっそりした子なら明らかに異なるトーンの映画となろうが、天使タイプの可愛らしい子なのだ。
このまま女の子と言っても、普通の女の子より可愛いで通用するかも知れない。
些かそのせいで、物語は重く暗くはなり過ぎず、メルヘンチックに展開してゆく(笑。
だが、祖母のように今が可愛いからと言って、そのまま猫可愛がりしていて問題が解消するものではあるまい。
思春期になればこの子だって、明らかに男の体になって行く。髭だって生えてこよう。
こころが完全に女だとしたら、それ相応の折り合いをつけて行かねばなるまい。
当人はその深刻さには、まだまだ気づかないのは当然のこと。

彼自身の憧れへの想いが、家族たちを追い詰めている認識が深まるに従い罪悪感と現実逃避の欲望も強まる。
7歳であれば、まだTv番組のヒロインが助けてくれる白日夢にも浸ってしまうものだ。
冷蔵庫に隠れてみたりもする。おばあちゃんのところに逃げ込んだり、、、。
家族も彼を精神科に連れて行き、矯正を試みる。
世間体からしても、治さなければならないのだ。何とか真人間にしたいと。
しかし成果は上がらず、家庭が徐々に大変なことになって行き、理解者振っていた母親があからさまに彼を罪人扱いし始める。
切羽詰まって過敏になってゆく。
だがそれと同時に、当初生理的に嫌悪感を隠さなかった父親が、お前のせいじゃないと世間と闘う意志を表明する。
お父さんは逞しさと優しさを発揮し始め、家庭としては良い方向性が芽生えてくる。
家族や周囲の人間が(たまたま引っ越した近所の家庭に彼の逆パタンFtMの女の子がいたようで)、違いが受容され仲良くされる可能性が見え、その点では良いところに引っ越してきたものだ。
試練を通し、彼を掛け替えのない大切な息子だという肝心な事=愛を再認識する両親。

しかし、これから先、成長と共に自然な憧れ自体が内側から浸食されてゆくのだ。
その純粋なイメージがどう成長と共に獲得してゆく知識や認識によって、善く生きて行ける可能性に結び付けられるか?
周りからの偏見や疎外や抑圧、暴力から来る苦痛より、寧ろ自分の内的な葛藤と不条理な実存的苦悩の方がキツクのしかかってくるはず。
かなり壮絶な格闘が不可避となろう。
自分独自の強固な世界観の構築とその理解者の獲得に恐らくかかってくる。
いや、今現在なら理解者、支援者団体はかなりの大きな組織としてもあり、マイノリティであることから迫害を受けたり、差別されることもなくなってきただろう。人権はしっかり守られるし、この映画の時期からは確実に周りの状況は進展している。
肉親の思いは、時代の変化であっても、些か複雑ではあろうが。
外部の状況はそうである。
しかしあくまでもアイデンティティの問題である。
ムーブメントにおける理解者などで解消される次元ではない。
(そこまで行くと、普遍的な存在論ontologyともなってしまうが。必然的に)。
基本、周りがどうであろうが、馬鹿が何を吠えようがそんなことは、もともと関係ないのだ。
自分が自分にどれだけ折り合いをつけていけるか。
自分が何にも流されない、自分の主体として生きてゆけるか。
これは、同時にわれわれと重なる存在論的課題でもある。
(抱えるものが少し違うに過ぎない)。
- 関連記事
-
- ブレード・ランナー ファイナルカット
- 炎の画家ゴッホ
- ぼくのバラ色の人生
- 大鹿村騒動記
- サイレント・ランニング