マーズ

Settlers
2021
イギリス、南アフリカ
ワイアット・ロックフェラー 監督・脚本
ニティン・ソーニー 音楽
ソフィア・ブテラ、、、イルザ(レミの母)
イスマエル・クルス・コルドバ、、、ジェリー(イルザ母娘のコロニーの先住者)
ブルックリン・プリンス、、、レミ(イルザの娘、少女期)
ネル・タイガー・フリー、、、レミ(イルザの娘、思春期)
まさにとても荒廃した地での「入植者」のありさまである。
3つの章に分かれているが、ひと連なりの物語。特に3章仕立てにする必然性を感じないが。
これも静かに展開する孤独で殺伐とした物語と言える。

本作の火星では、人類の居住地域全体にシールドが張られていた。
そこでは普通に外に出て豚や鶏に餌をやったりの地球同然の生活が送れる。
気温も天候も安定していて激しい砂嵐もなく、どうなっているのかと思って暫く見ていたが、、、そういうことだった。
レミが臍を曲げてシールドの外の世界に通じるトンネルに入って息が苦しくなり気を失い、それが分かった。
何故、これほどのテラフォーム空間を作っていて、今のような荒廃し殺伐とした環境に成ってしまったのかは語られない。
ともかくコロニー施設を巡って殺し合いをしているのだ。
一体どうなっているのか。人が極少ないのだから猶更である。

コロニーは荒れ果てリソースの奪い合いと憎しみが渦巻いている情景はよく描かれていた。
突然襲い掛かって来る者たち。
それらを撃退するが、父親も銃撃戦で命を落とす。
その後、以前このコロニーに住んでいたジェリーが帰って来て、共に暮らすようになる。
どうやら火星ネイティブと地球からやって来た余所者の間での抗争も起こるらしい。
何故それが起こるのかの説明はない。単なる余所者というだけの差別にしては説得力がない。
娘は失った父への思いが強く、ジェリーは全く受け付けない。
代わりにジェリーが起動させたロボット(初期の開発用であろう)がお気に入りとなり、スティーブと名付け心の支えとなる。
イルザもこの住居をかつて自分が住んでいたものだと主張するジェリーの存在を疎ましく思っていたが、生活をするうえで協力関係は不可避的に生じ、その過程で徐々に気を許してゆく。
これは自然な事であろう。生活を営む上で人の手は頼もしいものだ。愛着も生まれて来る。
しかしそれに強く反発する娘のレミはついに家出までして、シールドの境界のトンネルに入ってしまう。
途上で気を失っているところを助けられたが、反発は激しさを増す。
或る日、母が娘の身を案じ元の住人であるジュリーを殺そうとするが逆に殺される。

その後も、美しく成長したレミとジュリーの生活はずっと続いていた。
但しレミはジュリーとほとんど話を交わさず、冗談を言っても笑うことは少なかった。
しかしジュリーはレミとの距離を詰めて来る。
彼女はそうした関係は受け入れない気持ちは変わらない。
迫るジュリーに激怒して興奮する彼女を縛り付け、噺を冷静に聴くように諭す彼であったが、それをレミへの暴力と受け取ったスティーブがジュリーを撃ってしまう。ジュリーも撃ち返しスティーブを破壊する。
深手を負って手当に行くジュリーを彼女は問答無用で射殺する。
(この物語は直ぐに射殺である。何か西部劇の殺伐としたものを観る気分だ)。
メカに強いレミは、スティーブを生き返らせる。
しかしどうやら火星に生存する人間は、レミだけになってしまったような雰囲気が漂う。
スティーブに別れを告げ、再びトンネルに入りガスマスクを付け、向こうの世界に出る。
そこは生の火星が剥き出しになっており、人の生きられる場所ではなかった。
レミの後ろで扉が閉まる。
もう戻れないのなら酸素ボンベの続くまでの命だ。
(事前に何も調べず、共存者を殺して、外界に飛び込むとは、無謀としか考えられない)。

レミの頑なな気持ちや短絡的で性急な判断や行動は、やはり若いうちの反抗期に見られるものである。
もう少しジュリーとレミは距離を持ちつつ共存できなかったのか。
とりあえず現状から言って、そういう協定を結べば良いことではないか。
ジュリー自らの謂うように時間はいくらでもあったのだ。
何を焦る必要があろうか。
(親戚くらいの関係には成れたと思うが)。
ネル・タイガー・フリーは、「オーメン」前日譚の主演が決まっている。
とても凛々しい女優で間違いなくブレイクするはず。
幼い少女期のブルックリン・プリンスも上手い子役で、芸達者であった。
ソフィア・ブテラとイスマエル・クルス・コルドバも渋い演技で申し分ない。
静かなSF映画をふたつ続けて観た。
Wowowにて