イン・ザ・ハイツ

In the Heights
2021
アメリカ
ジョン・M・チュウ 監督
リン=マニュエル・ミランダ 原作・作詞・作曲・製作
キアラ・アレグリア・ヒューディーズ 脚本
アンソニー・ラモス、、、ウスナビ・デ・ラ・ヴェガ(食料品店店主)
コーリー・ホーキンズ、、、ベニー(タクシーの配車係)
レスリー・グレイス、、、ニーナ・ロザリオ(スタンフォード大学生)
メリッサ・バレラ、、、バネッサ・モラレス(サロン従業員、デザイナー志望)
オルガ・メレディス、、、アブエラ・クラウディア(街の皆の育ての親)
グレゴリー・ディアス4世、、、ソニー・デ・ラ・ヴェガ(ウスナビの従弟)
ジミー・スミッツ、、、ケビン・ロザリオ (ニーナの父、タクシー会社経営)
マテオ・ゴメス、、、アレハンドロ(ウスナビの会計士)
オリヴィア・ペレス、、、アイリス・デ・ラ・ヴェガ(ウスナビとバネッサの娘)
リン=マヌエル・ミランダ、、、ピラグア売りの男
主人公ウスナビが幼い子供たち(彼の娘も含む)に彼の大切な御話を音楽で語って聞かせる、、、という形式。
充分、詩的に語られていた。
見応えある映画である。歌とダンスがたっぷり!サルサとヒップホップが目立つが、じっくり聞かせる曲も。
(これで生きる活力を得るんだとよく分かる)。
しかし、民衆過密映画だ。コロナ期に突入してどれくらい経つか、、、過ぎ去ったあの日の記憶みたいな、、、感もある。

コーリー・ホーキンズと言えば、あの強烈な「ストレイト・アウタ・コンプトン」のドクター・ドレーではないか。
これも音楽映画であるが、ミュージシャンの伝記ではなく移民の街“ワシントン・ハイツ”を舞台にしたミュージカル。
まあ、煌びやかでよく練られた演出、音楽もなかなかのものであった。
詩的な映画と謂える。

「お互いに言いたいことをどう言えばいいかわからない。だから想像し始めて、そこから歌が生まれる。」コーリー・ホーキンズがインタビューで語っていたものである。成る程、ミュージカルとはそういう場所から出て来るものなんだ。
ベニーとニーナが夕刻のビルのベランダで夏を思い語り合うシーンで重力の向きがクルっと変わって歌って踊り出す空間は、まさに詩であった。ジョージ・ワシントン・ブリッジが背景と来た。この撮り方自体は以前にも見たことはあるが(あくまでもテクニック的には)。

それからアブエラが停電の日にベッドで眠るように亡くなる時の彼女の夢~想像のなかでの切々と唄うシーン「忍耐と信仰」。
更に彼女を追悼するように蠟燭を掲げて集まって来る人々(アブエラチルドレン)の厳かな歌。これには思わず泣けた。
こうして思い返すと全編にわたり詩の世界だ。

スエニート~小さな夢をここワシントンハイツの住民は大切にしている。
(そのひとつに、ウスナビの店で宝くじを買うことがある(笑)。
ドミニカ共和国、キューバ、メキシコ、プエルトリコからの不法移民がたくさん住んでいる街で、スペイン語が標準語だ。
貧しい生活に耐え明るく生きている雰囲気が伝わる。とても仲が良く支え合っていることも分かる。
(とは言え、再開発の煽りで家賃が高騰して外に出てゆく人も少なくない。ここでは美容室だが、陰りが基調に混じる)。
小さなことで尊厳をもつ、これがアブエラの口癖。アブエラはコミュニティの精神的な支柱である。
この土地で若者は第二、または第三世代であるが、ケビンやアブエラは実際に故国から移住してきて大変な苦労をして生きて来た第一世代である。
成績がよくエリートでスタンフォード大学に行ったニーナはこの土地の希望の星であるが、差別と学費の滞納で退学して戻って来た。
コミュニティに衝撃が走るが、ちゃんとアブエラやパパと彼氏のベニーが元気付け、金の心配も無くす。
そしてソニーの将来の進路を考え自分の問題意識に取り込み、目的をもって再び学業に戻ってゆく。父がよい人で助かった。
(必然的に政治性は出て来るもの)。

夏のうだるような暑さの中での停電。最悪の熱射(夏の停電は殺人的状況だ)。
”powerless”が「電力不足」と「無力」にかけられて歌い上げられる。
丁度今のこのわれわれの環境に重なる思い。
しかしそれも歌と踊りで吹き飛ばす。ラテン系パワー炸裂。小さきものの尊厳である。アブエラの意志でもある。
かき氷~ピラグアを売りに原作・音楽・製作者のリン=マヌエル・ミランダも度々登場してくる(笑。
ウスナビは故郷(ドミニカ)に飛行機で帰ることをいつも夢見ていた。
祖国の両親のバーを再建することが夢であるが、差別、低所得などから所詮自分の居場所はここではないという認識は固い。
どうしてもルーツに拘る、というかルーツに対する幻想が強い。
一方友人のベニーは、自分のいる場所は、友がいれば何処にも作れるという思想である。
結局、ウスナビも恋するバネッサのアートデザインに触れ(彼の店の内装をデザインしてもらったことで)、ワシントンハイツに残ることにする。バネッサへの愛がはっきり決め手となった。
アブエラがウスナビに残してくれた、彼の店で当てた宝くじをソニーの今後のサポートに使うことは、もっともよい使い方だと思う。
少なくとも国に帰ることに使うよりは。

ウスナビとバネッサはどうなったのか、それは最後に娘が海に遊びに行っていい?と聞いてきたときママがいいと言ったらね、と返すところ。出て来たそのママが彼女であった(笑。充分ここで幸せを築いていたではないか(分かっていたが)。
何だかめでたい気分で観終わった(笑。
”US NAVY”がウスナビの名前の由来というところが笑える。
Wowowにて