リバティバランスを射った男

The Man Who Shot Liberty Valance
1962年
アメリカ
ジョン・フォード監督・製作
ジェームズ・ワーナー・ベラ、ウィリス・ゴールドベック脚本
ジョン・ウェイン、、、トム・ドニファン(早撃ちガンマン)
ジェームズ・ステュアート、、、ランス・ストッダート(弁護士~上院議員)
ヴェラ・マイルズ、、、ハリー・ストッダート(ランスの妻)
リー・マーヴィン、、、リバティ・バランス(無法者)
エドモンド・オブライエ、、、ダットン・ピーボディ(新聞社編集長)
アンディ・ディヴァイン、、、リンク・アップルヤード(腰抜け保安官)
ケン・マレー、、、ウィロビー医師
ウディ・ストロード、、、ポンペイ(トムの使用人)
ランス・ストッダート上院議員が妻ハリーと共に、西部の町シンボーンに戻ってきたところから始まる。
今ではその名を知る人も僅かとなってしまったトム・ドニファンの葬儀に駆けつけて来たところであった。
その男こそ「リバティバランスを射った男」である。
今やアメリカ全土でも著名人であるランス・ストッダートを取材する新聞社に応えて語る追憶の物語である。
随分と前に観たことがある映画であった。
印象に残っていたのは、まさに「リバティバランスを射った男」のシーンであった。
拳銃は素人のジェームズ・ステュアートが無法者のリー・マーヴィン向けて発砲するときにピッタリ合わせてジョン・ウェインが物陰からリー・マーヴィンを撃ち殺すところだ。
当時、わたしはどうしたって発砲の僅かな時間差があるはずだから、その銃声から少なくとも当事者ランス(ジェームス)は違和感をもつのでは、と思ったが、そのままで進展してしまう。
後で大事な局面で、トム・ドニファン本人が、ランスにその場面の真実を明かして殺人の重荷から彼を解いてくれる。
そこは、とても感慨深かったものである。
トイ・ストーリーのウッディにどこか似ているジョン・ウェイン。時折操り人形を想わせるところがある。(特に顔)。
出てきたときは何か苦手だな~と思っていたのだが、ランスの影武者をして、自分の力で切り抜けたな、と一言行って去ってゆく姿には痺れた。漢の中の漢だ(爆。そのあたりから彼の方に感情移入して観るようになった。
役によってはかなり抵抗を感じるものもあるが、この映画のジョン・ウェインは素敵だ。
(「ドノバン珊瑚礁」では、ジョン・ウェインとリー・マーヴィン共演であったが、わたしにとっての印象は両方とも最悪であった)。
しかし、相手がどんな人間であろうと、人を殺すということの重みがズッシリ描かれているものであった。
トム・ドニファンは結局その後の人生を棒に振ることになったではないか、、、。
ここは大きい。他の西部劇でここまで追求されたものがあっただろうか?
ジョン・フォード監督のものでも他にはないと思う。
あの行為は愛する女性の為だけのものであろうか、、、ランス・ストッダートへの共感なしには出来ないことに思える。
「サイコ」でジャネット・リーの妹であった、ヴェラ・マイルズの強く優しい芯の通った女性も魅力的である。
読み書きをランスから習おうとした時の健気さには、胸を打たれるものがある。
ふたりの男の間で揺れ動く女の気持ちをよく表していた。

大変な頑固者のランス・ストッダートは最後までバランスに法の裁きを受けさせようと頑張るが、言論の自由を死守しようとするダットン・ピーボディが襲撃を受け瀕死の重傷を負ったことから、銃でバランスに対抗しようする。
とてもアメリカ的に思えたが、実際にあの状況にいたら、誰かがランスにならざる負えなかったか?
如何にも彼は「アメリカの良心」の代表として描かれているように思える。
武力に訴えることをもっとも嫌った彼がそれを行ったことに、人は動かされる。
法による民主化路線も進む。
編集長ダットンも弁舌で熱烈に彼を応援するが、彼のこころを救い、前に進ませたのはトムであった。
トムから、彼が結婚相手と決めていたハリーも託される。
何枚ステーキを食えば気が済むのか(しかもツケで)という感じのリンクも面白い味を出していた。
しかしこれほど臆病で保安官が務まるものか、、、?
と言うよりどういう経緯で保安官となったのかそれが不思議である。
リバティ・バランスに怯えまくり、彼が死んだら急に威勢が良くなったのは何とも分かりやすい男だ。
トムのサポートに余念がなく、肝心な時に銃を向けているポンピーも重要な役柄であった。
常に時に応じた自分の仕事をしっかりしている人間である。
だが何と言っても、リバティ・バランスである。
これほど如何にも悪そうで、そのまま悪な男っているだろうか。
部下の一人が止めないと完全に死ぬまでムチウチしてしまう病的な悪だ。
(あの部下は実はこの男に付いて歩き、重要な役目を担っていた感がある)。
しっかり法がしかれる前(それは鉄道が敷かれる前でもある)は、こんな暗黒時代が続いていたのだろうか。
「最前線物語」の軍曹は、重厚で渋くて不死身だが、ここでは見事に撃ち殺される。
実際にこのような暴力のまかり通る時代を終わらせるには、ランスの導いた法による統治を推し進めるしかない。

この物語、人間が大変深く豊かに描き込まれている。
その上、ストーリー自体が素晴らしい。
異色の優れた西部劇だと思われる。
全編を通す追憶の美しさと哀愁が、これほど見事に描かれた映像は、なかなかないのでは、、、。
とりわけトム・ドニファンの育てていた(廃屋となった彼の家に育っていた)カクタス・ローズが愛らしくも哀しい。
わたしとしては、ジョンフォード監督映画では一番好きなものだ。
- 関連記事
-
- 大いなる男たち
- チザム
- リバティバランスを射った男
- 殺したいほど愛されて
- アフリカの女王