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GOMA28

Author:GOMA28
絵画や映画や音楽、写真、ITなどを入口に語ります。
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ピカレスカ Novela Picaresca

Novela PICARESCA002

Novela PICARESCA
2021

倉田健次 監督・脚本

広澤草 、、、ヨーコ(古本屋店主)
結城貴史 、、、シライ(小説家)
杉本ミホ 、、、カナエ(看護婦長)
YOUNGBO、、、キム(韓国人留学生)


今日も30分ショート映画で。
田舎町にあるアンティークな図書館みたいな古本屋である。
ほとんど趣味でやってる本屋という感じ。

Novela PICARESCA001

ヨーコとシライとの間の「間」が何とも謂えなかった。
確かに適切な間であったと思うが、自然な間というより文学を意識した間に思えた。
それとして、分かるのだが。
チューリップの色で返したり、も。
間といい、セピア調の景色といい、何とも作り物的な箱庭的な御伽噺を感じる。
この雰囲気が終始どうにも居心地が悪い。
ただ、ヨーコと韓国人留学生のキムが話す韓国語の意味が分からず、何て言ったのと聞くカナエに一切何も語らないヨーコの姿には共感した。

Novela PICARESCA005

シライが些細な日常を描写した小説では売れないからピカレスクものを書くという。
作家に憧れを抱いているらしいく、ヨーコはその手助けを出来る限りやりたいと思う。
題材は「バスジャック」で行くという。
ヨーコは、それからというものそれに関する資料に当たるがピンとこない。
それで実際にバスジャックをやってみることにする。
普通やるか?やらなくても想像力でリアリティある創作をするのが小説家である。
そのお手伝いとは言え、ホントにやっては身も蓋もない。というより意味もないはず。

100円以上の本は買わない常連の看護婦長カナエとバスで一度抗議をしたことのある韓国人留学生のキムを仲間にして3人で決行することにする。この辺からワザとらしいコントを観る気分となる。
そして3人で畑からバス停に向かって勢いよく走って乗り込み、試みるが上手くいかない。
何度かトライするも腰砕け。
その有様を並べて筋立てて行き最後に(何らかの形で)決めるという在り来たりの手法だ。
別に流れが分かりきっていても構わないが、この発想とやり方自体が稚拙で現実離れし過ぎ。
それからまだ陽のある時期から3人で集まり実施しているが、そんなに彼らは暇なのか?
どうも真面目に付き合う気になれない。

しかもゲーテやニーチェの格言を古本屋の主と客の作家との噺に絡めたりするが、それがしっくりくるような物語でもない。
間が思わせぶりに思えて来る。
単に勿体ぶっているような。
色調が嘘くさくて、、、。

Novela PICARESCA006

そして何とも、キムが韓国に帰るので、今日こそ決めようとやったバスジャックが成功する(運転手が承諾する)。
丁度そのバスには、暫く店に来なかったシライも都合よく乗り合わせているではないか。
運転手がいいですよ、何処に行きます?と聞いて来るので、綺麗なところお願いしますと、キム。
景色の良いところで停車して、運転手とキムとカナエは景色を観ながら語り合い、、、。
(毎日同じところを回っているのが飽きたってそれが仕事なんだから。少し自分なりの工夫が出来るところでタクシー運転手にでもなれば。発想が幼稚過ぎる)。
一方、ヨーコは作家から、何故毎週本屋に来ていたのか、もう来る必然性がなくなったのかを知らされる。
もうこれで、シライともお別れである。
バスジャック班も解散となった。肝心の小説は出来るのだろうか。

Novela PICARESCA004

最後にパンを抱えて店に帰ると、黄色いチューリップが本屋に置かれているのを見て必死でバスに走り乗り込む。
(このチューリップは以前、花を必要としていたシライに渡した白いチューリップのお返しだ。恐らく難病で長い闘病を続けていたという彼の妻へのお見舞いに使ったのではないか)。
シライはバスには乗ってはいなかった。
しかし彼女はもう泣かないでパンを食べることが出来るようになった、で終わるが、、、。

そもそも泣きながらパンを食べたのは、幼少の頃クリスマスの前日に母がパンをあてがい彼女を祖母に任せ出て行ったトラウマに帰するところであろう。
それが今回のこの一件で吹っ切れたというのか。
どういう回路でそうなったのか、理解不可能。

Novela PICARESCA003

キャストなどを調べている時、監督のメッセージが目に入ったので引用を。
「人生の正体を知るには私達は何を行えば良いのか?普通の人間が求めた「悪徳(ピカレスク)」の姿から、観客の皆様にも今一度人生を真正面から見つめて頂けたらと想い、本作を描きました。」
そんなにたいそうな内容のものであったのか。
これを観て人生を正面からとらえ直そうと思える人って、どんな人?





AmazonPrimeにて







Happy Hunting

Happy Hunting001

Happy Hunting
2018

耳井啓明 監督

奥咲姫、、、大宮理沙(出席者)
松永毅、、、もてぎしゅん(出席者)
網倉望、、、まきたあきお(出席者)
田中克憲、、、いわしたとしお(出席者)
田口ゆたか、、、山村(主催者)
仁後亜由美、、、西岡(主催者)


もうこれ以上の低予算映画はあるまい、という程の安上がりな感じのショート映画。23分。
だが金をかける必然性もないし。あるものを利用すればよし。VFXなんぞ何処で使うの、というようなモノ。
シチュエーションが婚活パーティーなのだ。
適当な会場があれば、語りで成り立つ。後、ワイン代くらいか。
当日、女性が1人欠席で男性も1人ドタキャン、女1人と男3人で始めることに、、、。

さて、それが結構、面白かった。
女性はチャーミングで小綺麗な普通の感性の人。
対する男性は、何とも自己中な歪んだ性格と価値観の曲者揃い。
グロテスクだが、リアリティはある。
ここまで極端な(単純化・強調された)パーソナリティもないとは思うがその分、分かり易い。
ギャグコントみたいで笑える。

理沙は、全員に酷く失望してワインをがぶ飲み。
確かに「誠実で優しい」という希望には全くそぐわない面々である。
さっさと出てゆこうとするが、主催者側から伊勢丹の商品券が手渡され、何とか最後まで残ってくれと懇願される。
それで、取り敢えず残るが、管を巻く(爆。

上から目線の潔癖症の自惚れ屋の専務、レストラン経営とは名ばかりで料理のことなど何も知らないチャラ男、相手を全く見ずに俯いて喋りもしないカードオタク、それぞれを完膚なきまでに罵倒しまくると、、、
場を取り持とうとサンドウィッチを西尾が参加者に出しご機嫌を取る。すると西尾の方がウケてしまう。
愛想尽かして理沙がトイレに立つと、それをよいことに皆が自分の事をさんざん罵っているのだった。
ただそのなかで、岩下一人が彼女を男らしく懸命に庇っているのだ。彼は彼女の顔を見るなり走って出てゆく。
彼女はワインを飲み干しグラスを持ったまま岩下が出て行った後を追う。

横断歩道の手前で理沙は、岩下を呼び止め、礼を言う。
彼は会場で彼女に引いて貰ったカードを、一枚バッグから取り出す。
正解ですと答え、もう一軒行きません、と彼女から誘うと、男はママが迎えに来てるからこれで、とニコニコ去ってゆくではないか。
「ないわ~」の溜息で顔の前に掲げたグラスにカードがスッと落ちるところがオシャレ。
Happy Huntingは、伊勢丹商品券1万円二枚であった。チャンチャン♪

Happy Hunting002

ないよりましよね。
いいもの買って次に繋げましょう。

これまで観たショートもので一番面白かったかも。



AmazonPrimeにて



DUNE/デューン 砂の惑星

DUNE010.jpg

Dune: Part One
2021
アメリカ

ドゥニ・ヴィルヌーヴ 監督
エリック・ロス、ジョン・スペイツ、ドゥニ・ヴィルヌーヴ 脚本
フランク・ハーバート『デューン砂の惑星』原作
ハンス・ジマー 音楽


ティモシー・シャラメ、、、ポール・アトレイデス(アトレイデス家の後継者)
レベッカ・ファーガソン、、、レディ・ジェシカ(ポールの母、レト公爵の愛妾、ベネ・ゲゼリットのメンバー)
オスカー・アイザック、、、レト・アトレイデス公爵(ポールの父、アトレイデス家の公爵)
ジョシュ・ブローリン、、、ガーニイ・ハレック(アトレイデス家の武術指南役)
ステラン・スカルスガルド、、、ウラディミール・ハルコンネン男爵(ハルコンネン家の当主)
デイヴ・バウティスタ、、、グロッス・ラッバーン(ハルコンネン男爵の甥)
スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、、、スフィル・ハワト(アトレイデス家のメンタート)
ゼンデイヤ、、、チャニ(ポールの夢の中に出てくるフレーメンの謎の女)
チャン・チェン、、、ウェリントン・ユエ博士(アトレイデス家のスク・ドクター)
シャロン・ダンカン=ブルースター、、、リエト・カインズ博士(チャニの母であり生態学者)
シャーロット・ランプリング、、、ガイウス・ヘレン・モヒアム(ベネ・ゲセリットの教母)
ジェイソン・モモア、、、ダンカン・アイダホ(アトレイデス家の剣士)
ハビエル・バルデム、、、スティルガー(フレーメンの部族長)



ついに”DUNE”の完全版を観ることが叶う。
10191年の噺だったのね。
(原作未読なもので)。
現実空間を0から創造する作業だな、これは。

DUNE011.jpg

本編は155分を使って描かれた前半である。というよりイントロを見終えたという感じ。
(やっと予知夢に何度も現れていたチャニと現実の砂漠で出逢ったところで終わりである)。
アトレイデス(いや救世主か)が砂漠の民フレーメンと共に皇帝軍とハルコンネン家を敵に回しての宇宙戦争を始める後半がともかく見もの。
あいつらが最初からアトレイデス家を潰そうとしていたのは明らか。その悪意と害意に対し徹底的に闘い完膚なきまでに撃滅するのみ(どうなるのかわたしは知らないのだけれど(笑、カタルシスをせっついている訳ではない)。
実に壮麗で重厚なワクワクする世界観~物語の前半である。
(パート2が早く観たい)。

DUNE012.jpg

アレハンドロ・ホドロフスキーが10時間越えの映画を綿密に細部まで構想・企画した最初のDUNEが余りのボリュームから実際の製作まで漕ぎ着けなかった(巨額の製作費が何よりネックとなった)。
ホドロフスキーのDUNE』として没になるまでの顛末を描くドキュメンタリー映画も製作されている。
リドリー・スコット監督も担ぎ出されたが、辞退してしまった話も聞いたものだ。
結局、原作が「大作」であることで、製作側と噛み合わない。
そしてデイヴィッド・リンチが1984年に何とか『デューン/砂の惑星』の形で映画を完成させ公開するが、監督自身が全くその出来を認めていなかった。本当は4時間を超えるものであったが、2時間以内に製作側にズタズタに削られてしまったのだ。その後、確かTVシリーズでドラマ化がされているはず。

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結局、本格的な完成版DUNEとしては、本作が初めてのものであろう。
まあ、この映画化はドゥニ・ヴィルヌーヴ以外に考えられない。
ブレードランナー2049」の圧倒的に魅惑的な絵を観ればこの監督が適任であることは分かる。
その映像の緻密さディテールの追求が、物語の歴史や文化的背景の質量をいや増しに増している。
勿論、メカや虫のリアリティも半端ではない。吸水スーツもしかり。
物質的想像力の賜物だ。

