オブリビオン



Oblivion
2013年
ジョセフ・コシンスキー監督・脚本
「忘却」か、、、。
トム・クルーズ、、、ジャック・ハーパー(元海兵隊司令官―”Tech49”)
オルガ・キュリレンコ、、、ジュリア・ルサコーヴァ(ジャックの妻)
アンドレア・ライズボロー、、、ヴィクトリア“ヴィカ”・オルセン(ジャックの仕事上のパートナー)
モーガン・フリーマン、、、マルコム・ビーチ(スカブのリーダー)
2077年という近未来の話。
異星人スカブの侵略があり、地球は何とか勝利するが、核戦争などで荒廃し、月も破壊され天変地異で地上に人類は住めなくなる。そこで、地球周回上にある一時的な避難ステーション「テッド」から、土星の衛星タイタンに人類は移り住んでいる状況である。
ジャック・ハーパーとヴィカは、地球上にたった2人だけ残されて、高度1,000mの上空から地上の監視をする役目に就いていた。
仕事としては、スカブの残党を抹殺するドローンの管理・コントロールと修理、海水の組み上げプラントなどの日々のパトロールである。
彼らはセキュリティーのため、記憶を消去されている。


ここでも記憶が大きく絡んでくる。
過去の記憶の断片が常に彼の脳裏を掠めていた。
大事な場所、同じ女性、彼女との印象に残るシーン、、、。それらは何度も回帰し反復する。
それが彼の無意識的な行動に少なからず作用してくる。
ヒト―生命にとって最も大切なものは、記憶―情報なのだ。
この映画は痛切にそれを語る。
彼は60年前の地球から飛び立った宇宙船が戻ってきて墜落したことを知る。
その宇宙船の生き残りの人間を、何とドローンが殺してゆく。
彼はその中の非常に印象深い一人の休眠カプセルの女性を助ける。
このことが彼の記憶の再生の契機となった。
フライトレコーダーを探しに事故現場に戻った直後、彼らはスカブに襲われアジトに拉致される。
スカブのリーダー、マルコムから全ての実情が明かされる。
恐らくジャックの記憶がある程度戻っていなければ、受け付けなかったはず。
スカブこそ、人類の生き残りであり、テッドこそ月を破壊し地上を滅ぼした敵そのものであった。
タイタンに人類は元々いない。
ドローンは単に人類を根絶やしにするための殺人兵器に過ぎなかった。
海水の組み上げはテッドのためのエネルギー供給であった。
ジャックやヴィカのクローン群を作ったのも、言うまでもなくテッドである。
(勿論、地球のひと組のエリートが選択された。だが、強い感情を伴う記憶は僅かに喚起された)。
彼は彼女が自分の妻であった事を思い出したところで、認識が180度転換した。
60年前に離れ離れになった妻と、いまや自分もクローンの中の一体である。
しかし、愛情―想い出だけは相互間に残っていた。
それが、全てであった。
だが、ヴィカにも記憶は残っており、ジュリアは彼をいつも自分から引き離す存在であった。
その彼女の透明な苦悩も伝わってくる。
ジャックとジュリアが共に終の住処にしようと語った湖畔の家で、あれはあなたの曲よ、と言われて流れたのがプロコルハルムの「青い影」である。このシチュエーションでアナログレコードで掛かるのだ、、、何と切ない(感情を揺れ動かす)、、、。まさにこれである。
>時間だとか
>場所だとかの
>文脈を超えた
>普遍的価値を内包しながら。
>一定の分野を
>突き詰める研究の背後にある
>知と感性の無限の広がり
>それは
>生の信頼へと
>私たちを誘(いざなう)う。
~エストリルのクリスマスローズより、引用~
これがまさに音楽である。
全てを内包し結びつけるものとは、、、。
マルコムとともにドローンのプログラムを書き換え、テッドに核弾頭がわりに送り込む矢先に、この計画は送り込まれたドローンによって、打ち砕かれてしまう。
そこで、遭難者の生き残りをテッドまで届けるという条件に乗り、爆弾を積んだ飛行艇でテッドの内部に入り込む。
その際、カプセルに入っていたのは、マルコムであり、勝ち誇った表情でジャックと共にレバーを押す。
大爆発を起こすテッド。墜落するドローン。
ジュリアは、ジャックお気に入りの自然の残る思い出の地にカプセルごと運ばれていた。
それから3年後、娘と共に暮らしているその場所に、立ち入り禁止(これによりクローン同士が顔を合わせる危険性がない)の放射能汚染地区で同じように仕事をしていた”Tech52”(ジャックのほかのクローン)がやってくる。ジャックが一緒に戦ったスカブの残党とともに。
”Tech52”も果たして彼が謂うように「自分」なのか、、、?
確かに記憶は残っている。
だが、これは問題である。
そうであって、そうではない、ものだろう。


非常に存在学的な示唆に富んだ名作であった。
インアター・ステラーと双璧をなすテクノロジーのメカニカルな精細な具現化が見られた。
細やかでスピーディな動きとともに、ディテールの追求も見事という他ない。
1000mの高さの基地、飛行艇、ドローン、バイク、テッド、、、これは2001年宇宙の旅のモノリスを想起してしまう程だ。
特に空間デザインのセンスが光っている。白を主調とした色調も含め。美術が際立つ。
是非もう一回、味わうように観てみたい気持ちにさせる。
哀愁のあるトムクルーズは、この作品が一番であろう。
2人の女性も、片や繊細で切なく凛とし、片や生命力と人間臭さを窺わせる美を発散していた。
モーガンは、いつもながらSF物語のリーダー役にピッタリである。
キャストは皆、適役であった。