甘味な戦慄~ポール・デルヴォー

骸骨と裸婦
ポール・デルヴォーの部屋には、夜が更けると音もなく誰ともなくヒトが集まってくる。
集まったとは言え、誰が誰に話しかけると言うものではない。
今更何を話すと言うのか?
永遠のしじまのなか、銀の万年筆が床に落ちる音が響き渡る。
部屋は一層静まりかえる。空気と同様に。
白銀の照明は幾重にも柔らかく。
部屋の常連はいつだって、骸骨と裸婦たちだ。
デルヴォーの都市は夜半になると街の隙間に薄く現れる。
その都市の設計にはデ・キリコも深く関わっていたという。
言うまでもないが、デルヴォーはもともと建築家である。
アンドレ・ブルトンお墨付きの。
とは言え、デルヴォーはブルトンのことなど全く知らない。
部屋が歪んでいることに気づかぬように。
天上の高さなどいつでも変えられる。(誰でもヒトの頭蓋骨など知っている!)
甘味な戦慄
デルヴォーの都市は、はっきりと場所を占有していく。(ひとつの場所はひとつのものしか存在できない)
夢と現が入れ替わる。
ひとつの窓から甘味な戦慄が流れてくる。
夜の音楽には必ずなくてはならないもの。
彼らにとっての太陽は月である。
もう分かっていることだが、彼らは地下の住人だ。
無論、私と同じく。
今も全国のデルヴォーたちには骸骨や裸婦たちからTwitterやFaceBookからFollowが集まっている。
彼らの都市は賑わっているのか?
かなり昔、ゴーギャンがやってきたという痕跡が見られる。
マグリッドが暫く滞在したという噂はかなり信用に値する。
オットー・リーデンブロックが住民登録していることは周知の事実である。
彼は昨夜も大きな月の下虫眼鏡で瑪瑙を鑑定していた。
おっと、われらが日野啓三を忘れてはならない。彼はここの常連だ。
月の位相(時間を笑う)
ポール・デルヴォーの都市に住むことは誰にも簡単だ。
時間を捨てればよい。夢に生きればよい。
もともと彼らは生まれる前と死んだ後の存在。
間違っても霊界などと言う古ぼけた世界の住人ではないぞ。
かれらは誰よりもリアルだ。伸縮自在だ。
何が可笑しい?笑ったのはわたしか?
笑いは絶対零度に凍結する。
時計は12時10分を示している。
無記名の記憶のように。
鏡は壁に平らについている様相をして実は角度を好きに変えている。
それにしても表情豊かな骸骨と誇らしげな腰つきの裸婦であろう。わたしは上半身しか映ってない。
遠い港を予感させる線路(レール)。
そろそろ電車が来るころだ。彼女らはみな街路や階段に腰掛け待っている。
オットー・リーデンブロックが月の位相を調べている。

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訂正記事
実は、誰もがデルヴォー都市の住人であると信じて疑わなかったオットー・リーデンブロック氏は外部からの侵入者であることが分かった。常に都市の何処かに存在するオットー・リーデンブロックは最も有名な「侵入者」であった。
遍在する侵入者がこの都市にも存在した。彼のこの都市における位置付けについては当分宙吊りとなる見込みである。
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