DUNE014.jpg

しかしこの魅惑的な砂粒は何だ。何という砂だ。風に煌めくメランジとは何なのか。
(このメランジが争いの発端ではあるが、これ自体がめくるめく謎である)。
巨大な何でも丸呑みしてしまう虫といい、この砂漠の残酷で幻想的な美しさに知らず引き込まれてしまっている。
そしてポールと母の受難と覚醒の物語がその砂漠にしっかりと織り込まれる。
戦士たちの威厳に充ちた闘いと死。
巨大な兵器と宇宙船団による圧倒的な攻撃。
大火に包まれ壊滅的打撃を被るアトレイデス陣営。
音楽がヴァンゲリスとは異なり独特の乾いた虚無感を増幅させるように唸る。

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ひとつ気づいたことは(デイヴィッド・リンチのときは、気づかなかった)、AIがまたはその発展形も見られないこと。
(SFものによく登場するロボット、アンドロイドの相棒みたいなものはいない)。
その代わりか人が能力を開発し高める方向に進んだようである。メランジが重要な役目を果たしているようでもあった。
或る意味、人がより力強く身体性を取り戻している世界に思える。

異郷~DUNEの実在感をこれほど感じられる映像はない点においても、この作品は新たなSFの金字塔と呼ばれるはず。
スタッフ・キャスト言うことなし。
凄まじい悪夢が堪能できた。
とても心地よい。
大好きな「アラビアのロレンス」にも重なる絵を感じた。
(そう、その実在感において)。

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そして、闘いにとってもっとも障害となるのは「恐れ」である。
それを克服した者が勝つ。
パート2を待つ。



Wowowにて







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いちご飴

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Strawberry Candy
2020

李念澤 監督

于小芙
王俊捷


7分のアニメーション映画である。
主人公の女の子の声はホントの女の子が喋っているようであったが。
東京芸術大学大学院映像研究科の学生作品であるが、中国人の学生作品みたい。
音声は中国語で、日本語と映画の字幕が入る。
色調は柔らかく優しく儚げな影と光で不穏な空気を醸していた。
声と音響の重なる効果音も効いている。

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おじさんの影が禍々しい。
「これはひみつだよ」
悪夢の呪いの言葉か。
性的虐待も含め全ての虐待は、幼年期において抑圧・隠蔽されていても、やがて言葉のゾンデがそれに触れ形を齎す。

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ポケットに入れた苺の飴はべたべたして溶けて中に汚く貼りついてしまった。
洗っても落ちない苺ジャムの後みたいに気にかかる。
パパからプレゼントされた赤いビー玉もあったりなくなったりで気になる。
それはどうなるんだろう?
その気になる得体の知れぬモノ~秘密は、、、

自我を形成する過程で形を取り、激しい怒りを伴って爆発するに違いない。
悪夢は言葉によって上書きされ現実の物語と化し。
そのころは、もうその叔父は死んでいるかも知れないが。
秘密はそのまま葬られることはない。悪い夢のままで消え去ることはない。
寧ろ増幅されるのだ。
その先、憎悪の念と攻撃性を何処にどのように向けてゆくのか。

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問題提起に違いないが。
この学生にとってのっぴきならない問題であったのか。
説得力のある独特のアニメーションで、完成度も高かった。
この監督の次回作も観たいものだ。



AmazonPrimeにて



待つには遠すぎた初恋

hatsukoi 001

2018

四本研祥 監督・脚本・編集

川嶋淳、、、カレン(帰国子女の高校生)
家田恵理佳、、、ミカコ(高校生、カレンの親友)
ジャスティン・フォルシエ、、、アレックス(ミカコの家にホームステイのカナダの高校生)

東京外語大の学生製作映画である。
この大学には、職場が近かった頃、学食に出向き昼を食べたものだった。
メニューも充分あり美味かった。その後、度々行った女子美よりずっとこちらの方が上だった。
懐かしい。


とても色が白いというか薄いのはどういう演出的な意図なのだろうか、、、。
でも濃かったり暗かったりを考えてみると、これがピッタリだった気がする。
ビビッドな色使いだったらもう気持ち悪くなるな。

12分の映画を選んだのは、昨日より更に暇がなかったからではない。
今日は妻の職場への送り迎え(お抱え運転手)以外に何も任された仕事が無く、家に帰る必要もなかった為、アパートで12時間くらいぶっ続けでネットサーフィン(古い)をしていたらすっかり頭がスリープ状態に入ってしまい、長い映画を観る~関わる余地がなくなってしまったので、この映画にとびついたという経緯である。

hatsukoi 003

12分である。
しかし研ぎ澄まされた眠気があった。
監督も役者(女子二人)もとても才能のある人に思える。

主演のカレンの正面の顔アップなど彼女の表情に語らせるところが秀逸。
無駄な説明や動きの無いのが良い。

カレンは親友ミカコにホームステイでやって来たカナダの学生アレックスとの意思疎通のための通訳を頼まれる。
カレンは帰国子女で英語がペラペラなのだ。ミカコの方は全然ダメ。
アレックスがイケメンだということでミカコは夢中になり、彼の方もミカコの天真爛漫な性格に惹かれお互いに恋愛感情をもつ。
2人がそうした思いのやりとりを強めるに従い、間で通訳するカレンは次第に苛立ち~葛藤を覚えるようになる。

hatsukoi 002

カレンの人格形成の一側面として性にオープンな姉の存在を匂わせていた。
反動形成かどうかはともかくそうした面に内向的なカレンは、ずっと心に圧し込めてしまっている想いがある。
軽い二人の男女の間で自分が単なる翻訳機のような立ち位置に追いやられ、しかも意中の人が他に夢中なのだ。
この三角関係をカレンの役者が禁欲的に絶妙に演じている。
この学生女優さんエンディングの曲「ユーの歌」も唄っているではないか。上手いしチャーミングだ。
作詞が監督で、作曲が吉田稜という人。
最近のポップシーンにおいても充分通用する出来だ。


そして最後の一言でブーツストラップ。
こういうことは何語で語ろうが、その真意が伝えあえるかどうかは別。
伝わらない相手には絶対に無理。
カレンさん、あんな鈍感な子で良いの?
(大きなお世話であるが)。

とてもセンスの良い完成度も高いショートフィルムであった。まさに拾い物。
これが長くなっても素敵な映画を作れるスタッフとキャストに思える。
才能を感じる。特に主演の学生。次作も期待したい。





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レイディオ

Radio001.jpg

2020

塩野峻平 監督
中村綾菜 脚本


加藤隼也、、、加藤(大学生、深夜レイディオリスナー)
松岡美優、、、松岡(大学生、深夜レイディオリスナー)
吉井純平、、、吉井(深夜レイディオパーソナリティ)
石井佑治、、、石井(深夜レイディオパーソナリティ)


今日は全く暇がなかった為、短いのを選んだ。
選択理由はそれだけであるが、好感をもった。

変に背伸びして気取った、自分でも訳の分らぬテーマを捏ね繰り回したりする類ではなく、ただ率直に等身大の自分を曝け出そうとしているところは、いいなと思った。
大学生の作品だそうだ。言われなくても分かる(笑。
そこが良い方に作用していた。

Radio003.jpg

ただ、ブルーハーツというのは何とも言えない。
ドブネズミとは暖かくて優しいのか?
全くそうは思えない(比喩だとしても)。
だからこういう曲には共感出来ない。

ただ、素人学生役者はだんだん演技を見ているうちにピッタリフィットしてきて内容に浸ることが出来た。
初っ端の頃はどうにもぎこちなさを感じて戸惑ってしまったが。
終盤などは貰い泣きしてしまった(貰い泣きと言うのか?)

Radio004.jpg

内容的にはよくある噺の部類であるし、ストーリー的にも直球勝負で、何らそこに捻りや意外さや斬新さはない。
それではチープでダサくてありきたりの詰まらぬものかと言ったら、それは違う。
描きたいものがあってそれに対する真摯な姿勢が窺える。
大袈裟な演出やら小細工もなく、あざとくもない(今流行りだが)。
淡々と進行する抑制の利いたミニマリズムを感じさせる作りであった。
だから、鼻につくイヤミが無い。
是非、製作費がたんまり付くようになってもこの線は大事にして欲しい。

加藤くんと松岡さんは大学の同じゼミを取っているが、松岡さんは休みが続き加藤くんが病室にその都度書類を届けに行く。
そのなかで、共通の深夜レイディオ番組についての会話が弾むようになる。
加藤くんと松岡さんの同じ深夜レイディオ番組を心の拠り所にしており、互いがしょっちゅう番組に投稿して採用されている同志というのも運命的な邂逅であろう。この繋がりから話を膨らめて行くのは良いのだが、、、
女性の方はもう余命いくばくもない病であった。
先はもう見え見えで、どう持ってゆくのかだけが勝負となる、、、。
或る意味、とても難しい展開とも謂える。余りにべたなので。

Radio002.jpg

プロットをもっと複雑なものにしてゆくことでストーリーも豊かさを増し面白くなるはず。
この短さ(50分に満たない)では丁度良かったかもしれないが、、、。
深夜レイディオ番組の投稿常連者で、その都度、実際にあったことを片やほぼそのまま、片や比喩も使い物語っぽくしていても、これでは二人とも相手が直ぐに分かってしまうだろ、と思っていたらなかなかそうでもないところは不自然に思えたが(笑。
最後に彼女がまっとうにそれに気づき加藤くんの心に響く素敵なメッセージを送る。
この内容は簡潔にまとまっていて好感を持った。

公務員志望の加藤くんは放送作家となり、その番組のクリスマスの日の放送に彼女の好きであったブルーハーツの曲を流す。
「リンダリンダ」というのが二度も流れるのには、面食らったが。

これからも頑張ってもらいたい。




AmazonPrimeにて






CUBE 2

Cube2 001

Cube 2: Hypercube
2002
カナダ

アンジェイ・セクラ 監督・撮影
ショーン・フッド、アーニー・バーバラッシュ、ローレン・マクローリン 脚本

カリ・マチェット、、、ケイト(心理療法医)
ジェラント・ウィン・デイヴィス、、、サイモン(経営コンサルタント)
ニール・クローン、、、ジェリー(エンジニア)
マシュー・ファーガソン、、、マックス(プログラマー)
バーバラ・ゴードン、、、ペイリー夫人(数学者)
リンゼイ・コネル、、、ジュリア(弁護士)
グレース・リン・カン、、、サーシャ(盲目の学生、キューブの構造の設計者)
ブルース・グレイ、、、マグワイア大佐
フィリップ・エイキン、、、将軍


キューブ CUBE」がべらぼうに面白かったため、”2”をWowowでやっていたので、躊躇うことなく観た。

Cube2 002

確かに異様に明るい。暗闇が存在しない残酷さが厳然とある。
タッチ式自動ドアがどの部屋にも6つある。
一度ドアが閉まり、再び開くと異なる(系の)部屋に繋がっているのが基本。
各部屋がパラレル宇宙空間となっており引力の方向も異なる。
時間も異なる流れを(マクロにおいて)見せていたようであった。
そしてこのキューブの構造物自体にタイムリミットが仕掛けられていて、その時になるとキューブは崩壊する。
(タイムリミットと言ってもどの基準での時なのか、恐らくジェリーの腕時計を基準に定めているのだろう)。

今回も何故ここに自分が囚われたのか分らぬ者同士のようであった。
だが次第に、このキューブを構築したであろう巨大軍事企業に何らかの関係がある者が集められたことが分かって来る。
しかし正体が分かって来たにせよ、それでこのCUBUから脱出出来るというものではない。
知っていても入ってしまうとそれまで、ということか。
CUBE創造において関係者であることからその秘密を守るための処分にもとれる。
(前作では、皆罪人であった)。

