ボディ・スナッチャー/恐怖の街

Invasion of the Body Snatchers
1956年
アメリカ
ドン・シーゲル監督
サム・ペキンパー、ダニエル・メインウェアリング脚本
ケヴィン・マッカーシー、、、マイルズ・ベネル(医師)
ダナ・ウィンター、、、ベッキー・ドリスコル(マイルズのかつての恋人)
1973年の「突破口」は実に稠密に練り上げられた面白い映画で印象に残っている。
この映画もディテールまでよく工夫が凝らされていることに気付く。
救いのなさでは、1978年にリメイクされた「SFボディ・スナッチャーズ」の方が、強いが。
話は医者であるマイルズ・ベネルの驚愕の(荒唐無稽にしか受け取られない)独白の形で最初から最後まで進められる。
少年ジミーが恐怖にいたたまれず、走って逃げだすところから始まる。
その街では、一見集団ヒステリーとも受け取れる(主に医者からすると)人々の症状が診られるようになった。
自分の夫は成りすまし~偽物だ、、、など、家族の変質に不安にかられる人が大勢出てくる。
更にマイルズの病人が皆、急に治癒してゆく。病院がガラガラになってしまった。
不可思議で不安な空気がたちこめる。
エイリアンのアイディアが非常によい。
下手なエイリアンを出されるより、「目や鼻はあるが特徴がない。死体ではない。だが指紋もない。」
誰でもない。しかし夫にそっくり。というものなのだ。
これは名状しがたいフィギュアとしか言えない。
現代美術で言えば、フランシス・ベーコンの絵に近い。
不安と恐怖を絶対に拭いきれない何かである。
更にカメラ・演出の妙に、感心することしきり。
(効果音、音響などは、如何にもという感じが強く、少し笑えたが)。
エイリアンが今まさに目覚めんとしているところをその背景から驚愕の目で認める女性を同時に枠の中にみせる臨場感、、、。
高い窓から俯瞰する、早朝の広場のいつもと同じように見えて、実は発狂して凍てついた光景の長回し、、、。
終盤のふたりの逃避行で、ベッキーが清らかな歌を耳にし希望を抱くが、実際にマイルズが見に行くと鞘を孵化させる工場であった絶望的な有様。歌声はラジオからであった。この辺の最後の希望をへし折る演出はなかなかのもの。
そしてキスをした後、ベッキーの表情が洗い流され虚ろな顔となっており、マイルズの恐怖の顔との双方のアップの対照。
ベッキーはキスのあたりで一瞬図らずも疲れと睡眠不足から眠ってしまったのだ。
わたしも実感としてよく分かる。パソコンに向かっている最中にフッと眠ってしまうこと、、、(笑。
それから、、、ふたりが逃げる際に、無気力さを装って歩くところはかなりドキドキする。
この印象的なシーンは、SFボディ・スナッチャーズにも受け継がれていた。
ここにダンプに轢かれそうな犬が出てきて思わずベッキーが叫び声をあげてしまうことで、疲労を早める逃走がはじまる。
他いくつも、演出・カメラには感心する、、、。
窮地に立ったマイルズとベッキーに彼らは真実を明かすのだった。
彼らは宇宙から降って来た種子であり、ひとが眠っている間に記憶を吸収して入れ替わってしまう種族だそうだ。
植物の鞘の形状で持ち運ばれ、トラックなどで輸送されアメリカ全土(イコール世界中か)に行き渡る。
彼らは確信をもって「愛、欲望、野心、信念などない方がシンプルに生きられる」といったようなことを語る。
確かにシンプルかも知れぬが、面白くも可笑しくもなかろうに。
ベッキーは叫ぶ「愛のない世界になんて生きてゆけない!」
何にしても、眠ったところでおしまい、というのは最も辛いゲームであろう。
これには勝ち目がない。
ベッキーの「魂は死んでしまった」。
もはや完全な他者である。
(いくら造形的に生き写しであっても、やはり人は内面を観ているのだ)。
もう独りとなったマイルズは夜のハイウェイに逃れ、走ってくる車に助けを求める。
最初に見たジミー少年となって彼は狂ったようにハイウェイで人類の危機を叫ぶ。
しかしどの車も彼を泥酔者くらいに思って走り去ってゆく。
そうしてどうにか辿り着いた地の病院で冒頭からの話をし終えたというものである。
当然の如く聞いた誰もが信じようとしない。
だがそこに、トラックの横転事故のドライバーが運ばれてきた。
何やら妙な積み荷の中から助け出されたという。
その荷が巨大な鞘のようなものであったという報告がなされる。
「そのトラックはどこから来た?」「サンタミラです!」
マイルズの話を聞いていた警官が直ぐに表情を強張らせ緊急配備の指令を出す。
「SFボディ・スナッチャーズ」より希望のあるエンディングである。
マイルズとしては、ベッキーを失っており、もう夢も希望もないかも知れぬが、、、。

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