寒い国から帰ってきたスパイ

The Spy Who Came in from the Cold
1965年
イギリス
マーティン・リット監督
ジョン・ル・カレ『寒い国から帰ってきたスパイ』(1963)原作
リチャード・バートン、、、アレックス・リーマス(イギリス諜報部員)
クレア・ブルーム 、、、ナン・ペリー(図書館勤めの共産党員)
オスカー・ウェルナー、、、フィードラー(東ドイツ、ムントの配下のNo.2の諜報部員)
ペーター・ヴァン・アイク、、、 ムント(イギリス、東ドイツの二重スパイ)
ルパート・デイヴィス、、、ジョージ・スマイリー(アレックスの親友のイギリス諜報部員)
「検問所」という境界は日本にはない。
とてもこの世離れした場所と言える。
ずっと待ちわびていた同僚のスパイが最後の「検問所空間」で、目の前で撃ち殺されてしまう。
そこは、物理的には地球の上なのだが、人間にとっては何処にも属さない場所なのだ。
そんな「境界」を巡る話だ。
「東西」、「社会主義と資本主義」などといってもどちらが、どちらということもない。
ほとんど似たようなものである。
主任の謂うように、どちらも冷酷非情さにおいては変わり無い。
ただ、厳然と「境界」だけがある。
命を賭けた越境行為があるだけ。
情報戦というより、そのゲームをより高度に複雑に維持し続けるためのゲームに白熱しているようだ。
ゲームのためのゲーム。
裏をかいたり、偽情報を見破ったりまことしやかに流したり、スパイを釣ってみたり、本当の情報を奪い取ったり、、、。
(勿論、今では更に巧妙な詐欺や裏切りやなりすましがウェブ上では行われているが)。
それが現実の場で、静かに淡々と行われてゆく。
間違っても派手なドンパチはやらない。
というより、やっては拙いのだ。絶対人の目に触れてはならない。
ここでもその失敗が尾を引いていた。
スパイは難しい役どころを引き受けて相手の懐に飛び込む。
アレックスの場合、もう役を干されて酒に逃げ、いつでも寝返りそうな元諜報部の取りまとめ役というもの。
(実際に東ドイツ諜報部にいるムントによって配下の工作員全てを彼は失っている)。
相手側としては、是非手に入れたい人材ではあろう。
痛い目に会いつつも首尾よく運んだかに見えたが、、、。
その後二転する。
目的はナチの党員で現在東ドイツの諜報部の権力者となっているムントをその配下の切れ者フィードラー の不満を利用して失脚させようというものであった。
しかし、その尋問の場にナンが呼ばれ、真の目的はムントの立場を守るために彼の画策に気づいたフィードラーを葬るものであったことが分かる。(ムントが二重スパイであることを突止めてしまったフィードラーをこそ葬るためのものであった)。
全てムント、弁護士側に情報~手の内は伝わっていた。
そしてこともあろうに拘留から彼らを解き、車と脱出経路を提供したのが何とムントであった。
ここで彼が完全にイギリス側スパイであることが判明する。
(ということはかつて彼の情報によって粛清されたアレックスの配下の工作員は単なる捨駒以外の何ものでもなかった)。
そして取引による脱出劇で、アレックスとナンは壁までたどり着くが、命の保証をされていたはずの恋人のナンは境界を渡ることが許されていなかった。
アレックスは、境界を跨ぎはするが、そこで一瞬スパイであることを忘れる。
呆然としながら撃ち殺されて下に落ちたナンの方に彼も降りてしまった、、、。
最後にアレックスも壁という境界で戸惑い撃ち殺される。
この映画は「境界」での「死」に始まり「境界」での「死」で終わる。
国家が幻想であることを思い知らされる映画であった。
古さなどは微塵も感じさせない作品である。
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