チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛

Tulip Fever
2017
アメリカ、イギリス
ジャスティン・チャドウィック 監督
デボラ・モガー、トム・ストッパード 脚本
デボラ・モガー『チューリップ熱』原作
ダニー・エルフマン 音楽
アリシア・ヴィキャンデル、、、ソフィア・サンツフォールト( 豪商の妻)
デイン・デハーン、、、ヤン・ファン・ロース(画家)
クリストフ・ヴァルツ、、、コルネリス・サンツフォールト(ソフィアの夫、香辛料の豪商)
ジャック・オコンネル、、、ウィレム・ブロック(魚売りの青年)
ホリデイ・グレインジャー 、、、マリア(サンツフォールト家のメイド、ウィレムの恋人)
トム・ホランダー、、、ソルフ医師
ケヴィン・マクキッド、、、ヨハン・デ・バイ(チューリップの取引業者)
ザック・ガリフィアナキス、、、ヘリット(ヤンの助手、アル中)
ジュディ・デンチ、、、修道院長
カーラ・デルヴィーニュ、、、アナジェ(酒場の女スリ)
フェルメールの絵画から着想を得た映画とくれば、見ない訳にはいかない。
で、観てみた。確かに色調や構図ともにフェルメールの絵作りを意識しているのは感じられる。
コバルトブルーのドレスも含め。あのラピスラズリの色なのだ。
ストーリーもとてもこってりしていて、見応えがあった。

球根ひとつの値段が邸宅一軒分というバブルには仰天した。
「チューリップバブル」という最古の経済バブルなのだ。17世紀オランダである。
チューリップの国とは言え、、、。
修道院育ちのソフィアは、香辛料で富を蓄えた豪商コルネリスと結婚し豊かな生活を送っていたが、彼が望む子供になかなか恵まれない。コルネリスは自分の築いた財産と名声を残す後継ぎを強く望んでいた。
夫に恩義を感じていた彼女も彼の子供が欲しいと毎晩お祈りを欠かさず務めていたがそのストレスもあったか時だけが虚しく過ぎてゆく。
そんな時、夫が夫婦の肖像画を描きたいと謂う。
この時期の経済力を蓄えた新興市民階級は皆その名声を誇る意味で肖像画をこぞって描かせたものだ。
フェルメール程ではないが、将来性のある野心的な画家ヤンを選び描かせるのだが、そこでソフィアと彼が恋に落ちてしまうのだった。

このコルネリス、大人物なのだが、今一つ人の機微に疎い。
色々と若妻の怪しい言動や気配が感じられる場面で悉く気づかないのだ。
とても立派な良い人なのだが、鋭さが窺えず、これでよく豪商になれたものだ、という感は拭えない。
彼の洞察通り、チューリップより香辛料の方が手堅く将来的にも安定していることは確かであったが。
この目先の「チューリップバブル」乗っかった若者にマリアと毎日逢瀬を続ける魚売りのウィレムがいた。
サンツフォールト家のメイドの彼女との結婚資金を手にしたかったのだ。
バブルのお陰で予想を遥かに上回るチューリップ投資が成功し金を手にするが、サンツフォールト家からガウンで身を隠し貧乏画家の家に浮気に走るソフィアを自分の愛するマリアと勘違いして酒場で呑んだくれることに。
しかし後ろから何度も声をかけて反応しないことに疑問も感じないというのが腑に落ちない。何故もっとしっかり確認せず諦めるのか意味が分からん。かなりのおっちょこちょいには違いない。
そして酒場の女スリに全額掏られおまけに周りの荒くれにボコボコにされ海軍に入れられアフリカに飛ばされる羽目に。
何と悲惨な奴だ。マリアは彼が訪ねて来ないことで悲嘆に暮れる。既に彼の子を妊っていたのだ。

そしてソフィアと熱愛の無名の画家ヤンも、「チューリップバブル」に乗っかる。
彼女を攫いインドに行くつもりである。何よりその為の金が欲しい。
途轍もない投資の種となるチューリップを修道院で大量に栽培、管理しているというのも凄い噺である。
修道院長がまさにマフィアのボスみたいな風格であったが、そんなオーラを持たないと務まるまい。
そして取引場の異様な熱気も狂気の沙汰に思える。
ここでも呑んだくれのヤンの助手が飛んでもないことを仕出かし、彼の財産は露と消えることに。
しかもマリアの生まれて来る子供を計画通りソフィアの子供として育てるのではなく、ソフィアは感染病で亡くなったことにして棺桶に入って脱出。金を得たヤンと共に国外へ、とは余りに虫が良い。
だからヤンが失敗して、ソフィアが自分の企てに慄き懺悔しようとする流れはよかった。
こいつら、一体コルネリスを何だと思ってるのか。ソフィアを亡くし悲嘆に暮れるだけで済まなかった。

そのタイミングで残されたマリアのところにアフリカ帰りのウィレムが戻り、誤解が解けて俺たちの子だと感動されても、コルネリスはどうするの、である。いいように騙され続けて最後に残された子供まで失うことに。
しかし何と高潔な男であろうか、マリアとその相手の男に、その邸宅と財産を残し、自分は身一つでインドに渡るのだ。
彼がその地で再び成功を手にしたので安心するが、ある意味飛んでもない噺である。
一番得したのは、他ならぬマリアである。今や大邸宅の女主人であり、夫と何人もの子供に恵まれた幸福な家庭のシーンが描かれる。
長女は元主人の謂う通りソフィアという名であった。(自分の子として育てられることは何より)。

ソフィアの方は修道女に戻り、その大聖堂の壁画を多少は有名になったものかヤンが依頼されて描いていた。
2人の目が合うが、死んだと思っていた彼女が生きていたことで彼はホッとした笑みを浮かべる。
デイン・デハーンって「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」の彼なのね。
主演女性二人が全くタイプの違う女優でコントラストが面白かった。
良い映画体験になったものだ。
U-Nextにて
