海底2万マイル

20000 Leagues Under the Sea
1954年
アメリカ
ジュール・ヴェルヌ原作
リチャード・フライシャー監督
ジェームズ・メイソン、、、ネモ船長(権力を憎む天才科学者)
ポール・ルーカス、、、アロナクス教授(海洋学者)
ピーター・ローレ、、、コンセイユ(教授の助手)
カーク・ダグラス、、、ネッド・ランド(銛打ち名人)
マシュー・フィッシャーが少年時代愛した映画だと、どこかで読んだものだ。
プロコル・ハルムのハモンドオルガン奏者である。
あの寂寞感漂う神々しい音色はネモ船長への鎮魂歌か。
彼の作る曲もヴォーカルも、ひたすら清められようと上昇する青白い焔を想わせる、、、。
そういえば、彼らも海賊だった。
ノーチラス号のプラモデルとフィギュアはもっているが、地震のときに、何とそれだけひとつ下に落ち、先端部が折れてしまった。
接着剤で今はとめてある。それ以来置くところも変えた。
ノーチラス号を持ってるくらいだから、この映画は以前に観てるはずだが、、、ほとんど場面に記憶がなかった。
「ネモ船長と海底都市」と間違えていたかも知れない。
別に、ノーチラス号自体の造形の魅力で持っていても可笑しくない物であるが、、、やはり映画で観て買ったとは思う。
思っていたよりずっとトーンが暗く、内容的にも重苦しい映画であった。
全体にもっとファンタジックな記憶がある。
この映画、時折見る悪夢?に似た雰囲気なのだ。
ピーターローレが終始、ごく普通の感性をもった役をこなしているのも異様であった。
そして粗暴で無謀な行動を取ってかき回すネッド・ランドこれがカーク・ダグラスで癖が強い。
ジェームズ・メイソンのネモ船長は、適役であるがとても頑なで内向的で暗い。
特に掲げる理想と洞察は素晴らしいが重く、潜水艦という閉鎖空間をより加圧する存在でもある。
ポール・ルーカスのアロナクス教授は如何にもというか、解り易いノーマルな紳士であり知識人という感じであった。
ここでも、画期的な発明を軍事目的に利用しようという国家権力との闘いが基調をなす。
武力―管理支配を目論む体制に対する個の自由と解放を標榜する者たちとの対立は普遍的テーマなのか。
恐らくこの映画以降こういったテーマが根付いてゆくのだろうが、、、。
今日映画の基本テーマのひとつとなっている事は確かであろう。
特にここでは、偉大な発明を成し遂げたネモ船長が、かつて彼を地獄に突き落とした体制(権力)側の手によって殺され、結果的に研究・発明した成果まで爆破して消えたところに、限りない虚無感と哀惜の念が残る。
彼の独善スレスレの高邁な理想を追う姿と辛辣な文明批判の言葉に、妻子を殺した権力への憎しみも説得力をもって寡黙に表現されていた。
そう、巨大なイカとの闘いなどあっても、全体として静謐なトーンが流れていたのは、やはりネモ船長の存在が大きかったと言える。
また、暗い中でも海の広大な自然とその豊かな宝庫に対するロマンも語られており、外―陸に対する安らぎという価値―愉しみが描かれているところは救いであった。
船内の美味しいご馳走も全て海産物から作られているというのも、この日常の現実にも繋がってくるエピソードである。
細かい部分であるが、その辺の場面がネモ船長の理想の細部として現実感を加えてゆく。
船内のメカの魅力がまた大きい。
未知の動力源―エネルギーで動いている船であるが、稼働させる部品は19世紀内燃機関発明期のものという景観が何ともゾクゾクさせる。ボルトやナットもボコボコ打ってあり、Fetishな魅力に溢れる。大小幾つものレバー類もまたよい。
実は、ここが一番わたしの惹きつけられたところだ(笑。
やはり、面白い。
最近の激しいVFXの映画を見慣れてきた目からすると、とてもゆっくり平坦に話が流れてゆく。
その分、テーマに見合った重厚な印象を残すのだが、潜水艦内という息苦しさも増す。
そのため、軽佻浮薄で粗暴なネッドが余計なことをしたり、脱走を企てたりする。
これはある意味、ネモ船長が醸すペシミスティックな厭世観に彼のようなタイプがいたたまれなくなる生理的で無意識的な行動とも言えよう。
実際に、彼はノーチラス号及びその船員と本窮地もろとも海の藻屑にしてしまう行動を取る。
それにしても彼がノーチラス号の本拠地を記した紙を入れた瓶が、しっかり軍部の手に渡っているというのは、チョットすごい。
奇跡的だが運命的でもある。
この凡庸な精神が、新エネルギーによる人類の革命を打ち砕いたともいえるエンディングであった。
ネモ船長の研究にずっと興味津津であったアロナクス教授は、最後にこれで良かったのだ、みたいなことを言っていたが、わたしはひどく惜しい、取り返しのつかないものを永遠に失った気がした。
カーク・ダグラスめ!
いや、これは役者だった(笑。
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