クロノス

La invención de Cronos
1992年
メキシコ
ギレルモ・デル・トロ監督・脚本
「パンズ・ラビリンス」、「パシフィック・リム」そして最近観た「クリムゾン・ピーク」の監督の初期作品だ。(第一作目か?)
わたしは、言うまでもなく「パシフィック・リム」がダントツに好きだ。
だが、この映画を観ると「パンズ・ラビリンス」や「クリムゾン・ピーク」こそがこの監督の描きたい本来の世界観なのかなと想う。
ちょっと、デヴィッド・クローネンバーグやデヴィッド・リンチをゴシック美学で塗り込めたような感触があり、「パシフィック・リム」が異色作だったように感じてしまう。
フェデリコ・ルッピ、、、ヘスス・グリス(古美術品店主)
ロン・パールマン、、、アンヘル(デ・ラ・グァルディアの甥の殺し屋)
タマラ・サナス、、、アウロラ(ヘスス・グリスの孫娘)
クラウディオ・ブルック、、、デ・ラ・グァルディア(死期の迫った資産家)
マルガリータ・イザベル、、、メルセデス(ヘスス・グリスの恋人)
ギレルモ・デル・トロ監督の源流と言えるか。
ガジェットに関しては、まさにそうである。
豪奢な金色の昆虫型。
ゼンマイを巻き腕などに伸びた針が徐に刺さると、その度に内部構造~カラクリが禍々しく映される。
密かな、それぞれの歯車の連動して回る動きと、何か不気味な有機体の蠢く様子である。
この造形に光源の分からぬ灯り、刻々と動く機械の歯車、、、これこそデル・トロ監督の原質~無意識に想える。
このディテールへの拘りが重厚さに繋がり、どっぷり真紅の風呂(笑、、、に浸かることができる。
(仮面ライダーのガジェットは余りに安っぽすぎる)。
ヘスス・グリスは何も変身しようとか、何かを望んだわけではないのだが、不死身となるガジェットを偶然発見し、それは鋭い針~昆虫の脚に刺されて痛いのだが、自身に試してしまった。
手に調度程よく乗るサイズの黄金の昆虫型のゼンマイ仕懸のガジェットで、作られたのは16Cだという。
世紀の掘り出し物には違いない。
しかし、その作用として身体が若返り活気づくのだが、喉が渇き血を見るとたまらなくなってきたのだ。
日光にも弱くなった。
明らかに、自身が吸血鬼化していることに気づく。
だが、そのガジェットを使う度に依存性が高まり、やめられなくなる。
(まさに麻薬中毒だ)。
おまけに、余命幾許も無い大金持ちのデ・ラ・グァルディアが、この昆虫の存在を、何十年も前に探し出した取り扱い説明書によって知っていたのだった。
彼は殺し屋の甥、アンヘルを使い、その本体を探させていた。
そしてついに古美術商のヘスス・グリスの店にそれがあることを知り、その像を手に入れたかに見えた。
だが、肝心のガジェットはヘススがそれから取り出して持っていたのだ。
それからというもの、彼はアンヘルに執拗に狙われ、何度も殺されかける。
普通なら間違いなく何度も死んでいるところだが、ガジェットを使っているため、不死の人となっていた。
しかし血を吸わないではいられない。これが不死の代償なのだ。
単に平穏無事に暮らさせてはくれないのだ。
口のきけない孫娘アウロラが次第に変わり果ててゆく優しいおじいちゃんを庇い労わり続ける。
「パンズ・ラビリンス」の少女オフェリアにも重なるところのある少女であった。
「パシフィック・リム」では、芦田愛菜の演じた少女か。
いや、ビクトル・エリセ監督のスペイン映画「ミツバチのささやき」のアナ・トレントだろう。
この幼気な少女の存在意義はとても大きい。
アウロラとヘススとの間の絆が暖かく淡々と最後まで伸びている。
対照的にアンヘルとグァルディアとの信頼関係ゼロの欲得の繋がりも続く。
アンヘルの暴力をひたすら受けるヘスス。
最後は、自分が死なないことを逆手にとった捨て身の戦法でアンヘルを撃退する。
しかし、血を啜ることに耐えられなくなった彼は、その吸血鬼転生ガジェットを石で叩き壊す。
それは取りも直さず、彼の死も意味する。
最後はベッドで最愛の孫娘と恋人のメルセデスに看取られて安らかに逝く。
その最後のベッドでの、引いた「絵」が大変美しい。
監督の残酷な運命の美学が強く打ち出された作品であった。
これは、以降の作品にも、より説得力をもって受け継がれてゆく。
わたしとしては、この監督に「パシフィック・リムーⅡ」を是非お願いしたい!
こちらの美学も半端ではなかった。