ヤン・シュヴァンクマイエル ファウスト

FAUST/Lesson Faust
1994
チェコスロヴァキア、フランス、イギリス
ヤン・シュヴァンクマイエル 監督・脚本
アンドリュー・サックス、、、声
ピーター・セペック
ヤン・クラウス
ヴラディミール・クドラ
プラハが舞台。
謎の地図を配布している怪しい二人組。
最初は無視したが、何となく気になりその地図の示すところに行ってしまう男。

そこは劇場であり、人と操り人形が両方出演する題目をやっている、みたい。
また、観客席に客が集まっているのだが、バレリーナとかオペラの歌手とかは、農場で演技している。
どうなっているのか、劇場の構造がそもそも掴めない。
だがそういった展開はずっと続くので、そういうものかと観てゆくことは出来る。
粘土アニメーションと大き目のパペットが主人公の人間~男と絡んで展開する。
かなり複雑な作成形式だ。真似しようとして出来るものとは思えない、やってるのはこの監督くらいだろう。
粘土造形とパペットと人間が同一空間上で不思議な調和の元、物語を紡ぐだけでもう唯一無比の作品である。
ホントに独特の流れを生む質感だ。

上演されているのは『ファウスト』である。
その男は何をやってる人かは明かされないが、楽屋?で自ら『ファウスト』博士の衣装を着こんでメイクもし、客の前に立ってみたりする。
だが場面はコロコロ変わってしまう。
変幻自在な変形と動きが特徴の粘土に合わせて流れてゆく。
更にデカいパペットが不気味だがコミカルな動きをする。
特に何処か森の小路をゴロゴロ首が転がって来て舞台の体と合体するパペットが面白い。
メフィストフェレスと天使だろうか。
小さな使者も沢山連れて来て、操るのは難易度が高そうだが、日本のロボットアニメも彷彿させるところがある。

カフェ?に入った男は例の怪しい二人組が(わざと)置き去りにした鞄を奪い、中の道具や魔法陣を使ってメフィストフェレスを地獄から召喚し、血の契約をルシファーの許しの元、交わしてしまう。
24年間はわたしの下部として働き、宇宙の真理をわたしに教えろと迫る。
怪しい二人組の男が、そのファウストとなった男に何かと付き纏う。
カフェテラスみたいなところで店員をしており、男に色々と不思議なサービスをする。
面白いのはテーブルをドリルで穴を開けさせると、そこからワインが噴き出るものだ。
この時、人の千切れた片足を持って黒い犬に追われる老人に出逢う。
その老人の逃げてゆく流れで何故か男はファウストの舞台に立つことに。

ここで男も木の人形をプラグスーツみたいに着せられ人形のように動く。
男はファウストとなり、天国や地獄を行き来して経験するが、、、
直ぐに悔い改める。
だがそんな時、もう地獄へ引きずり込まれる時が迫っていたのだ。
人間と悪魔は時の数え方が違う。
まだまだ色々宇宙の真理に触れられると思っていたのだが、それ程のものではなかった。
特に天国は全く期待外れ。メフィストフェレスにも大いに幻滅し契約したことを後悔する。
変な知識欲を持たずに、余計なことをせず食って寝て暮らすことが肝心というメッセージには今更同意しかねる(笑。
天国よりは人間の世の方が快適だみたいなことを謂っているのだ。

男は、契約自体を反故にする気になり、屈強の男を金貨2枚で雇い、悪魔の召喚から逃れようとする。
だが、メフィストフェレス一行には歯が立たず、2人の力自慢の男も燃やされてしまう。
男はファウストの衣装を脱ぎ棄て、懸命に街を逃げてゆくが、道路を横切ろうとした時に無人の車に轢かれて死ぬ。
人の脚を集める老人に彼の脚も引き抜かれ奪われる。
わたしとしては、メフィストフェレスと天使の登場する場面で、決まって森の小路を双方の首がゴロゴロと斜面を転がって何故か街中の劇場のパペットの体と連結するところが面白かった。
まるで日本の合体ロボである。しかも小型の使者も引き連れて来る。
それから魔法陣の中で身を守りながら悪魔を呼んだり去らせたりを呪文で何度も繰り返して疲弊させたりする、まるでドリフのコントみたいな場面もあり笑えた。
兎も角、アニメーションと人形劇と人による実写の融合劇を堪能すればよいという映画であろう。
唯一無比の貴重な映像体験となった。
面白い感覚である(特にあの異次元から転がって来る天使と悪魔の首が何とも言えない)。
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