Cube2 004

最初のCUBEとは明らかに構造自体が異なるものだが、中で残酷に殺されたり、殺人鬼に変貌した者に惨殺されるのは変わらないパタンである。
前作で非常にインパクトのあったトラップであるが、今回も用意されているが突然来て瞬殺される類のモノではなかった。
じわじわと明るい空間で襲って来るタイプのもので、破壊力はあっても恐怖の質が違う。
壁から透明な立方体が伸びてきたり、宙に忽然と現れた四角形の枠のような形体が徐々に回転しながら複雑な多面体に広がってゆき人をミキサーのように刻んでしまうものや壁自体が波打ちその波動で破壊が起きたり、時間が急激に速くなりミイラ化してしまうなど、、、。今一つインパクトに欠けるものではあった。

Cube2 003

何と言うかパラレルワールドとか時間というものの扱い~踏み込みが浅いところから来る不徹底さが、リアリティの緊迫感を疎外している。60659という数字の意味が、それかというところで、幻滅。とても設定が浅い。
基本設定を極めて扱いにくいものにしてしまい、中途半端なところで折り合いを付けてしまった感がある。
前作にはこうした弱さは見られなかった。
本作の方がその黒幕に対する踏み込みは見られたが、、、。
折角外に出て行った心理療法医のケイトも銃殺されてしまう。
サーシャから回収した何らかの記憶媒体を渡したところで、もう用なし任務完了という所なのか。
何やら”CUBE 3”を意識させるエンディングではあるが、この方向性だと手詰まり感が強くて期待できない。





Wowowにて









ロスト・アイズ

LOS OJOS DE JULIA001

LOS OJOS DE JULIA
2010
スペイン

ギリェム・モラレス 監督・脚本
オリオル・パウロ 脚本

ベレン・ルエダ、、、フリア/サラ
ルイス・オマール、、、イサク
パブロ・デルキ、、、イヴァン(アンヘル)
フランセスク・オレーリャ、、、刑事
アンドレア・エルモサ、、、リア
ボリス・ルイス、、、ブラスコ
フリア・グティエレス・カバ、、、ソレダト


ベレン・ルエダは何と「ロスト・ボディ」のヒロインではないか。
ここでもヒロインだが、スペインでは実力派人気女優というところか。
確かに演技力は凄い。

LOS OJOS DE JULIA003

姉サラと同様の目の病で、自分も失明のリスクを背負った女性フリア。
だが姉は手術の失敗に悲観し首つり自殺を遂げてしまう。
しかしフリアの場合、ドナーが見つかり手術は成功し、2週間包帯を取らずに安静に過ごせば、治るところまで来る。
仕事は、天体観測で、まだ見えない星を探す仕事だ。
夫イサクともサハラ砂漠から夜空を見ようという約束をしていた。

つまり、観る~見ることがフリアにとりどれだけ大きなことか。
姉が不審な自殺をしたり、夫も同様の極めて不審な首つり自殺をしていたりで、悲しみと疑惑と怒りと自分の身に忍び寄る影に怯え不安もただならぬことは分かるが、そんな状況だからこそ、病院の完全看護の下で目は完治させるべきであっただろう。
亡き姉と夫の為にも。
病院は嫌いというのも共感するが、家に戻ればもっと危ないことは、それ以前から続いている不審な男の影から推察できるはず。
目は治るのなら絶対に治すべきなのだ。
しかし姉のどうしても納得できない自殺に対し調べるうちに不審な点が幾つも浮かび上がり、どうやら恋人みたいに付きまとう男の存在もあったことも突き止める。
だがその男が単に特徴が無いとかいうだけでなく透明人間みたいな存在であったという。いたことはいたが誰の記憶にも残っていない。そんな男。

LOS OJOS DE JULIA002

あの寄る辺ない環境にあっては、ああいった流れに追い込まれ、包帯を自ら外し、アンヘルから身を守ろうとするしかなかったと言えよう。物音や人影に過剰に敏感になり不安に圧し潰されそうになっていた。目へのストレスも半端ではない。
イヴァンという看護人だとばかり思っていた男が世間からは透明人間のように疎外され続けて来たアンヘルという怒りを深く身に潜めた男であったとは。
この男は邪魔な対象をいとも容易く殺してしまう。歪んだ承認欲求と支配欲により。ここは実は母譲りのものであった。

そう、ビックリしたのは、フリアが頼りにしていた盲目の老婆ソレダトが、何とアンヘルの母でありしかも実は盲目ですらなかったというところ、二回続けて驚いたではないか。
殺人鬼の息子ですら呆れる母の狂気。
こうして映画を観て行くと、毒親映画が思いの外多いことに気づく。
如何に世間に毒親が多いかにも実際、繋がるものだ。

LOS OJOS DE JULIA004

夫や息子を自分に繋ぎ止めコントロールする為に盲人を装うなんて、その時点で常軌を逸した心的状況である。
何が母をこのように駆り立てたのか。彼女の生育環境や遺伝的特質の問題もあろう。だがそれがこうした息子を作った事実は罪であり不幸の連鎖としか言いようがない。
人間とは何と愚かな我欲の塊なのか、、、。
この息子が、自分に気づいてくれる存在はこの世では盲人だけだと悟り(思い込み)盲人に寄生して生きようとする。
まさに母の心的パタンの無意識的継承である。
ホテルで雑用をしている老人クレスプロが姉が部屋に忘れていった鍵をフリアに手渡すが、その時語った言葉が重い。
「影のような存在が、世の中に対して怒りを抱いていたらとても危険です」
この老人もアンヘルに殺害される。彼の顔を知っている数少ない存在だからだ。

隣人のブラスコなどもこちらのミスリードを誘うような怪しい迫り方をする。
確かに怪しい奴があちこちにいる。
イサクさえ自分の姉と不倫関係にあったのではと疑いを持ってしまうような工作もされた。
サラの近辺を嗅ぎまわり誰の仕業であるかを見定めてフリアにことの真相を伝えに来たブラスコの娘リアも、アンヘルに口封じの為惨殺される。
リアは生前、フリアの姉サラと仲が良かったことで、真相を知り得たのだ。
人を自分の欲望のために操り所有しようとする者もいれば、真実を語り解放しようとする人もいる。
後者は、リアとクレスプロそしてイサクであろう。

LOS OJOS DE JULIA005

何と彼女のドナーこそ「君の瞳の中に宇宙が見える」と誰よりも彼女の目を気遣った夫イサクであった。
本当の愛情に気づくが、そのプレゼントは受け取ることは出来なかった。

芸達者なスペイン俳優たちのお陰で堪能出来た物語ではあった。アンヘルの無個性な狂気は何とも言えない。
役作りは大変だったと思う。

それにしても人は、何をまず大事にするべきか、そこが肝心である。



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疲れた時は休む

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今日は、一日中、何もせずアパートの方に籠っていた。
家にいないと音がほぼしない環境にいることになる。
人の声がしない。
煩くない。
娘が怒っていない。
定期的に良い事なのだが、ずっとこれでは刺激が無さすぎる(笑。

最近のニュースで何と言ってもショックだったのは、いくちゃんのコロナ感染である。
はじめて、コロナを身近に感じた。
秒刻みのハードスケジュールでどうしても不特定多数と関わらざるを得ない立場だと、危険性も増すというもの。
単に暇なのもボウっとするだけで良いことは無いが、多忙を極めることも愉しく充実する反面しんどいことは多いはず。
創造的な場面ばかりとは限らない。もっともわたしとは比べようのないくらい濃密な時間を生きているのは確か。
固有時が甚だしく違うということ。

会員であっても何も共有は出来ない。
しかし、本来そうしたものなのだ。
人は独りで生まれて独りで生きて独りで死ぬことに変わりない。
例外なく。
独りでと言うのは、飽くまでも自律性をもって、という意味でだが。
(独りという豊かさの享受である)。

オフィシャルサイトのムービーでは、まだ回復していないであろうに、ファン向けのサインを必死にしている姿があった。
出来ればこういう作業労働はやめて欲しい。
その暇があったら充分休養を取ってもらいたい。
ファン向け特典とかなら、いくちゃん原案の絵とかを3分くらいで描いて、それをプレートに転写コーティングして大量生産してもらえばよい。(だいたい会員が全国にどれだけいるのか?)
原案がいくちゃんならアウラはしっかり封じ込められている。
悪霊も寄り付かない。

ともかく、充分に力をためて、ソロアルバムを待ちたい。
出来れば、バンドも作って欲しいが。


まずは全快を祈るのみ。




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ロスト・ボディ もう一度観た

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El cuerpo
2012年
スペイン

オリオル・パウロ監督・脚本


ホセ・コロナド 、、、ハイメ警部(事故で妻を亡くした敏腕警部、、、)
ウーゴ・シルバ 、、、アレックス(大学教授・マイカの会社の社員)
ベレン・ルエダ 、、、マイカ(資産家・大事業家、アレックスの妻)
アウラ・ガリード 、、、カルラ(アレックスの学生・恋人、、、ハイメの娘)


5年半前に観た映画だが、その時民法のカット版を見たみたいだから見直してみた、と謂っても全く覚えていない。
全くである。しかしその時、ノーカット版を観直すと宣言していた。余りに出来が良いので。しかしセルDVDを観た覚えがないのだ、、、。
確かにわたしは、最近特に忘れやすいのだが、こんなにスッカラカンに忘れるとは、、、。
ということで、新鮮な思いで観た(苦。
そして、、、
カルラがハイメの娘だと分かった時に、やっとこれ観たというのを思い出す(笑。
終盤もいいところだ。
(物忘れの薬でも試してみようか、、、心配になった)。

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それにしても凄い映画だ。
10年越しに練り上げた殺人計画とは。
わたしには到底できない。こんな凝ったことは。途中で疲れてしまう。
いや、分からないな。憎悪の念はわたしも増幅はすれど、減衰することはない。絶対にない。
但し、もっと楽な方法を使うはず。
こんなにワクワクして面白い手を使うなんて。やるねえ、とは思うけど。

しかし普通の敏腕刑事なら、アレックスとマイカ夫妻の葬った罪を何としても暴くはずだが、、、。
あそこまで入念に調べあげているのだ。
娘の記憶などの手掛かりも共有して。
このような捜査の形を独自に途中までとったにせよ。
それと犯人にしても財力を使って事件の隠蔽工作を入念にしなかったのか。
そのまま放置して逃げてそれだけ、というのも生き残りがいたことは知っているのに不安にならなかったか。
(実際その生き残り娘にしてやられるのだ。ざまあ見ろであるが)。

El cuerpo001

しかしこの計略、娘が犠牲になるのだ。傷を負うのだ(ここの部分がシコリとして残っていた為にわたしは思い出したのだろう)。
これは自分なら絶対にゴーサインは出さない。
あるところから軌道を変える。
まあ、娘としては、過去の忌まわしい事故のことを本人の口からどうしても自白させたかったのだろう。
気持ちは分かるが、あそこまで深入りせずとも聴きだす方法はあったと思う。
条件の出し方とかで。ヘタレだからどうにでもなりそうだし(笑。

演者は実に上手い。
演技で更にワンランク上げているような映画だ。
特にマイカの人を喰った上から目線の嫌みな性格などホントに憎たらしい。
その存在感たるや死んでも死なない女に見える。この点が大きいのだ。
死を利用して、探偵などを使い周到な計画で追い込んでゆくように見えるし。
そもそも離婚を考える前に何で結婚したのかと謂えば、男の方はやはり財産か。
お互いにロクでもない。
その雰囲気がしっかり出ていた。

