ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書

The Post
2017
アメリカ
スティーヴン・スピルバーグ 監督・製作
リズ・ハンナ、ジョシュ・シンガー 脚本
ジョン・ウィリアムズ 音楽
メリル・ストリープ、、、キャサリン・グラハム(ワシントン・ポスト社主・発行人)
トム・ハンクス、、、ベン・ブラッドリー(ワシントン・ポスト編集主幹)
サラ・ポールソン、、、トニー・ブラッドリー(ベン・ブラッドリーの妻)
ボブ・オデンカーク、、、ベン・バグディキアン(ワシントン・ポスト編集局次長・記者)
トレイシー・レッツ、、、ベン・バグディキアン(ワシントン・ポスト取締役会長)
ブラッドリー・ウィットフォード、、、アーサー・パーソンズ(ワシントン・ポスト取締役)
ブルース・グリーンウッド、、、ロバート・マクナマラ(第8代アメリカ合衆国国防長官)
マシュー・リース、、、ダニエル・エルズバーグ(元アメリカ合衆国軍事アナリスト)
アリソン・ブリー、、、ラリー・グラハム・ウェイマウス(キャサリン・グラハムの娘)
キャリー・クーン、、、メグ・グリーンフィールド(ワシントン・ポスト社説編集)
ジェシー・プレモンス、、、ロジャー・クラーク(ワシントン・ポスト上級法律顧問弁護士)
ザック・ウッズ、、、アンソニー・エッセイ(ワシントン・ポスト顧問弁護士)
ジュディス・マーティン、、、ジェシー・ミューラー(ワシントン・ポスト記者・コラムニスト)
始まりからワクワクがずっと続く、とても緊張感溢れる作品である。
難解さは抑えてエンターテイメント性を大事にしているが、押さえるところはしっかり押さえている。
メリル・ストリープとトム・ハンクス。
「ペンタゴン・ペーパーズ」ときたらこのくらいのキャストでということか。
当時の新聞の印刷されるまでの工程の面白さがしっかり見られるのはとても素敵。
特に最後の立体的なループを感じる印刷シーンは一際美しい芸術作品にも見えた。

ベトナム戦争の泥沼化というのは、わたしにもイメージとして残るところがある。
ヒッピームーブメントとして。ドラッグ、サイケデリックロック,東洋趣味と瞑想、、、TVや雑誌で賑わっていたような。
何だかやる気あるのかないのか分からないような気怠い感じの人々と、、、
ベトナム還りの精神をやられてしまった兵士の悲惨で重苦しい印象も綯交ぜになっている。
「ペンタゴン・ペーパーズ」はアメリカのベトナムへの政治的および軍事的関与を記した極秘文書であり、このスクープは戦争の舞台裏を暴いたものとして大変なスキャンダルとなる。
ニューヨーク・タイムズの大スクープに始まり、すかさずワシントンポストも同じところから記事を入手し掲載する。
勝てないことが分かっていながら嘘を報告し続けただ戦争を長引かせた内容がズッシリと。47巻構成で文字数100万語。読み切れないわな。
その辺の顛末の描かれた映画。

当時、長引く戦争に辟易し疑問視する国民が増えて来たところに、「ペンタゴン・ペーパーズ」と来た。
こりゃ人々は怒るわ。デモをしたりヒッピーになって飛んでしまったり。
政府は、それ自体に重大な機密情報が含まれていたというほどのものではなかったが、機密文書の漏洩が安全保障の脅威に当たると言う認識でこれを厳しく追及しようというスタンスだったようだ。
ニクソン政権が記事を書いたニューヨーク・タイムズの差し止め要求を出すなか、ワシントンポストの社主キャサリン・グラハムは会社の経営を考え掲載するか踏みとどまるかの大葛藤となる。迷いに迷った末一大決心で掲載にGoサインを出すのだが、、、
その後の裁判で負ければ反逆罪で投獄となる大きな賭けである。
それ以前に、株式公開した直後に差し止めが決まれば会社は彼女の何度も口にしていた「緊急事態」だ。

この過程で、真実を世に出して会社と社員の生活をダメにするつもりかという派と偽りの戦争とニクソン政権を終わりにするためにも闘おうという派との間で対立する。一番苦境に立たされるのは、社主のキャサリン・グラハムに他ならない。
社員、顧問弁護士、政治家たちは只管自分の主張を繰り広げているばかり。基本そういうものだが。
彼女の鶴の一声で掲載は決まり、反響は大きく、他の多くの新聞社も追従する。
メリル・ストリープとトム・ハンクスの動き以外に印象的だったのは、ベン・バグディキアンであった。
彼は早い時点でこの重大機密書類を持ち出した人物を割り出していた。勿論、その友人は以前の仕事は辞めている。
ベンは盗聴の網を潜り彼とのコンタクトに成功する。隠れ家に置かれた膨大な書類の山に圧倒されるがそれを厳重に荷造りして飛行機のファーストクラスの座席を二つ取ってポストに持ち込む。
弁護士からはその情報の提供者などを聴かれるが答えない。しかしニューヨークタイムズと同じであることは告げてしまう。
これで彼らポストも同罪である。終始苦悩の表情でやるべきことを粛々とやっていた。
そして当のダニエル・エルズバーグであるが、書類を持ち出して守衛の前を通り過ぎる時、足を止め呆然と考え込む~いや考えるのではなくそこで躊躇するのだ。この気持ちとてもよく分かる。これ自体、勇気と決断の正義の犯罪行為とも謂えるか。

この書類を世に出して当然の追及を受けるが、、、
裁判には6体3で勝つ。
メディアは統治者に仕えるものではなく国民に仕えるものである、と。
これで新聞業界、ひいては報道の自由は、危機を逃れた。新聞業界全体が信用を高めた。
裁判所から降りて来る彼女を迎える人々は年齢層は違えど女性ばかりである。
戦争に駆り出された夫や兄弟の還りを待つ女性たちがこころから祝福していた。
メリル・ストリープだと殊更絵になるところ、、、。

物語の最後は、「ウォーターゲート事件」を匂わせて終わる。
ニクソンが、ワシントンポストをあらゆる場から締め出す電話を必死に掛けているところ。
自動ロックのドアの鍵の部分にテープが貼られ明らかに侵入者のいることが警備員によって通報される。
そしてエンドロールへ。盗聴工作であるが、それがあらぬかたちへ
(この後のワシントンポストの追及でニクソンは退陣に追い込まれる)。

夫の自殺で会社を引き継いだキャサリンを軽んじる周囲の大物に囲まれ、新たに株の公開や報道の在り方を巡る苦悩など、彼女の細やかな感情の起伏の分る繊細な演技は、物語に充分説得力を与えていた。
見応えのある映画であった。音楽はジョン・ウィリアムズ。聴かせる。
AmazonPrimeにて
