斜陽のおもかげ

1967
斎藤光正 監督
太田治子 『手記(十七歳のノート)』原作
八住利雄 脚本
吉永小百合、、、木田町子(女子高生、太宰治の遺児)
新珠三千代、、、木田かず子(町子の母)
岸田森、、、谷山圭次(太宰文学のファン、町子の彼氏)
芦田伸介、、、谷山進一郎(圭次の父)
高杉早苗、、、谷山千賀(圭次の母)
笹森みち子、、、岡見安子
北林谷栄、、、つる(太宰の幼少期の子守)
三津田健、、、津田文蔵
藤田けい子、、、津田千代(文蔵の妻)
藤田尚子、、、津田正子
鈴村益代、、、おたつ
相原巨典、、、試験主任
玉村駿太郎、、、試験員甲
広瀬優、、、試験員乙
日色恵、、、田中貞次郎(太宰の友人)
小池朝雄、、、ジャーナリスト
「斜陽」は中学の時、読んだだけで、全く頭の片隅にも残っていない(爆。
太宰の本は高校の初めの頃に固めて読んだものだが、、、。

太宰治の遺児という立ち位置は複雑だろうな、と思う。
絵的には吉永小百合と新珠三千代の娘と母。大学生、岸田森と女子高生、吉永小百合のカップルは、共に文学的で良い(笑。
太宰が入水自殺した場所の上流を町子と圭次が散策する場面など、何とも言えない。
町子は綺麗で明朗で人気者であったし、かず子も会社のまかない婦仲間から「斜陽さん」と明るく親し気に呼ばれ共同体の中に居場所はしっかり持っている(斜陽さんと親しまれているというのも実に微妙だ。太宰にとり彼女は愛人であり娘も作りながら情死した際の相手は違う女であった)。
町子は父の文学を信じ、好きだと言っているし、母は父の文学に対し尊敬の念しかない。
これで良いではないか、と思うところだが(経済的には随分苦労して来たようだが)、いざ就職試験に行くと太宰のお妾の娘だと試験管にひそひそ噺をされて結局落とされ、付き合い始めた圭次の母からは思い切り嫌みを言われ交際は諦めるようにあからさまに釘を刺される。
この恋愛感情が芽生えてからというもの町子の気持ちは揺れ動き始める。

自分の中で、其れまで通り、父を尊敬し作品が好きだという一途なスタンスではいかなくなる。
わたしは疎まれて生まれた子供に過ぎない、母は父との愛に確信を持っているが実際のところどうであったのか、その流れで作品自体に対する疑問も湧いて来る。
谷山圭次は一貫して太宰文学を称賛し、彼女の母をとても立派だと敬っていた。
(彼は町子の高校のOBで山岳部のコーチでもある)。

その圭次がかつての仲間と登山に向かう(再生と言うかイニシエーションにも想える)。
兄が山で亡くなってから彼はずっと遠ざかって来たのだが、両親が何かと彼に干渉し、町子との付き合いも否定して来ると彼は自分に課した禁を破り、山に入るのだった。
時を同じくし、町子は父の生まれ故郷の津軽を訪ねていた。
この津軽の地が厳かで実に趣深い。つるの案内で父をよく知る人と何人も話す機会を得る。
風土もそうだが、登場人物がそれぞれに味がある。皆、文学的な人ばかり(笑。
壇一雄が本人役で登場し、町子に父の想い出を独特の口調で語って聞かせるシーンは教養番組のドキュメンタリー風でちょっと笑えた。
巨石を小高い丘に引き上げて作った蟹田観瀾山公園の父の文学碑には、佐藤春夫の筆による「かれは人を喜ばせるのが何よりも好きであった」が彫られている。太宰治の生家が「斜陽館」として保存されていることなども知った。イタコも観られる河原地蔵でのシーンなど結構その意味でも価値があるものだ(そう斜陽の中の文章の朗読を母娘でしていたり)。
、、、吉永小百合の太宰治聖地巡りとかいうNHK番組が一本出来そう(今作るなら芦田愛菜と巡る、であろうか(笑)。

それにしても当時もいたのかと思わせる芸能記者みたいな怪しいジャーナリストが、危うく津田正子と木田町子を無理やり引き合わせようとしたところは、スリリングに感じた。一番この物語で町子が傷ついたところだ。
だが津軽での経験と圭次の遭難の電報で飛んで帰った山での奇跡的な彼との再会(亡くなったのは圭次の相棒の方であった)で彼女は覚醒するものがあった。
母かず子が「生きていてよかった」と二人に対して語ることばに全てが収斂されてゆく。
東京に戻り、町子は母に生まれて来てよかったと泣いて縋る。
「斜陽」もう一度、読んでみたくなった。
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