El cuerpo003

結局、復讐父娘の傀儡となって動いた男のやったことはシンプルである。
マイカは単に心臓発作で殺害される。
カタレプシーとか特殊なことなど考えるようなものではない。
遺体も窃盗によるものであったし、だが不在という呪いで極度のストレスに陥り実際に生霊にパニックにもなる(笑。
画面の空気感は完全にホラーのものであった。これはアレックスの心象によるもの。

やはりヘタレだけのことはある。父娘の読みは正しい。
とことん追い詰め、妻と同じ薬で葬られるというのも確かに、おつであった。
刑事と娘~幻の女子大生の計略・お膳立てが、実に細かく(コンビネーションも)大変なものであったはずだが。
こういう形で自分たちで地獄に落とすわよ、という流れに乗ったのだ。
刑事の立ち位置と恋人の立ち位置を最大限に利用すれば、こうした復讐も可能であろう。
真相を暴く振りして、心底相手を愛する振りして、完全に嵌めて大成功である。笑うしかない。

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所謂、この父娘の美学によるところか。
折角だからこのくらいやってみたい、という感じ?
結果、とても面白かった。
二度目の鑑賞なのに新鮮に愉しめた
(しかし前回、何処の部分がカットされたのだろう。それは知る由もないが、ほんの少しでも欠けていたらこんなに面白くはならないはずだが)。

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二度観る企画も面白い。





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キング・クリムゾン Meltdown ライブ・イン・メキシコ

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Meltdown: King Crimson, Live In Mexico
2017
メキシコ

Robert Fripp、、、ギター、キーボード、メロトロン
Jakko Jakszyk、、、ギター、ヴォーカル、フルート
Tony Levin、、、ベース、スティック
Mel Collins、、、サックス、フルート
Bill Rieflin、、、キーボード
Pat Mastelotto、、、ドラムス、パーカッション
Gavin Harrison、、、ドラムス
Jeremy Stacey、、、ドラムス、キーボード


Wowow192で23:45から観た。
息もつかせぬ凄まじく重厚な演奏に改めて驚くばかり。
そして何とも言えぬ郷愁に染まるフリップ翁のメロトロン。
ロックとか現代音楽というより”キングクリムゾン”としか言えない。
曲目は以下の通り、、、ファーストの曲から後期の曲まで網羅されている。
(曲構成も良かった。というよりこれだけ間の空いた曲が違和感なく滑らかに流れてゆくことに驚く。やはり”キングクリムゾン”なのだ)。

Neurotica
Pictures Of A City
Cirkus
Dawn Song
Last Skirmish
Prince Rupert’s Lament
Epitaph
Devil Dogs of Tessellation Row
Fracture
Islands
Indiscipline
Peace-An End
Easy Money
Interlude
The Letters
Sailor’s Tale
CatalytiKc No.9
Fallen Angel
The Talking Drum
The Larks Tongues In Aspic Part II
Starless
ーーーアンコールーーー
The Hell Hounds of Krim
21st Century Schizoid Man

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トリプルドラムは鬼気迫る。上手いとか唸っている場合ではない。Tony Levinにせよバカテクは前提である。
楽曲自体の質量とインパクトが途轍もないところに、この凄まじい楽器群~編成である。
(一時期、ダブルギターにダブルベースにダブルドラム&パーカッション編成の6人組だったこともあるが)。
わたしとしては、アースバウンドは別として、アムステルダムライブ『ザ・ナイトウォッチ -夜を支配した人々-』以外では二度目の彼らの本格ライブであった。
だが、二つを比べることは難しい。
片やCDの音だけ(勿論それだけで充分であるが)、演奏自体がしっかり見れることが如何に音楽そのものを豊かに深めてくれるかが実感できた。優れた形の視覚情報によりライブの乗りそのものが味わえたものだ。
(これまでによくあったカメラマン~編集者の主観が邪魔で鬱陶しいものでなく、しっかりほぼ全部を見せてくれているので、安心して聴くことにのめり込める。特にドラムス三人の演奏を切り出して並べて見せてくれたりするので半端でない醍醐味であった)。

長女が丁度吹奏楽部の打楽器のパートリーダーもしており、トリプルドラムに食いついて来た。
ドラム&パーカッションはまさに神業だ。(他のパートも無論そうだが、どうしてもドラムに眼が行ってしまう)。
曲の方は、長女は”Fallen Angel”をいたく気に入っていたが。

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クリムゾンは、そのライブ限りでしか聴けないフリーキーなインプロヴィゼーションで有名であるが(”Starless And Bible Black”などライブのインプロヴィゼーション音源をそのままスタジオアルバムにしてしまった部分がかなりを占める。如何にライブのクリエイティブエネルギーが高いかが分かるが、これは各自の音楽性と演奏技術の凄まじさがぶつかり合い融合した結果であろう)。

今回観た”ライブ・イン・メキシコ”においては、この大編成でかちっと編曲を決めており、インプロヴィゼーションの割合はほとんどないように窺えた。ELPみたいに全てを譜面できちっと決めてしまっているとも思えないが、あのアンサンブルの決まり方は、枠を破壊して予期せぬ創造を呼び込むフリーキーさは認められず、合わせることの妙味がたっぷり楽しめるものになっている。

クリムゾンのファーストが1969であることからもう53年を経ている。
楽曲そのものがまず最初から極めて創造的なものであったが(”Fracture”や”The Larks Tongues In Aspic Part II”など特に)、ライブを通して練りに練られて来ている。それをまた更に解体して新たな形を生むのも良いが、この過剰に完成された作品をきっちりと見事なアンサンブルで寸分の隙も無く聴かせるというのも実に見応え~聴き応えのあるものだ。
フィリップ翁は、ここでは合わせる妙を徹底的に仕掛けて来ている。

Meltdown003.jpg *一人少ない

見事に重厚に構築された音世界が存在した。
こんな演奏が他に出来るグループがあるだろうか。
(まず楽曲の段階で、無いといえる)。
もう53年を迎え終焉するグループであるだろうが、その唯一無二の音楽性と高度な演奏技術による数々の楽曲の色あせることはないと思われた。
クラシックとアニメ曲しか聴かない長女もかなり引っ掛かったようだ。

ドラムスの3人は途轍もない技量だ。呆気に取られた。
Mel CollinsとTony Levinもそう。久々に見て感動である。何でIslandsのアレンジが変わっていたのかちょっと驚いたが。
Jakko Jakszykのヴォーカルにも魅了された。ギターの他にフルートも演奏しておりフリップとのダブルギターも決まっていた。
そして何より、、、ロバートフリップ翁の御尊顔を拝めただけでわたしとしては幸せであった(笑。

”Meltdown”、、、確かに謂えてる。




Wowowにて





TV放送版より曲目は多い。REDの鬼気迫るハードな演奏なども収録されている。


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カウントダウン

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Countdown
2019
アメリカ

ジャスティン・デク 監督・脚本

エリザベス・ライル、、、クイン・ハリス(看護師)
ジョーダン・キャロウェイ、、、マット・モンロー(携帯ショップでケインと出逢う男性)
タリタ・ベイトマン(、、、ジョーダン・ハリス(クインの妹)
ティシーナ・アーノルド、、、エイミー(看護師長)
P・J・バーン、、、ジョン神父(オカルトオタク)
ピーター・ファシネリ、、、サリヴァン医師(看護師を食い物にする男)
アン・ウィンターズ、、、コートニー(カウントダウンの犠牲者)
トム・セグラ、、、デレク(携帯ショップ店長)
ディロン・レイン、、、エヴァン(コートニーの恋人)


これは悪魔ホラーものである。スマホはホラー向きガジェットだとつくづく思う。
何でも「カウントダウン」というアプリをダウンロードしてインストールすると、自分が死ぬ日が表示されるのだ(笑。

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モノのあり様を多少なりとも洞察した人間なら到底引っかかるような代物ではない。
全ては出来事~イヴェントとして現象しそれらの関係が互いを規定するだけのものである。
そこにTはないし、極近傍における固有時としてとりあえず時が立ち現れるだけ。
死ぬ日が何年後の何月何日だなんて冗談にもならない。
が、これが利く人には利く。そしてこれはきっとあの時の罰なのかも、、、とか。
その幻に悪魔が成りきって襲って来るから堪ったものではない、みたい。

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貞子もそうだが、最近の悪霊~悪魔はデジタル環境に馴染んでいる。
貞子もパソコンなどのノード上をデータとして移動していた。
ここの狙いを付けた対象の罪悪感を読み取り、殺される根拠を示し恐怖と不安の倍増のこけおどしに時間観念を上手く使う。
寿命までのカウントダウンだ。あと何分で死ぬってなんなんだ。

時間観念にがんじがらめになっている人間はいちころだ。しかも罪悪感を抱いている者は。
(わたしは実体としての時間などに全く囚われないし、罪悪感など微塵もないので、こういう悪魔とはまるで縁が無い)。
他人事ではあるが、見ていて面白い。

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悪魔としては単に殺したい相手を殺したいときに不安に打ちのめし充分怖がらせて殺したいのだが、予め後何時間と何分何秒まで予告してしまっているため、自分をも首を絞めており、必死である。
カウントダウンが仇となっている(笑。
めんどくせえ演出始めちゃったなと後悔してないか。

しかし悪魔という現象とは何だ?
時間を実体化させ悪魔という観念も実体化させ、ターゲットに死を齎す。
当人にとってその原因となる罪悪感の元もグロテスクに変貌させている。
まさに悪魔的。

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こんなものに怖がってしまう者はいい鴨である。
それを観ているこちらは、とても愉しめるものだ。
クインの最後の荒業には驚いたが、医薬的知識で悪魔に対し技ありで勝利か。
しかしそれは飽くまでもオカルトオタクのジョン神父が悪魔が約束を守れなかったらその呪いは解消するという原理が完全に正しいという前提の上に成り立つ。
(そういえば途中から彼は出てこなくなったが、それに意味はあるのか、続編で分かるのか?)
何だか胡散臭いのだが、、、。

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母のお墓参りの帰りにクインの携帯に「カウントダウン2.0」というアップデート版が立ち上がる。
やるね、この悪魔(笑。
またお互いに頑張ってもらいたい。




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ラブ & ドラッグ

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Love & Other Drugs
2010
アメリカ

エドワード・ズウィック 監督
チャールズ・ランドルフ、エドワード・ズウィック、マーシャル・ハースコヴィッツ 脚本
ジェイミー・レイディ『涙と笑いの奮闘記 全米セールスNo.1に輝いた〈バイアグラ〉セールスマン』原作

ジェイク・ギレンホール、、、ジェイミー・ランドール
アン・ハサウェイ、、、マギー・マードック
オリヴァー・プラット、、、ブルース・ジャクソン
ハンク・アザリア、、、スタン・ナイト博士
ジョシュ・ギャッド、、、ジョシュ・ランドール
ガブリエル・マクト、、、トレイ・ハニガン
ジュディ・グリア、、、シンディ
ジョージ・シーガル、、、ジェームズ・ランドール博士
ジル・クレイバーグ、、、ナンシー・ランドール
キャサリン・ウィニック、、、リサ


