もらとりあむタマ子

2013
山下敦弘 監督
向井康介 脚本
前田敦子、、、坂井タマ子(ニート)
康すおん、、、坂井善次(父、スポーツ用品店経営)
伊東清矢、、、仁(中学生)
富田靖子、、、曜子(アクセサリー教室の先生)
鈴木慶一、、、坂井啓介
中村久美、、、坂井よし子
東京の大學を出て、実家の甲府に戻り、モラトリアム生活をダラダラ送る23歳女子がヒロイン。
脱力の極致を生きるが、世相に対し文句を言い、父の忠告とかには直ぐに切れる。
だが共依存の体質が見て取れ、四季を通して描かれるが、円環的に閉じている。どこかで踏ん切りをつける必要あり。
そんな感じで観る者をズルズル引っ張って行く映画。

まあ、こんなに食べるシーンの多い映画は初めて観たかも。
ひたすら普通の食事を食べてる。それでこの父娘の家庭を実感させるとても上手い演出~運び。
この流れで、生活がいつまでも続いて行く(危うさを覚える)。
TVを観ながら「ダメだな日本は」とか言って、一日中、喰っちゃ寝て、漫画読んでゲームをしてはゴロゴロしている。
服装もそれでも年頃の女子かと言いたくなるようなもっさっとしたものばかり。
就活もしない。家事もやらない。食事作りは父が好きでやってるようだが、洗濯した下着まで父に干してもらっている。
一度、あまりの為体に父が切れて「いつ就活するんだ」と怒鳴ると、「その時が来たら動く。今はその時ではない」ときっぱり宣言する(笑。
なかなかのねーちゃんだわ(爆。

その後、特に何があるでもなく、写真館の中学生との微妙な絡みがやたらと擽ったい。
一回だけ、父に秘密で何かのオーディション用の写真を写真館の主ではなく中学生の息子に撮らせる。秘密だぞと睨んで。
それくらいか、主体的に動いてみせたのは。
このふたりとのやりとりが殿しいのと、父との関りからお互いに離れたくないのだなというのも分かり趣深い。
わたしも完全に娘たちと別に暮らすとなると淋しいことだろう。
そして父の再婚相手候補のアクセサリー教室の先生に父の悪口を喋るところはホントにリアルで面白い。
この映画、ぼそっとした喋りが絶妙。

そういった雰囲気が心地よくて見入ってしまう映画である。
前田敦子をはじめキャストが皆、嵌っている。
特にタマ子と中学生の関係は美味しくて笑えるのだ。
彼には途中までいつも共に行動する彼女がおり、タマ子に呼ばれて頼まれた仕事を請け負う際、彼は彼女に対し「あの人友達いないから」と耳打ちしている。これには爆笑した(中学生からも上から目線で見られている)。

季節ごとに自堕落生活のパタンが描かれているのも楽しい。
理容室でヘアのセットを頼んだが自分が思い描いた雑誌のモデルのヘアスタイルとかけ離れていて、更に無気力感アップのところなど、細かい見どころが沢山。
実際、AKBの頃は、物凄いハードスケジュールを熟すアクティブな生活をずっと続けて来た彼女であろう。
自分が生きてこなかった全く違う生活リズムを演じるのも新鮮であったのでは。ファッションからしても(爆。
思い切りグウタラ人生をこれでもかという程やってみて彼女も楽しかったのではなかろうか。
特に凄いと思ったのは、最後の中学生とのスティックアイスを食べながらの会話である。
この喋り方は、アイドルから限りなく遠い、もうホントのグウタラ喋りでありここは何度聞いても楽しい。
そして中学生から彼女との関係が自然消滅したと聞いて、久しぶりに「自然消滅」聞いた、というのも笑った。
丁度、前の晩に父から「家を出なさい」と言われ、彼女もこれには全く口答えせず「合格」と父に返す。
中学生からどこ行くのと聞かれ夏が終わったらどっか行くでしょ、と答える。適当。

何が起こるでもなく、急に行動を起こすでもなく、突然覚醒するでもない、重い現実が軽妙に描かれていて好感を持った。
実際、わたしも一生、モラトリアムで終わる気がしている。
そう、何をやってもモラトリアムに過ぎない。
そんなものだと思う。
観て損はない面白い映画であった。
と謂うよりお勧め映画である(最近の邦画では珍しく(笑。
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