9人の翻訳家 囚われたベストセラー

Les traducteurs
2019
フランス・ベルギー
レジス・ロワンサル 監督・脚本
ダニエル・プレスリー、ロマン・コンパン 脚本
三宅純 音楽
ランベール・ウィルソン、、、エリック・アングストローム(出版社社長)
オルガ・キュリレンコ、、、カテリーナ・アニシノバ(ロシア語の翻訳者)
アレックス・ロウザー、、、アレックス・グッドマン(英語の翻訳者)
エドゥアルド・ノリエガ、、、ハビエル・カサル(スペイン語の翻訳者)
シセ・バベット・クヌッセン、、、エレーヌ・トゥクセン(デンマーク語の翻訳者)
リッカルド・スカマルチョ、、、ダリオ・ファレッリ(イタリア語の翻訳者)
アンナ・マリア・シュトルム、、、イングリット・コルベル(ドイツ語の翻訳者)
フレデリック・チョー、、、チェン・ヤオ(中国語の翻訳者)
マリア・レイチ、、、テルマ・アルヴェス(ポルトガル語)
パトリック・ボーショー、、、ジョルジュ・フォンテーヌ(書店経営者、アングストロームの師)
サラ・ジロドー、、、ローズマリー・ウエクス(アングストロームの助手)
マノリス・マブロマタキス、、、コンスタンティノス・ケドリノス(ギリシャ語の翻訳者)
『デダリュス』という(覆面作家の)ベストセラー小説の完結編の9か国同時発売のために9人の翻訳家を大邸宅の地下室に集め、一日20ページ(全480)ずつ翻訳させてゆくという何とも言えない設定。
海賊行為と違法流出を恐れるあまりこういうことになったそうで、実例もあるという(驚。
(何とあの『インフェルノ』はそうした過程で出版を見たそうだ)。
当然、彼らからはネットに繋がる携帯など禁物。入り口で全て取り上げられる。

毎日ネットにアクセスするのが呼吸するのと等しいわたしなど(多くのひと)は禁断症状が出るはず。
地下にはその分、シアタールームがあり、バーで呑んだりボーリングしたりプールで泳いだり、広い寝室で休んだり、高級ディナーを毎日食したり出来るのだが、2か月間の軟禁には違いない。しかし色々あって、そのまま翻訳が完了して本が出版される、でもドラマは幾らでも可能ではあろう。
そういう映画~物語も充分あり得る。
コメディでも行ける。作家たちの会話や各々の関係性やその深まり又は葛藤、軋轢、反発などドラマを生成して持ってゆくのや、、、
もっと膨らめた異化された形に発展させたり、、、小説の内容に即して彼らの話しも展開させてみるとか、、、色々と(笑。
だがここでは、ミステリーで死人(首つり自殺)も出て来る、飛んでもない修羅場へと直行となる。
「冒頭10ページをインターネットに公開した。24時間以内に500万ユーロの金を払え」といった脅迫メールが社長のもとに順次入って来るのだ。最後は全部流出させ8000万ユーロまで行く。株まで売って支払う羽目に。
当然、この邦訳家たちの中に、犯人がいるはずということで、皆が疑心暗鬼になり互いに攻撃的になる。
勿論、これだけの策を弄し完璧な環境を作ったはずが、原稿は流出、金は要求され社長は半狂乱となり怒りまくる。

わたし的に一番ショックだったのは、オルガ・キュリレンコが血迷ったアングストロームに撃たれたことだ。
あってはならぬことでその後、病室で酸素マスクをしてベッドに横たわる姿があったが、助かったのかどうかは不明のまま。
(それはない)。
彼女のプールでヒロインの気持ちを体感しようと底にずっと沈んだままでいるシーンは幻想的でこの映画で唯一美しい絵であった。そんなこともあり、撃たれるなんてあり得ないのだ。ホントに。
このような事態を生んだのが、この翻訳家たちの中にこの作品の原作者が混じっていたことによる。
なんなのそれ、である。
それがどうやらこの出版社のせこい社長に対しての復讐の為の行動なのだ。
彼が書いたのだから、原稿を盗み出すとかコピーしてWebにアップするとかするまでもなく、元々自分の部屋に在りそれを自動で脅しながらアップし続ければよいだけの話。

なのだが、奇妙に回りくどい単に鑑賞者にミスリードさせるためみたいな変な原稿の入った社長の鞄を電車ですり替えるみたいなシーンが盛り込まれる。
翻訳作業に入る前の時期のエピソードである。
これに絡んだのは、アレックス、チェン、ハビエル、イングリット、テルマ。つまり彼らは、翻訳で集められる前に知り合いであったことになる。
後日のアレックスとエリック社長の刑務所内のやり取りのシーンが何度も挟まれる。
どうやって小説を盗んだのかこれをエリック社長は聴きだそうとする。
翻訳家を監禁した罪とカテリーナへの傷害罪に加え、アレックスとの会話盗聴から警察はジョルジュ・フォンテーヌ殺害自白も得た。
この時、盗聴マイクを塞ぎ、何故あの段階で完結編の冒頭が暗唱で来たのかの問いに「それは僕が書いた小説だから」とバラす。
社長は、にわかにこれを信じなかったが、これで勝負がついた事となる。

『デダリュス』の覆面作者オスカル・ブラックであった初老の書店店主は、代役に過ぎずそこに遊びに来ていた若者、それこそアレックス・グッドマンであったのだ。
彼が書いた『デダリュス』という作品が余りに素晴らしく、店主は直ぐに出版の手続きをしようとしたが、それを断る。
それを惜しんで出版を勧める店主に対し、アレックスはあなたが書いたことにするなら構わないという。
単に自分の才能をあなたに認めて貰えれば結構、という。その経緯と真相は2人の間だけの秘密であった。
アングストロームは全二巻の出版を自社からしていることから当然完結編もと思っていたら相手は違う出版社から出したいと言い出す。彼の経営方針と翻訳者に対する扱いが気に食わないと。
アングストロームは、大儲けの金蔓が無くなるのを恐れ、彼を突き落として殺害し原稿を盗み店を燃やしてしまう。、
アレックスは、店主ジョルジュ・フォンテーヌの敵討ちに翻訳者に紛れたのだった。自宅から自動で脅迫メールを送り付け原稿をアップする設定をしたうえで。
ふ~んと思ったが、、、

何もオルガ・キュリレンコを撃つことは無かろうという、その一点に虫酸の走る映画であった。
U-Nextにて