どれだけ疎外されて人生をある意味、捨てていようが、深く認め合える確かな関係が築けたとき、人は劇的に変わる、という御話。

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チャラ男で人生を通し、ファイザー製薬の営業マンで成功を収めシカゴに栄転が決まるがそれを断り医学部に進む。彼女の為に。
彼は彼女がこの先どう変わろうが彼女そのものとずっと共にあることを願う。
彼女は若年性のパーキンソン病であり、半ば人生を諦め刹那的な快楽に明け暮れ誰とも深入りしない生活を送っていた。
難病でありこの先ステージが上がって行けば体の自由も効かなくなってゆく事を知ったうえで。
しかしその自分を託してよい相手が見つかる。

Love Other Drugs004

前半は共に刹那的な享楽主義者の面でのみ付き合っている為、噺もただひたすら軽い。
ただ、他の相手より、何かが違い、惹き付け会うため、精神的な深入り、お互いを拘束してしまう関係性に及ばぬように付き合い続けてゆく、、、。この辺は微妙だが、しかしそれがあるところで変わる。
本人たちもそれに気付かずに、冗長性が続くところで突然相転換するという感じ。
つまり肉体的に結ばれているだけだと思っていたのが、深いところで本心から愛し合っていたことを認めざるを得ない。
(彼女の病状が少しづつ深刻になって行き彼との関係を断とうする流れも大きく作用するが、、、)。
そういう展開であるから、序盤はひたすら軽いのも分かる。

Love Other Drugs003

ジェイク・ギレンホールは自他ともに認めるチャラ男で突き進む(この闇については明確には描かれてはいないが疎外感は強く感じられる)。
アン・ハサウェイも手が震えて以前のような器用にアート作品など作れないことから自暴自棄な生活を送り、病気の為真剣な人間関係は全て見送っている。
どちらも刹那的な快楽に限った人間関係で済ましているところが同じであった。
ある意味、似た者同士がくっつきあったところで、愛に満ちた生活を手に入れる。
1000人と逢っても変わらなかったのに1人と逢うことで変わることが出来たと彼は言う。
彼女にとってもそうであろう。

Love Other Drugs001

そうした豊かな関係性を持つことが幸せなのだ。
実際辛いことが待っているのは分かっていても、ふたりでしっかり向き合ってゆけることは、確かなのだ。これ以上のことがあろうか。
やたらと最後が気持ち良い映画であった。
(最近、カッコつけてバッドエンドで突き放す作品が多い中、こういうのがとても貴重)。


アン・ハサウェイもジェイク・ギレンホールも突き抜けた演技で、ここまでゆくと気持ち良い。
(実は感動してしまった)。
彼女の5年前の中途半端な役とは雲泥の差であった。




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時間から外れた一日

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出来事の間を浮遊する日々を送る。
出来事が妙に強張りギコチナク、奇形するのだが、、、。
また、壊れやすい。
まだ、朝起きて夜寝るというサイクル~枠はある為、一日という意識はある。
もうゆったり身を任せる時間はないことだけがはっきりしてきた。
時間も現在~今、も切れ切れに現象するが、記述できない。

出来事と出来事と出来事が連なるだけ。
tなど何処にもないことを知る。
前のことなど直ぐに忘れてしまう。
方向も定かでないのだ。
測るものなど全ていい加減、よくって近似値。
唯一確かな怒りの感情だけが燃え盛る、、、。

怒りの光で照らしてみるが、みるべきものなどない。


Empire of the Sun



ダニエラ 17歳の本能

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YOUNG AND WILD JOVEN Y ALOCADA
2012
チリ

マリアリー・リバス監督
マリアリー・リバス、ペドロ・ペイラノ、カミラ・グティエレス脚本

アリシア・ロドリゲス、、、ダニエラ(17歳高校生)
アリーン・クッペンハイム、、、テレサ
マリア・グラシア・オメーニャ、、、アントニア(テレビ局社員)
フェリペ・ピント、、、トマス(テレビ局社員)
イングリッド・イーセンシー、、、イザベル


かなり細かく章に分けられていて、全ての題が福音書に対応するような形になっているところがくすぐったい。

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ヒロインのダニエラは、婚前性交渉でいきなり高校を退学させられる。
それからのお話。福音主義のテレビ局で働くこととなる。
父は教福音主義の牧師。
教福音主義の家庭であり、母が特に戒律に厳しく、娘の隠し持っているものなど必ず探り出してしまう。
スパイみたいなひと。退学後、船に乗せて福音主義を嫌う国で布教活動をさせるとまで言っていたが。優しい叔母の助け船で、過酷な布教活動からは免れる。
これでは、息も付けない。

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とは言え、ブログで性についての刺激的な内容をしっかり更新している。
母に見つかればただでは済まない飛んでもないものだが、その内容に即したチャットも精力的にしており、その線の仲間も多い。
自分の立場もさほど考えずやりたい放題で、楽し気に暮らしている。
この不屈の神経は凄い。
これだけの環境下にありながら自らのリビドーに忠実な生活を送っている。
母には何度も泣かれるがへっちゃらな顔をしているところが凄い。
反逆者みたいな不敵な娘だ。

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ダニエラはテレビ局で務める先輩のアントニアとトマスとも親密な関係となり、母の監視の網をかいくぐり、どちらとも性交渉を続ける。
彼女が女性にも関心を持つのは、幼いころからセイラー・ムーンに夢中で性的魅力を感じていたからだと言う。
アントニアがセイラー・ムーンに重なったのだ。
この福音主義の宗派は、洗礼は大人になって、エゴを捨てイエス最優先の生活が出来ると決心のついたときに受ければ良いことになっている。
つまりそれまでは、欲望のままに享楽的な生活をしていても、高校を退学になるくらいで何とかなるのか。
トマスも当然福音主義の信者であるが、ダニエラの強引なアタックで行くところまでいくことになった。

そんなことをしながら、洗礼を受けると言い出し、母はとても喜ぶ。
叔母も自分と同様に海辺で受けることを勧める。
しかし何で急に洗礼を受ける気になったものか。
理由を叔父に聞かれ、イエスを最優先にした生活をする気になったと返す。
だが、自分の大好きな二人から離れる気は全くないようであった。

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相変わらずの関係は続け、、、
それらを当然の如くブログに載せる。
チャットで盛り上がる。
会社でダニエラがブログを見ていて、席を外した時にトマスにそれを見られてしまう。

海辺で、アントニアとトマスと三人で歩いている時、トマスがダニエラに向け自分たちのことをブログに載せたことに強い抗議をする。
それを聞いてアントニアも切れる。
そうか、二人とも自分とだけ愛し合っていると思っていたのか、、、。わたしはこの時まで、彼女がそれぞれと愛し合ってることを二人とも知っていると思っていた。
ともかく、この海辺の一件で二人は彼女から去り、しかもその後に、一番の味方であった優しい叔母が癌で亡くなる。
つまりダニエラは、一度に大切な人を三人亡くしたのだ。

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魂の成熟なんて信じてないけど、喪失だけ実感としてある、と締めくくる。

そして最後のエンドロールの時に、フィクションと思ったでしょ、残念実話よ。とくる。
監督はこういう人だったのだ、、、。
人を食ったような映画であった。




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アン・ハサウェイ 裸の天使

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Havoc
2005
アメリカ、ドイツ

バーバラ・コップル監督
スティーヴン・ギャガン脚本
スティーヴン・ギャガン、ジェシカ・カプラン原案

アン・ハサウェイ 、、、アリソン・ラング(金持ちの娘)
ビジュー・フィリップス、、、エミリー(アリソンの親友)
マイク・ヴォーゲル、、、トビー(アリソンの彼氏、ギャングに憧れるグループ"PLC"のリーダー)
ジョゼフ・ゴードン・レヴィット、、、サム(トビーの親友)
フレディ・ロドリゲス、、、ヘクター(メキシコ系ギャング"16ストリート"のリーダー、売人)
マット・オリアリー、、、エリック(アリソンの高校のビデオ撮影が趣味の学生)
マイケル・ビーン、、、スチュアート・ラング(アリソンの父、会社の重役)
ローラ・サン・ジャコモ、、、ジョアンナ・ラング(アリソンの母)


アン・ハサウェイ は何でも熟す人だが、まさに若さが活きている。
この時期でないと出来ない役だ。
思いっきり軽いねーちゃんの役をやるというのもチャレンジであっただろうが、雰囲気は出ていた。

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しかしこの邦題で人を呼ぼうというのがさもしい。一体、どういう人が邦題つけてるの?
ちょっとトップレスの場面があるくらいでこれはない。
まさに内容は虚しい「大騒ぎ」であった。
ほとんど暇な馬鹿しか出てこない。
青春がどうのという問題ではない。全く関係ない。ただ自分の時間を持て余す人の問題である。
差別意識と特権意識をもってマイノリティを見下し、刺激だけを欲する暇な輩の自己中な我儘である。

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色々と鬱陶しく迷惑な連中だが、学校だけで騒いでいるならよい。
ダウンタウンのメキシコ系の人々にとっては、ホント迷惑なものだった。
ヘクターがアリソンが来る度に何しに来たと迷惑そうに言っていたが、全くその通りである。
相手のことなどお構いなく、自分の勝手な思い込みと欲望だけで、人のテリトリーに土足でズカズカ入って来るのだ。
何様のつもりだ?自分だけでいい気になっている。
厚顔無恥とはこのことだ。

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アン・ハサウェイも一度はこういう馬鹿女役もやっておきたかったのだろう。
何やらジェシカ・カプランに捧ぐとあり、この人物の自伝的な物語であったのか。
それにしてもわざわざ映画にするほどのものか。
こんな糞噺を。
映画的に面白い作品となっているのであれば、その部分で観る価値もあろうが、どういう意図で作ったものかが分からん。

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ただ虚しく「大騒ぎ」しているだけだった。
他者に迷惑をかけて。
いい加減にしろと、言いたくなった(笑。
この顛末をひたすら冷静にヴィデオに収めている男子学生エリックがいたが、彼は監督の立ち位置に重なる存在なのか。
アリソンに特に興味を持って撮っていたが彼女のPV的なものなのか。
「君は淋しいひとだ」と言っていたが、、、。確かに淋しいから危ない場所に何かを求めて行ってしまうのだろう。
外に何かを求めるのみなのだ。内省の契機が未だに無い。

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特に一番の馬鹿が、アリソンの彼氏のトビーである。
存在自体が大変な迷惑。
これが実話~ホントならダウンタウンのメキシコ系の人との間に相当な遺恨を残したはず。
客観的な事実関係をしっかり把握もせず、足りない頭で勝手に思い込んだ通りに暴走する。
ここでは、仲間の女子が暴行されたと一方的に決めつけて銃をぶっ放しに行く。
馬鹿は迷惑。
勿論、原因を作った女友達のアリソン、エミリーたちも同罪であるが。

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だが実際こういうのは、何処にでもいる。
重なるケースは幾らでもあるではないか。
つい最近でも、、、。


「アン・ハサウェイ 裸の天使」とかいう訳の分らぬ題で釣るしか販売会社的にはないか。
しかし見た者は二重の意味でがっかり幻滅することに(笑。
彼女のファンなら見る価値はあるにせよ。




AmazonPrimeにて









名も無き世界のエンドロール

THE END OF THE TINY WORLD008

THE END OF THE TINY WORLD
2021

佐藤祐市 監督
西条みつとし 脚本
行成薫 原作
佐藤直紀 音楽
須田景凪『ゆるる』(WARNER MUSIC JAPAN / unBORDE)主題歌

岩田剛典(幼少期:島田裕仁)、、、キダ(自動車整備工からワイン会社社長へ)
新田真剣佑(幼少期:宮下柚百)、、、マコト(自動車整備工から交渉屋へ)
山田杏奈(幼少期:豊嶋花)、、、ヨッチ(キダ、マコトと同じ親のいない娘)
中村アン、、、リサ(政治家令嬢)
石丸謙二郎、、、安藤(政治家)
大友康平、、、宮澤社長(自動車整備業社長)
柄本明、、、川畑(闇社会の輸入業社社長)


