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羅生門

rasyoumon002.jpg

1950年

芥川龍之介 『藪の中』、『羅生門』原作
黒澤明監督

三船敏郎、、、多襄丸(悪名高い盗賊)
京マチ子、、、真砂(金沢の妻)
森雅之、、、金沢武弘(侍)
志村喬、、、杣(そま)売り
千秋実、、、旅法師
上田吉二郎、、、下人


平安時代。というか時代を超越した場所―時空に想えてくる。
羅生門の廃墟としか言えない凄いセットには、ひたすら圧倒される。
雨の降りを激しく見せるため、墨汁を混ぜたという話は大変有名。
それだけでなく、杣売りが森の中を歩き見上げると、木々の間から陽光が漏れ射してくる場面もインパクトを与えたシーンだと聞く。
「わかんねえ、さっぱりわかんねえ」の独白に繋がる迷宮入りも暗示しているものか。

森で起きた殺人事件。
検非違使の庭での関係者3人の証言が、土砂降りの羅生門で杣売りと旅法師により物語られてゆく、、、。
噺の聞き役として、豪雨の中飛び込んで来て羅生門の木材をもぎ取っては焚き火をする下人が加わる。

杣売りは森で、市女笠、侍烏帽子、断ち切られた縄、守り袋が歩くうちに現れ、最後に侍の死体にたどり着いたまでの目撃情報を騙る。他には何も見ていませんと、強調する。もじもじとても慎ましやかに述べる分、何かを隠している雰囲気満載。
そして以下、直接的な関係者からの各証言である。

悪名轟く盗賊の多襄丸は自分がその侍である金沢武弘を剣と剣の果し合いの末、殺したと偉そうに騙る。
森で昼寝をしていたら、そよ風が吹いたために、殺すことになった、などというフランス実存主義文学のようなセリフを述べる。
まるでカミユの主人公みたいだ。(ムルソー?)
そよ風のとき、すぐ近くを馬で通り過ぎた侍の妻の裾がたなびいたのに電撃的エロティシズムを覚えたようで、ここはロランバルトか。
自らの豪放さを演出するかのような語り口で、その気性の激しい短刀で刃向かう妻がますます気に入り、手篭めにした。するとその女はあなたか夫のどちらかに死んでもらいたい。生き残った方にわたしは着くと謂う。これまたギリシャ神話なら驚かないが、かなり究極的な提案をする。フロイトならどう分析するか?結局2人とも勇敢に戦い、自分がその夫の侍を殺すが、女には逃げられたと豪快に笑い飛ばしてみせる。この男、大変見栄っ張りで虚勢をはるタイプに見える。

真砂の証言だが、多襄丸は手込めにしたあとさっさと逃げてしまい、夫にすがるとその目にはわたしを蔑む冷たい光しかなかった、、、という詩的な表現で来た。なかなかの女である。女は兎角、創作は上手い。
殺してと頼むと気絶してしまい、気づくと夫に自分の短剣が刺さっているではないか、、、。その後自害しようとしたが死にきれなかったと。
しかし、これはすぐに杣売りが否定する。自分が屍体を見つけたとき、何も刺さってはいなかったと。
こちらの証言では、女は気弱なようにも窺えるが感情の激しさは見受けられる。そしてここでも自分が殺害したことを主張する。

何と殺された男の話を巫女を通して聴取するという、かなりハイパーな手段も用いる。
平安時代の奥深さを感じるところか。ちょっとわくわくするではないか、、、。
巫女が言うには、、、
真砂は手込めにされた後、多襄丸に慰められる。すると彼女はこともあろうに、どこにでも連れて行ってくださいと美しい表情で頼んだという。その上何とあの夫を殺してとせがんだと言う。これで一気に熱の覚めた多襄丸は、夫に向かって「この女を殺すか、助けるか、どうするか」と聞いた。
真砂は逃げ、武弘は彼女の持っていた短刀で自害したと。つまり自分で自分を殺害したということだ。
しかし、先に言ったように、短刀ではなく、彼は剣で殺されていた。

つまり、みんなが聞き手の下人の言うように、自分の都合の悪いところは隠して嘘をつくのだ。
だが、おもしろいことに、誰もが殺害を否定するのではなく、3人とも自分が武弘を殺したと主張している。
殺害の罪に問われてもなお、隠す何かがあるのか。
女と男の問題が絡むと、昼メロではないが、そちらが優先となるようだ、、、。

この後、飛んだ真証言が語られることになる。
下人に本当のところどこからお前は見ていたのかときつく問い詰められ、杣売りはとうとう白状する。
実は彼は3人の言い争いから見ていた。(関わりになりたくなくて検非違使に喋らなかったのだ)。
多襄丸は女に謝り、お前のためなら何でもするし何にでもなるからといった感じで非常に熱心に汗タラタラで口説いていた。
しかし真砂は無理だと断り、縛られた夫の縄を解く。だが、彼はこんな女のために命を張るのはゴメンだと決闘を拒否する。
そして何故自害しないのかと厳しく問う。これはかなり元々の夫婦仲が悪い感じが否めない。
多襄丸はいつまでも文句を言うなと言って去ろうとする。すると泣いていた真砂が急に高笑いをはじめ、夫ならこの男を殺してからそれを言うべきだと返し、多襄丸に対してもここから助けてくれるならどんな男でも良いと思ったが、お前も情けない男だと吐き捨てる。女の恐るべき底力だ。
そこで、2人の情けない男同士の体面を取り敢えずかけた、へっぴり腰の戦いになる。
先ほどの自分の証言の勇ましい果し合いではなく、本当に素人が刀をもって斬り合いをしたらこんなであろうと思われるリアルで無様な斬り合いが繰り広げられる。下手な腕自慢の侍の芝居掛かった斬り合いなどすっ飛ぶくらいの凄みで圧倒される。
結局、夫が死にたくないと言いながら刺されて死んだというではないか。

どんでん返しは続く。すぐ裏手で赤ん坊の泣き声がする。
下人は素早くそのうわ掛けの衣を剥がして奪う。
それを杣売りが強く咎めると、おれよりこの赤ん坊の親の方が悪い。だいたい手前勝手で何が悪い。生きていくためにはこうでもしなけりゃやってけない、と独自の現実主義の理屈を吐く。
逆に下人は杣売りを問い詰める。その螺鈿細工の高価な短刀はお前が盗んだのだろう。
これにはグウの音も出ない。完全に杣売りの偽善性も下人に晒されることになる。

「わしにはわしの心が判らねえ」と言いつつ、杣売りは「6人育てるも7人育てるも同じ苦労だ」とその子を引き取ることにする。
旅法師はあなたのお陰でわたしは、ひとを信じて行けると礼を述べる。
どうなのだろう、、、。少なくとも性善説を訴えるようなエンディングとは思えない。(授業か何かで最後に性善説の勝利なんだとか教えられた記憶があるのだが、、、)。
全ては、この崩落寸前という感じの羅生門のように覚束無い。
そこに女性の魔性が色濃く絡む。

モノクロで撮られたこの映画の重みは凄い。

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