ユーリー・ノルシュテイン傑作選

Masterpieces of Yuri Norstein
1968
ロシア
ユーリー・ノルシュテイン 監督・脚本・製作・撮影・編集
驚いたが、これに対し何をか言える言葉をわたしは持たない。
AmazonPrimeは、こういう途轍もない作品が観られる点でとてもありがたいと思ったりして。
一言だけ謂わせてもらえば、キャラクターがどれもとても可愛い(笑。動きも実に繊細で愛らしい。

セルロイドに緻密に描き込まれた切り絵によってこれほど自在な表現を生むことに驚愕するのみ。
作家独特のモンタージュ技法が多用される。
(恐らく彼独自の秘技が幾つもあるはず。細かいエフェクトだけでなく、この奥行きの深さ、画面深度にも、光にも)。
CGアニメーションは嫌いだそうだが、この作風を観れば分かる気がする。
何と言うか生々しく克明な夢を見ているようで、作り物感がほとんどしない。
凄まじい熟練した手作業を介した結果であろうが、、、。
リアルなCGよりもその本質的なイメージの表出によって、とても自然に感じる。
(ハリネズミは、ホントのハリネズミよりそれっぽい)。

「25日・最初の日」
「ケルジェネツの戦い」
「キツネとウサギ」
「アオサギとツル」
「霧の中のハリネズミ」
「話の話」
以上6篇が観られる。
どれもが切り絵モンタージュによるものであっても作風が大きく異なり同じ作家が作ったと思えぬような出来栄え。
どれも驚くべき豊かで多様な表現を実現している。
しかしこの作家からしか生まれないものであることもはっきり分かるものだ。
なかでもルドンの絵のようなプリミティブな怖さを漂わせるアニメに特に惹かれた。
それから霧の空間表現はもう夢か現かトワイライトゾーンかという感じで見事としか言えない。
(幼年期の夢に邂逅するような感覚か)。

これまでCG以外の特殊技術を用いた優れた高名な映像作家の作品は幾つか観てはきたが、これほど直截的な表現には出逢ったことがない。
影絵なら影絵の表現として、粘土なら粘土の表現としてその巧みさに驚きつつ鑑賞してきたが、これは切り絵として鑑賞する余地すらなかった(観た後でAmazonの解説で初めて切り絵であることを知ったものだ)。
イメージが免疫の拒絶反応なしにスッと受け入れられる、そんな感じ(iPS細胞か(笑)。
説得力が確かで不自然さが微塵もないのだ。どんな動きにも、些細な表情にも。
革新的と謂えるが、方法論~手法というよりこの作家の生理なのかも知れない。
対象化~分析しきれないような。
だとすると後継者は無理か。天才職人みたいな人かも。

これまで、シュルレアリスム調に、根っこのない偽イメージの氾濫した無責任な映像がよくあった。
自己主張と謂うより自己顕示欲だけで作っているような、、、
これは作家自身がもう投げやりになっている場合もあるから、どうでも良いのだが。
不思議にカルト作品みたいに珍重されていたりする場合もある。
勿論、この作家には全く関係ない世界である。
本当の本物というのは、こういう作品に対してはじめて謂えるものだ。
しかし凄い作家がいたものだ。キャラクタ造形だけでなく、脚本・演出も実に巧み。
男の子が烏と一緒に木の上でリンゴを齧るシーンの反復と置き方など感覚的に絶妙なのだ。
まだまだ、色々と映画は観て行く価値はあるなと思った(いつ切り上げようかと思いながら毎日観ているのだが(笑)。

一回観ただけでは、どうこう言えない。
ことばが追い付かないので、また暫く後に観直したい。
(ここのところ、観直したい作品が幾つか出て来た。沢山観るより良いものを何度も観る方が豊かな経験かも)。
この作品に関して正面から書く機会はそのうちに持ちたい。
ユーリー・ノルシュテインというロシアの作家の名前は憶えておかないと。
なお、この傑作の完全修復は日本で日本人スタッフにより成し遂げられたそうだ。良い仕事だ。
AmazonPrimeにて