山田杏奈が出ているので観た。
単にチャーミングと謂うより、存在感と演技力が、特筆に値する女優だと思う。

THE END OF THE TINY WORLD006

いや、もう大変な「プロポーズ大作戦」であった。
噺の展開が回想と現在が巧みに絡まり切り替わりながら展開して行き、惹きこまれてしまう。
隙が無い。全体のトーンが統一されていて絶えず不穏な空気と緊張が走っている。
段々と伏線が回収されてゆき、真の目的へと収斂して行くスタイル。
(これ自体はよく見るフォーマットだが)。
コーラの缶、薔薇の花のマジック、犬、信号などの「ボタン」、、、小物が記号~象徴的な役割を要所において果たしている。

THE END OF THE TINY WORLD002

「さみしい」(淋しい、ではない)、「忘れられたくない」という感覚はわたしには無い(ボタンを律義に押す趣味も)。
主演の三人、キダ、マコト、ヨッチは、基本は親がいないと謂うところから来る、孤独~孤立感により繋がる疑似家族的なものか。
こういう関係性は特に少年期から思春期には有効であり、あり得るとは思うが、3人による小さな共同体は当然危うい。
ヨッチは2人の内のどちらかを選ばなければならなくなる。
タッチの差で先にマコトがプロポーズしていた。
キダもヨッチを深く愛していたが、二人を祝福しサポートに回る。
男の友情か、、、これは最後までブレない。

THE END OF THE TINY WORLD007

これだけならほろ苦い青春ものであるが、、、。
飛んでもないリサという女がこの小さな関係性~共同体をテロのような破壊力でぶち壊し飛び込んでくる。
彼等から最も大切なものを奪い去ってしまう。まさにマコトが結婚指輪を渡さんとしていた相手であった。
しかも犯人の父が権力によって全てを隠蔽してしまう。痕跡すら残さず。
だが運命の悪戯か、敵は何も知らず自ら彼らの牙城に助けを求めて来たのだ。
マコトがそこで動かぬ証拠を見つけ、彼は独り意を決して出てゆく。
10年がかりのプロポーズ大作戦が始まる。
この後、直ぐに彼らの小・中・高校は全て統廃合により消え、街道の整備という名目で彼らの自動車整備工場も潰された。

THE END OF THE TINY WORLD004

裏社会の情報屋を頼みマコトを探し出したキダの協力が無ければ、10年で作戦決行は無理であったかも。
金は何とか作っていてもキダの「交渉屋」が板についた彼の凄みと手練手管によってマコトの新しいIDとリサの彼氏を追っ払うことが手っ取り早く出来たのだ。この辺はマコトにとっては想定外であったことだろう。
キダは、マコトのプロポーズ大作戦に惜しみない協力をするが、最後の計画だけは認められなかった。

まともな方法では全て抑圧・隠蔽・排除されてしまう。,
その為キダは、一流モデルリサのクリスマスパーティーのTVバラエティー枠をジャックし、マコトとのホテルの一室でのライブ映像を流す。
ここで、最初は甘い恋愛ムードを醸し、視聴者はハッピーなサプライズ企画だと思い盛り上がる。
しかし徐々にトーンは変調してゆく。
会場で固唾を飲んで見守る主にリサのファンたち。
マコトのお得意の手品を使いながら、リサとその父の代議士の行った悪事が暴かれてゆく。
動揺し激しく罵り自己正当化を図ろうとするリサだが、マコトの婚約者のヨッチを犬のように轢き殺してその件を隠滅したことを認めるざる負得なくなる。果ては往生際悪く、全てを父の責任だとして逃れようとするのだが。
マコトの真の目的は、リサやその父への復讐ではなく、ヨッチが自分の選んだ指輪を気に入ってくれるかどうか、知りたいのであった。
だから全てを吐いた(とは言え絶対に青にならなければ信号を渡らぬヨッチが信号無視して歩いて来たという嘘はそのままだが)、リサ共々、ヨッチのところに行く必要があった。10年待たせたが、そんなことは大したことではない。

THE END OF THE TINY WORLD005

リサが叫ぶ中、スイッチを押そうとするマコト。最後の計画だけは止めたいキダは、そのホテルへと走りドアを蹴破る。
(これだけ大々的に放送されていれば、機動隊なども駆けつけて当然だと思うが)。
しかし教えられたホテルの部屋は、丁度爆発が窓から綺麗に見える距離の離れた部屋であった。
子どもの頃から、いつもマコトに引っ掛けられていたキダであったが、それが彼の最後の鮮やかなトリックとなった。


最近の邦画としては、「 真夜中乙女戦争」と共に面白い作品に思える。
夜の花火のような爆破など、ちょっと似た虚無的で切ない雰囲気もあり、、、。

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子役はどう見ても似ていなかった。もう少し人選して欲しい。
だが、ヨッチの子役は、これから来そうな有望な女優に見えた。
山田杏奈は、「ミスミソウ」の時ほどの魅力は感じられなかった。役柄が悲惨過ぎる上に地味であったからか。ミスミソウは常軌を逸した悲惨さでビビットであったが。
ワクワクする楽しい役をやって貰いたいものだ。
中村さんは幅をグッと広げた感あり。男子二人は静かな熱量で迫る演技が光った。
柄本明が凄みを効かせていると映画自体が引き締まる。引き籠り男子もなかなか味が出ていた。
キャストは、皆申し分ない演技であった。

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夏、至るころ

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2020

池田エライザ 監督・原案
下田悠子 脚本
西山宏幸 音楽
崎山蒼志 主題歌

倉悠貴、、、大沼翔(高校生)
石内呂依、、、平川泰我(高校生、翔の親友)
さいとうなり、、、都(謎の少女)
リリー・フランキー、、、大沼正勝(おじいちゃん)
原日出子、、、大沼春子(おばあちゃん)
高良健吾、、、小林(高校の先生)
杉野希妃、、、大沼由香里(父)
安部賢一、、、大沼直之(母)
大塚まさじ、、、有田(ペット屋の主人)


夏の爽やかな熱量、、、娘たちの夏休みが近づき、この映画(の世界)に繋がる。

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『地域の「食」や「高校生」とコラボした青春映画制作プロジェクト「ぼくらのレシピ図鑑シリーズ」の第2弾』なのだそうだ。
福岡県田川市が舞台。監督の故郷とか、、、思い入れたっぷりでは。セリフが全て方言であるし。
(フィリピンの原風景もあるのかしら、、、よく分からなかったが)。
池田エライザ監督の半自伝的作品となれば観ない訳には行くまい。
(この影響受けて、次はいくちゃんも映画を撮って貰いたい。その気はないか。バンドは是非ともやって欲しいのだが)。
音楽番組のMC一緒にやってたから当然、リリー・フランキーが出てくる。
新人ばかりの中で、しっかり締めていた。

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和太鼓である。若い生命力の象徴でもあるか。かつてこれがしきりに鳴り響く環境に身を置いていたことがあり、ちょっと懐かしい。
進路を控えた高校生、翔と泰我は和太鼓を練習してきた親友であるが、夏祭りの発表を前に泰我は進路の勉強の為太鼓をやめる。ここから自分はどうしたいんだ、自分にとっての幸せとは何だ、、、などのアイデンティティを巡る模索が始まる。
翔は太鼓を辞める気などないが、進路が具体的に決められない。「空気になりたい」発言は学校で有名になる。
そんな進路を考える男子二人の前にギターを抱えた謎の少女、都が現れる。
自由に振舞う彼女に触発され、「幸せ」や「進路」でいよいよ戸惑う彼ら。

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彼女は、思うままにギターを弾いていると注目を浴び、やがて要求に応える形で歌を唄って認められていくうちに虚しくなって逃げだしたと謂う。その間、高校に行かなかったことを後悔している。
ギターは捨てたと謂うが、曲の弾き語りを2人は彼女に頼む。
二人の通う高校の室内プールに夜忍び込み、彼女はライブで1曲聴かせる。
夜のプールは平行宇宙を感じる場だ。ある意味、アルタードステイツ。
流石、エライザ監督映画だけあって音楽は外せない(ラストの曲も渋い)。
水に飛び込む彼女と翔、自分からはそんなことが出来ない泰我。
親友二人の個性~世界の違いが際立つ。
翔は形に拘らない、自由奔放な性格、片や泰我は形通りにやらないと気が済まないタイプ。
ここに自由(という束縛)から逃げて来た都が絡む。二本の煙突の例え話も絡む。

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高良健吾演じる高校の先生が噺が分かり過ぎるが、こういう人がいるのはとても助かる。
本もくれるし。但し読書がどのように翔の中に響いて来るのか、その辺がどうも分からないが。
3人とも相手のお陰で、自分がより見えて来る。自然に内省する。
二人は別行動になる。それも必要な過程。都は何処か行ってしまう、、、出てこない。

「私の後ろを歩かないでくれ。(君を)導くことはないだろうから。私の前を歩かないでくれ。(君に)従って行くことはないだろうから。ただ、私と並んで歩いて私の友となってくれ」(アルベール・カミュ)
図書館で泰我が英語の勉強中、この有名な文章が例題で出て来た。わたしも以前、気になった文章である。
翔も結局これと同等の認識を得る(これ読書の影響?)

当然、お互いに自己イメージと相手の自分に対するイメージはかなり乖離したもの。
自分にないものを相手~友の内に見て、憧憬の念と自己嫌悪も抱き、戸惑い反発もする。
進路~別れの縁に立ち、奔放に生きる異性にも触れ、やたらと2本の煙突の一つに重なり合う場所が気になったりもして。

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結局、翔は泰我の隣にいると告げる。例え離れて、そこにいなくても。
理解や教え合うことは出来なくても、互いを受け容れることは出来る。
自分と他者との関係の問題は簡単にケリの付くものではない。
だが、友でいることは可能だ。
泰我は、夏祭りで翔と共に櫓の上で太鼓を打つ。
(彼らはホントに打ってた。余程の練習したのだろうな。爽やかな迫力で気持ち良いものだった)。
最後は吹っ切れた表情の翔であった。


演出(セリフ含)をもうひとつブラッシュアップするといいかも。
おじいちゃんと都が彼らに対しもうひと絡みほしい。
訴えかけているものは感じ取れるのだが。
でもよく、新人を使ってここまで形にしたと思う。
第一作監督作品、ご苦労様。

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この映画のいくちゃんの感想も聴きたい(観てるよね)。
次作では、いくちゃん主演で何か撮ってほしい(是非!
(デュッセルドルフ現地ロケで)。





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その壁を砕け

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1959

中平康 監督
新藤兼人 脚本
伊福部昭 音楽

小高雄二、、、渡辺三郎: (自動車整備工)
長門裕之、、、森山竜夫: (警官)
芦川いづみ、、、道田とし江: (三郎:の恋人)
二木草之助、、、谷川徳蔵:
北林谷栄、、、谷川家の妻民子:
渡辺美佐子、、、嫁咲子:
神山繁、、、咲子の結婚相手:
清水将夫、、、警察署長:
西村晃、、、刑事部長:
芦田伸介、、、鮫島卓次: (弁護士)
信欣三、、、裁判長:
伊達信、、、滝川検事
沢井杏介、、、富永清美


