パラドクス

El incidente/The Incident
2014
メキシコ
イサーク・エスバン 監督・脚本
エディ・ラン 音楽
ラウル・メンデス
ナイレア・ノルビンド
エルナン・メンドーサ
ウンベルト・ブスト
マグダ・ブルゲンヘイム
どこがパラドクスなの?
原題は”The Incident”だし。
「ダークレイン」の監督である。
如何にもという感じ。
この人どうも生理的に苦手。
勿論、終盤でびっくりした。まともではないわ。

マンションの一室でカルロスとオリバー兄弟が何やら要領得ない噺をやり合っている。
そこに飛び込んで来た刑事マルコ。
兄弟は刑事に追われる形で非常階段へ、、、。
そこは非常階段であるが、まさにエッシャーの階段であった。
9階まで登ったら1階に来ている。1階に降りたら9階なのだ。
非常階段ループである。
これ距離を持って見られれば面白いと思う。
カルロスはマルコに撃たれた傷が元で死ぬ。
階段からは抜け出ることは出来ない(35年間そこに閉じ込められる)。
だが自販機からは、いつまでも水や食料が出て来て、飢えは心配ない。

家族が元夫の家に旅行に行く噺。
車で出かけ、どれだけ走っても同じ光景の道の間を移動しているだけ。一定距離から先には進まないのだ。
つまり目的地には到達しない。こういうのもエッシャーにあったかどうか。絵にすれば出来るものだ。
少年ダニエルと、妹のカミーラ、母親のサンドラと、彼女の再婚相手のロベルトは、多少のギクシャクはありつつ車で出かけるのだが、カミーラが喘息であり吸入器がないと旅行に耐えられないのに、その用意が無くパニックとなる。同時にループの道であれば時間的に非常事態だ。結局カミーラは亡くなり、親と新しいオヤジはほぼ恍惚の人に。ダニエルは別行動をとり、35年を過ごす。
ここでも途中の店とガソリンスタンドには、常に品物は追加され必需品に困る事は無い。
ただ、何処にも行けないのだ。
ここで非常階段と一本道で共通の悪い事態であるが、階段ではマルコがカルロスの脚を撃ってしまい、一本道ではロベルトが持っていた吸入器を道に落として割ってしまい、喘息に配慮したつもりがガヴァジュースが元でカミーラに発作が起こり苦しむことになる。
だが両者ともに何かに操られるような感覚でそれを行ってしまったという。あながち嘘とは思えない言い訳だ。
わたしもそんな経験は幾度もしている。
両方で聴かれる爆発音も気になるところ。

ふと介入する外的要因と言うものはあるはず。
それが運命を左右するスウィッチとなることもあろう。
そして閉塞空間に生物として閉じ込められた光景が廃棄物の山である。余りの説得力。
ここにはモルモットも車輪を回しながら登場するが、その荒涼たる光景は比ではない。
ハイウェイも車の車内もゴミだらけ、非常階段は壁に積み上げられた35年分の廃棄物が妙に綺麗に並べたてられていた(遺跡みたいに)。
勿論、歳を取ってよぼよぼである。ダニエルとオリバーはまだしっかり体の動く中年であるが。
マルコはこれまであった全てを絵に描き尽くしていた。アートとしても面白い。ロベルトの方も身体はまだ動くが酒ばかり呑んでいた。

当然、ロベルトを嫌っていたダニエルであり離れて生活をしていたが、20年間痴呆症であった母サンドラが亡くなり弔ふ目的で遭うことになり、そこで衝撃の事実が明らかとなる。
これには、ビックリした。
一本道で中年となったダニエルは非常階段のマルコ刑事ではないか。
死ぬ間際にロベルトもマルコもダニエルとオリバーに対し、この先絶対にパトカーとかエレベーターには乗るなと忠告していたが、、、
そう、ロベルトは以前ルーベンという名で筏の上で35年のループ生活を送った後の二度目のループであることを死に際に思い出したのだ(筏の上で35年は惨い)。
そしてマルコは、ダニエルであったことを告げる。

更に二人とも相手に、自分の名前を書き記しておけと何度も言って聴かす。
マルコ(ダニエル)とロベルト(ルーベン)が遺言を残して死ぬと、一見オリバーとダニエルはこの円環から解放されたかに思えたのだが、次の人生として第二期ループが作動するのだ。
道端に停めてあるパトカーに躊躇いつつも乗ったダニエルは、記憶がリセットされてマルコ刑事となってまた更に35年のループに入ってゆく。オリバーも躊躇ったが結局エレベーターに乗り、扉が閉まった瞬間頭がリセットされ、エレベータボーイとしてホテルに来た新婚夫婦をループに誘うのだ(堪らない、死にそう)。

もう気持ちが萎えて沈み放題沈む映画である。
ここのところ眠くて起きてられない状況なのに、こんなもん観てしまったら余計に起きてられなくなると言うもの。
もう寝るしかない、、、。エッシャーの作品に「囚人」があるが、まさにそれだ。
監督は、現実社会の暗喩だとでも言いたいのか。超脱できないわれわれの姿。分かるが、こう描かれると堪ったものではない。
ちょっと「ダークレイン」も捉え直した方が良いかなとも思えてくるが、また観たい映画ではない(これも含め)。
しかし一度は観る価値あり。これは是非。
AmazonPrimeにて