テーラー 人生の仕立て屋

Tailor
2021
ギリシャ・ドイツ・ベルギー
ソニア・リザ・ケンターマン 監督・脚本
トレイシー・サンダーランド 脚本
ニコス・キポロゴス 音楽
ディミトリ・イメロス、、、ニコス(高級スーツ仕立て屋)
タミラ・クリエバ、、、オルガ(隣の奥さん)
タナシス・パパヨルギウ、、、カラリス(ニコスの父)
スタシス・スタムラカトス、、、オルガの夫(タクシー運転手)
ダフネ・ミチョプールー、、、、ヴィクトリア(オルガの娘)
女性監督ならでは、と謂えるか、オシャレな映画である。音楽との絡みも良い。
(何故かおじいちゃんたちのスーツ姿がやたらとオシャレでないの)。

何より仕立て職人ニコスが実に味があること。首にいつもメジャー掛けていて粋。
存在感だけでもってゆく。そうミシンの存在感も半端ではなかった。
職人の採寸から始まる一連の丁寧な熟練作業も実に心地よい。
一念発起の仕事にプライドを持つ働くおじさんの噺。
不況の煽りで傾いた高級スーツ店の職人ニコスが待っているだけではダメという認識から、手作り屋台をSUZUKIのバイクで引いてゆく。お得意さんが皆鬼籍に入り、途中で父が倒れてしまい、50歳にしての奮起である。
しかし移動屋台で高級オーダースーツを注文する文化・伝統はギリシャにもなかろう。勿論、お宅に伺い採寸からの作業は丁寧に熟すのだが、道端で急に買う気になるものか。仕立てに時間と費用がかなり掛かるものであるし。
困っていると2階の窓からウエディングドレス作って貰える?と女性の声がかかる。
それまで女性ものは自動的に断って来たのだが、急にこれに賭けてみようと思い当たる。
男性スーツから女性のドレスへの(華麗なる)転身である(笑。

随分思い切った。しかし長年仕立て屋をして来た腕の良い職人である。
直ぐに女性ドレスをマスターしてゆく。
お隣さんのオルガも裁縫が得意で女性の服(普段着)作りを手伝ってくれる。
そして女性のドレスも普段着も思いの他需要があった。
ドンドン声がかかるではないか。

オルガとの共同作業も良い形で進む。
娘も彼によく懐いでいて良い雰囲気。
屋台はなかなか儲かる。
ギリシャの街並みと海のロケーションがこれまた映える。やはり光の国だねえ。
更に彼の佇まいが良い。
何と言うかがむしゃらに頑張ると謂うのではなく、仕事の一つ一つの所作が仕事を慈しみ愉しむ感覚に充ちている。
これだな、と思った。

ダンディなのだ。
スーツでもウエディングドレスでもプライドを持って仕立ててゆく。
しかしオルガとの共同作業が長すぎたのか、とても立派なウエディングドレスを仕上げた後、親密な関係になってしまう。
その前に素敵な浜辺でムーディーな時間を過ごしていたな。
翌日、それまでニコスに親しく接していた彼女の娘が明らかに反抗の態度を見せる。
店は銀行に差し押さえられ、その後入ってみると酷く店内を荒らされていた。
オルガは娘を取り、ニコスはワーゲンのワゴンに乗り換え、ウェディングドレス職人として晴れやかに旅立ってゆく。
(頑固な父からもウエディングドレスを見て「よく出来た」のことばをもらい自信になったはず)。

この格式や伝統を重んじる高級スーツ作りを父の代から続くしっかりした店でやって来た人にしてはフットワークが軽くて面白かった。
フットワークの軽さ。これとても肝心なところ。
品の良いコメディ感覚も散りばめられて、よい演出になっていた。
わたしに今一番、大切なのは、このフットワークである!
見習いたい。
新たなチャンスを掴むフットワーク。

ここに出て来るこまっしゃくれた女の子悪くないが、昨日のサーシャが余りに素敵だったので、イマイチ感をもってしまった。
大変細やかに煉られた素敵な映画であった。
この監督期待できる。
AmazonPrimeにて