音楽が飛び抜けて良いと思ったら伊福部昭だった。
クレジットを観る前に恐らくそうだと思っていたが。当たった(笑。

映画もとてもタイトでかなりの緊張感溢れるもの。
小高雄二と長門裕之のベストパフォーマンスを観たきがする。
ふたりともカッコよかった。
贔屓の信欣三も裁判長役で出ており、わたしとしては文句なし。

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出だしから心理的にスリリング。
小高雄二が威勢の良い自動車整備工役で、20万で購入したワゴン車に乗り、恋人のいる新潟まで車で激走して逢いに行くというもの。クラシックカーで山道のコーナリングを熟すラリーみたいな緊張感も充分味わえる。
こちらとしては、彼女に会う前に事故など起こさなければよいな、とか心配しながら見守る感じである。
そのまますんなり会えたら、ドラマにならないということで、凄い波乱が二人に待っていたというもの。

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強盗殺人事件である。田舎の夜のほんの一時の事である。ここに丁度上手く嵌ってしまうというのも運が悪い。
事件捜査における証言の問題点~多くの場合思い込み先入観による誤認であることが、ここにもみられる。
被害者の老婆は頭を叩かれたとき、布団を被って身を守った為、隣に寝ていた夫のように命を落とすことは無かった。
だがその為、犯人を観ていないにも拘らず、警察官に引っ張られてきた男をいとも気安くその男だ、などと訴えてしまう。
これでほぼ決まってしまう(昔の警察捜査~裁判)。初動が良かったなどと警察は大喜び。

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その上、重要なキーパーソン(隣の部屋にいたはずの嫁咲子)が愛人との逢瀬でその場を離れており、真犯人の顔を観ているのに保身の為だんまりを決め込んでいた。そして直ぐに離縁により再婚し遠方に飛んでしまう。
これらの事が重なり、独りで深夜ひたすらワゴン車を東京から新潟まで飛ばしてきた三郎にとってアリバイと呼べるものはない。
妙な男を途中、車に乗せ駅近くの橋で降ろしているが、これも三郎以外に誰も知らない立証できないことだ。(この男こそ重要参考人に他ならないのだが)。
そこへもってきて、将棋をしていたすぐ近所の男が車の通る音を犯行時刻に聞いたとか言って、三郎が丁度引っ掛かってしまう。
しかも参考人として事情聴取されるのではなく、既に容疑者と確定されていることに、唖然とする。
そのときのお手柄警官が、その後に真犯人に迫って行く流れとなる。

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当然無実を訴え続ける三郎。
それを固く信じ支えるとし江:。
面会にも行くが三郎は犯人として村人には認識され、彼女は犯人の情婦扱いで物を投げられたりする始末。
この辺でわたしも激しい怒りに駆られる。非常に分かるところだ。
だが、、、検事がこの絶対的に不利な三郎の件に対し、とし江に助け舟を出す。
とても優秀な弁護士を紹介してくれるのだ。検事はアリバイが無いだけでいとも簡単に事件を決着させようとする警察の姿勢に疑問を持つ。
検事と裁判長がしっかりしていて、とし江:の意志がブレず、弁護士が敏腕で、警官に正義感が生じた為何とかなるが、皆が警察署長:や刑事部長:や村の衆みたいだと冤罪でさっさとお終いということであったはず。

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最初出て来た時はアホな警官にしか見えなかった森山が、谷川家の嫁咲子に対する未練と周辺を探る中で徐々に芽生える真の容疑者に対する感覚が弁護士の働きと共に実地検証に向かわせる。特に三郎が深夜に車に同乗させた男が金を木の根元から掘り出す場面を目撃してしまうのだ。この男の写真も手に入り、彼は暴力団とのトラブルで殺されるが、盗まれた金額とも一致した。これには目をつぶれない。
警察幹部は自らの失態を晒すこととなるため酷く抵抗するが流れは抑えられなくなる。
慎重な検証を繰り返す中で、咲子が本当の事を皆の前で自白し、犯人の確定により、三郎の冤罪は晴らされた。

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最後、三郎は散々やってくれた界隈の者に対し、クラクションを鳴らして走り切り、車を停めて「もう振り返らんぞ」と決心をとし江:に呟く。
わたしも振り返るつもりは、無い。


良い映画だった。
明日は、いよいよあの映画を観たい(笑。



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EMMA エマ

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2020
Emma.
イギリス

オータム・デ・ワイルド 監督
エレノア・キャットン 脚本
ジェイン・オースティン『エマ』原作
イソベル・ウォーラー=ブリッジ 音楽


アニヤ・テイラー=ジョイ 、、、エマ・ウッドハウス
ジョニー・フリン 、、、ジョージ・ナイトリー
ビル・ナイ 、、、ミスター・ウッドハウス
ミア・ゴス 、、、ハリエット・スミス
ミランダ・ハート 、、、ミス・ベイツ
ジョシュ・オコナー 、、、ミスター・エルトン
カラム・ターナー 、、、フランク・チャーチル
ルパート・グレイヴス 、、、ミスター・ウェストン
ジェマ・ウィーラン 、、、ミセス・ウェストン
アンバー・アンダーソン 、、、ジェーン・フェアファクス
ターニャ・レイノルズ 、、、ミセス・エルトン
コナー・スウィンデルズ 、、、ロバート・マーティン


この原作はとてもイギリスで人気のあるものらしい。これまでもミュージカル、TVドラマなどで再三演じられているもので、知ってる人も多く馴染み深いものらしい。貴族ものはフランス、ロシアのものも含め壮大な漫画でも圧倒される。(おお、池田先生!)

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わたしにとっては、これはアニヤ・テイラー=ジョイの為の贅沢なPV映画という感じ。
19世紀のイギリス貴族の「絵」を観る楽しさである。
屋敷の庭園や部屋に衣装を観るだけでも観る価値があるか。
飽くまでもアニヤ・テイラー=ジョイあっての、その風景~絵ではあるが。
実際に彼女演じるエマは絵を描いている。暇に任せというところにせよ。

地位も名誉(家柄)も財力も教養も容姿も申し分なしという名家の娘エマ・ウッドハウスにとっては、周囲の者たちへの運命を決めるようなお節介を焼くことが日課でもあった。例えば結婚噺など(そのプロポーズは断るべきよ、とか)。
影響力のある人だから自分の思い付きのフィードバックも大きい。
(あからさまな苦情で来るわけでは決してない)。
自分を頼って来る友人の為にやったことで、見事に裏目に出てその当人が悲惨なことになり、やっちまったと後悔する。
それでも誰も自分をあからさまに批判などしない。
出来ないのだ。

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だがこの女性は頭脳は明晰なため、それが分かっている。
自己嫌悪に囚われ落ち込むと、綺麗なバスケットに豪勢なプレゼントを入れてその都度お詫びに持って行くところが可愛らしい。
それをやるのがアニヤ・テイラー=ジョイ(エマ)である。
訪問を受けた方も喜んだり恐縮したりで、敢えて文句を言う人もいない。
何と言うか、周りが全てイエスマンで、真摯な態度で意見してくれる人はほぼいない、というのも本人にとり大変なことである。
父はもう過保護だし。

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ただ一人、高倉健的な言い方では、不器用なのだろうが、いつもエマの機嫌を損ねるような言い方で注意してくれるナイトリーはいた。その後はほぼ険悪な雰囲気になる。
エマはいつもなかなか訪問してくれない遠方にいるチャーチルのことばかり気にしていて、この身近な男性は蔑ろにしていた。
彼が拗ねるところをこちらは度々見せられる。エマも自分のプライドを保とうとしつつ揺れ動く。
この辺を観ていれば、最後はこの二人の蟠りも解けて、予定調和へ漸近的横滑りとなるのだろうな、と思っているとそうなるのだった(爆。
それは仕方ない。そういうものなのだ。こうしたドラマは(ヒッチコックでもない限り)。

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ともかく、最後はどうなるとかは、どうでもよく(判り切っているので)。
エマを中心とした登場人物たちとの関り~駆け引きを愉しんで見ていれば良いものだ。
特別何が起きるでもないただ続いて行くだけの日常の中で、、、。

わたしの知るアニヤ・テイラー=ジョイ作品の中では、もっとも彼女の魅力が出ていたものだ。
サラブレッド」、「ミスター・ガラス」、「モーガン プロトタイプL-9」、「 スプリット」、「ウィッチ」など他にも魅力的な役で出演してはいるが。魅力で謂えばこれだろう。

ファンは必見の映画である。



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配信は確か明日で終わり、、、







以前観たものを見直す。

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恐らく、以前観たモノについて、再度書いたらまたかなり異なる内容になるだろう。
まず考えも変わってきている部分もあり、その時の自分との連続性も基本的にない。
置かれている現実の文脈も異なる。

新たに得た知はさほどない。驚きも同時性も。
ここのところメディアを通しても実際の交通においても然したる接触、接続、転換はない。
意識の上では、、、

それでもわたしを構成する基盤は変遷してゆく。
宇宙線は常に通過している。
無意識が波打つ。

身体が拡張し、時間が解かれ、霧消する。
「場」だけが残る。


もはや以前、観た、もの、などない。



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また、酷いものを観た。

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「宇宙でいちばんあかるい屋根」という映画。
邦画の悪いところを寄せ集めたような出来。
既視感たっぷりの、テンプレで作った薄っぺらくもわざとらしい雰囲気モノ。
しかし、ここまで酷いものは、最近なかった。

出て来た俳優たちには文句はない。
皆、懸命に演技をしていたが、物語そのものに対し納得していたのかどうか疑問。
清原果耶などフレッシュで可愛らしい(浜辺美波や山田杏奈の方が好きだが)。
原作が悪いのか、脚本の問題なのか。監督が元凶なのか。
ともかく、観ている間、ずっと何なんだこれ、の連続。
ほとほと嫌になった。
最悪。

世界観が全くちぐはぐで、辻褄が合わない。
ファンタジー映画にするのか、家族をテーマに描くのか、青春の恋愛を絡めるのは良いが、、、枠が何であるのか?
だからその中でのキャラに整合性など保ちようがない。
あのわざとらしいおばあちゃんといい、その孫といい、どういう人間なのか。
おばあちゃんが魔法使いみたいな人ならそれで全ての行動をその線に徹するべきで、孫もあれでは人格の破綻というより病的な不自然さである。まるでまともに見ていられない。ヒロインのおばあちゃんへの対応もよく分からないところは幾つもあった。
親との関係も実に薄っぺら。今の義母との描き方も、書道家の産みの母とも、その関係がペラペラ。
共感するモノも何もなく、あれで家族を大切になどと神妙にアドバイスされても、何なの?!である。
(もうこういった親子関係のテンプレートには反吐が出る)。

そもそも、各キャラの造形が酷過ぎるのだ。
単に薄っぺらい変な人が出ているだけ。
それらが集まり、、、
結局、全体としての噺が、何を言っているのか分からない。
もうこれについて何やら書く気など無い。


口直しに他のものを観ようとするが、疲れてどれも途中でリタイヤ。
明日以降にしたい。
ビール呑んで、おやすみなさい。

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ガフールの伝説

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LEGEND OF THE GUARDIANS: THE OWLS OF GA'HOOLE
2010

アメリカ、オーストラリア

ザック・スナイダー 監督
キャスリン・ラスキー 原作
エミール・スターン、ジョン・オーロフ 脚本
デヴィッド・ハーシュフェルダー 音楽

ソーレン(メンフクロウ)
クラッド(メンフクロウ)
オツリッサ(ニシアメリカフクロウ)
グリンブル(キンメフクロウ)/ノクタス(メンフクロウ)
ナイラ(メンフクロウ)
エジルリブ(ヒゲコノハズク)
ディガー(アナホリフクロウ)
トワイライト(カラフトフクロウ)
ジルフィー(サボテンフクロウ)
ミセスP(ヘビ)
ハリモグラ
エグランタイン(メンフクロウ)
ボロン国王(シロフクロウ)
バーラン王妃(シロフクロウ)
メタルビーク(ススイロメンフクロウ)
ナイラ(メンフクロウ)


3DCGアニメーション映画。
フクロウの世界の抗争を描く。

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何と言っても売りは、CGの品質とVFXだ。
毛の一本一本まで活き活きと靡く。質感と動きの表現は素晴らしい。波や炎など一昔前から観ると圧倒的。
ヴィレッジ・ロードショー・ピクチャーズの製作だそうだ。ピクサーにも負けない出来栄えだ。
フクロウの種類も多い。おまけにハリモグラやコウモリ、ヘビまで揃っている。カラスもいたな。
そして実に綺麗。綺麗すぎて現実感無し。まさにファンタジーである(そこを狙っているのだ)。
こういう絵をじっくり堪能したい映画は吹替が良い。字幕などに気を逸らしていては勿体ない。

フクロウたちは、完全に擬人化されているが、観てゆくうちに普通の人のような親しみが各キャラの表情や動作に窺えるようになる。
しかし、彼等が本を書いて読んで、鉄製の武器や装具を作り、色々道具も使っているのは、ちょっと身体上違和感は覚えざる負えない。それが美的にも優れているとなると、、、。
主人公はティトという国に住んでいるが、伝説の物語「ガフールの勇者たち」を読み、勇者たちのいる国「ガフールの神木」にとても憧れている。幼少期から起源や英雄譚をしっかり読んで馴染んでいるのだ。
特にソーレンは夢中だが、兄のクラッドはそれを非現実的だと相手にしない。その辺でよく喧嘩にもなる。
まさに文明を生きているではないか。
こんな情景から、ほぼ彼らの共同体は、ネーションステートにまで達している。

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御話もテンプレートは感じるが、淀みなく展開し流れてゆく。フクロウ国家間の戦争である。
フクロウをどれだけ活き活きと描き切るかというテーマなら、余り奇をてらった物語ではない方が良い。
まだ思うように飛べない兄弟は「純血団」という人相の悪いフクロウの兵士に捕まってしまう。
そして連れて行かれたのが、「聖エゴリウス孤児院」であり、自分たちの野望の為、言いなりに働く戦士に仕立て上げようとする純血団総統メタルビークとその妻ナイラがいた。
その軍団を率いて優れた種族メンフクロウによるフクロウ世界を支配しようという魂胆だ(まさに優性思想。ヒトラーか)。
そうした企みをしそうな如何にも悪そうなキャラである。
フクロウたちの造形の描き分けが凄い。種類だけでなく品性、人格?の違いもはっきり分かる。

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そのなかに総統に歯向かうソーレンやジルフィーの脱走を助けてくれるフクロウ、グリンブルが現れる。
彼は2人に飛び方を教えてくれ、身を挺して2人を庇い何とか逃がす。彼らにこの計画を潰してもらうことを託し。
兄のクラッドは完全に総統に洗脳されて自分が認められ、いるべきところはここだと仲間入りしてしまう(ナチに入ったか)。
おまけに忠誠を誓う形で、幼い妹エグランタインまで連れて来て組織に入れてしまう。
そうしたことは、よくある噺だ。この現実味で、より人間的な世界に感じられる。

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ソーレンたちは、途中の島で更に仲間を加え、苦難の末伝説の英雄の住む「ガフールの神木」に実際に行き着く。
まさに父が幼い頃から何度も言って聴かせ自らも本で読んで来た伝説の地であった。
ここでもしっかり伝説の英雄に彼等は鍛えられ頼もしくなってゆく。
ソーレンは自分たちの観て来たことを伝え、ボロン国王はそれを信じ、偵察隊を組織するが、そのチーフが向うに寝返るなどの波乱はあるが、決戦ではかなりの迫力の戦闘場面が描かれてゆく。
兄は助けようとしたが、もう意識の根底まで染まってしまっており、どうにもならなかった。
妹は何とか救出、蘇生出来た。
動きや闘いのバリエーションも充分であった。

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そして伝説の英雄を、彼が危機一髪のところで、まだ若輩のソーレンが救い、満身のメタルビークを倒してしまう。
それによりナイラは、純血団残党を引き連れ何処かへ逃げ去って行った。
ソーレンは、ボロン国王から新たな英雄として迎えられ、皆から祝福され満足な面持ち。
大団円で締めくくられる。


特別な驚きはないが、品質の良い3DCG映画であった。



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密会

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1959

中平康 監督・脚色
吉村昭 原作
黛敏郎 音楽

桂木洋子、、、宮原紀久子(教授の妻)
宮口精二、、、宮原雄一郎(教授)
千代侑子、、、さよ(女中)
細川ちか子、、、藤原典子(紀久子の叔母)
伊藤孝雄、、、川島郁夫(夫の大学の学生)
峯品子、、、川島英子(一郎の妹、画学生)


この監督の「狂った果実」はかなりインパクトがあった。こちらは、武満 徹が音楽であったが、本作も黛敏郎でフリーキーなジャズが緊張感を高めていた。
BGM音楽がどちらも良い。
だが、郁夫の画学生の妹の鼻歌が少々ウザイ。
それを言えば、女中の無神経なデカい声も同じ部類。
(粗野な感じを出す演出であることは分かる)。

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大学教授の妻、紀久子が夫の教え子の学生、郁夫と逢瀬を重ね、不倫関係を続けていた。
青葉のむせ返る夏のとある夜、自動車強盗殺人が人目を忍ぶ彼らの目前で起きてしまう。
慄くふたりは、密会が明るみに出ることを恐れ、その事件については固く口をつぐんでいた。
しかしタクシー運転手の被害というのは、怨恨とも関係なくその場のたまたまの出遭いで起きてしまう為、犯人の手掛かりがなかなか掴めない。
そんな折、郁夫はTVで殺されたタクシー運転手の遺族の会見を観て、警察に犯行現場で目撃したことを告げに行こうとする。
紀久子に相談するが、今の立場や世間体を気にし、激しくそれを阻止しようとする。
浮気がバレたら自分も夫も身の破滅だと。
しかし正義感に燃える若者は受け容れられない。
自分を疎かにされた気持ちもあり悩む。

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あれ程この恋愛にのめり込んで、あなたを一生離さないとか言っていた女が保身にだけに必死。
あたしには夫があるし迷惑はかけられないと平然と言ってのける。
郁夫は、自分とのことは、ただの遊びに過ぎなかったのか、と激しい怒りをぶつけ、警察に向かう。
裏切られた気持ちと被害者に対する同情から、もうどうなろうと構わないと言った感じか。
それに比べ女の妙に冷静な完全に固まった方向性。
駅のホームまで追いすがり、女は青年に対し仇を睨むような突き放した眼差し(怖。

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そして急行電車が通過するときに彼の背中を押すのだ。
突然の惨劇に駅のホームが騒然とするなか、女はさっさとその場から立ち去ってゆく。
暫く歩き、塀の陰で呼吸を整えている時に、、、
二人の男が彼女を追って来た。
電気工が工事の為、この凶行を真上からしっかり見届けていたのだ。
皮肉にも目撃者によりこの女の命運は尽きた。


悪いことは出来ないものだね。
声で引っ掛かるところはあったが、展開や流れに無駄は無かった。
よく出来た噺である。


宮口精二は、「七人の侍」で一番カッコよい凄腕の浪人を演じていた人だ。
大学教授も渋くてよいが、、、。




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蜂女の恐怖

THE WASP WOMAN001

THE WASP WOMAN
1960
アメリカ

ロジャー・コーマン 監督
フレッド・カッツ 音楽


スーザン・キャボット、、、ジャニス・スターリン(化粧品会社社長)
マイケル・マーク、、、ジントロップ博士(若返り薬の研究者)
バルボーラ・モリス、、、メアリー(秘書)
アンソニー・アイズリ、、、ビル・レーン(重役)
ウィリアム・ローリック、、、クーパー(重役)
フランク・ガーステル、、、ヘルマン(探偵)
リン・カートライト、、、モーリーン(受付嬢)


スズメバチのローヤルゼリーについて独自の研究を重ねるジントロップ博士と、美とアンチエイジングを願う女性をターゲットにした若返り化粧品の開発をしたいジャニス・スターリン社長両者の思惑が重なり、彼女は博士を雇う。
(社長自らを広告塔にした会社「ジャニス・スターリン・エンタープライズ」であるため、彼女が年老いて来ることで売り上げが落ちている現状も打開したい)。起死回生の画期的なコスメを開発したい。
博士の実験の結果に驚き、研究資金とラボを提供し、成果を挙げさせる。
ここの過程の運びは違和感なく観られる。
映画として普通にしっかり作られており、可もなし不可もなしという感じで展開する。
博士の存在に不満を抱き、探りを入れる重役の動きなども適度に加えられ現実味もある。

実験動物のテストではことごとく成功し、どの動物も若返って行くのを目の当たりにし、社長も早く人間で試してみたくなる。
結局、自分が(人体実験の)人間の第一号のとなることに。
しっかり時間をかけて行わないと副作用の問題など調べられないものだが、、、早急に行うことに。
少しずつ効果は出始め5歳くらい若返るが、劇的変化が3か月経っても観られない為、彼女は深夜こっそり博士のラボに忍び込み勝手に薬を注射してしまう。
過剰摂取のお陰か、20年くらい若返ってしまい、重役たちは皆驚く。賞賛の声を上げる者もいれば、不安視する重役はおり、彼等は博士の周囲を嗅ぎ回る。秘書や社員が書類(博士からの手紙など)や博士の手帳を盗んだりちょっとやりすぎでもあるが(彼らは社長を失脚させる思惑もあり深入りしている)。

そんな折、彼は考え事をしながらの散歩中に車に轢かれてしまう。
終盤残すところ30分くらいから一気に不穏な緊張が溢れ出す。
彼が姿を消してしまったことで、社長は探偵を雇う。彼の素性と行方の捜索である。
このころ彼女は体調に異変を感じている。博士が頼みの綱であったのだが、、、。
漸く探偵たちが博士の送り込まれた病院を探し当てるが、頭を打っていて対応できない状況であった。
そんなときも社長は博士のラボに侵入し、勝手に薬を注射している。
これでは管理・観察する者もいない無謀な人体実験だ。

さて最後の20分、研究経緯を記した手帳を盗んだ重役クーパーがその続きをラボで進め手柄を横取りしようとしている時、そのクリーチャーに襲われる。
社長がそのまま蜂特殊メイクを施されて出ているようであった。が、これはしょぼい。物語の流れはなかなか良かったのに惜しい。
兎も角、薬の副作用の結果、姿が変わり狂暴になってしまう(蜂より蠅に似ていたが)。しかも吸血鬼なのだ。
いよいよ、重役会議中、体調が悪くなる。相談が必要となりジントロップ博士を看護婦と共に完全看護で連れて来る。
薬も底をついた。薬は注射ではなくローションで効果があげられるように製造しなければ商品にならない為、まだ実験は半ばである。
新商品のキャンペーン企画が進むが、その裏で人が襲われてゆく。
何かが起きていることを悟る重役や秘書。漸く意識が回復した博士が謂うには、あの薬は人をスズメバチの女王にしてしまう。相手を殺すのは習性だと。

既にクーパー、夜警も社長が変身した蜂女に殺されていた。そして看護婦も。
秘書のメアリーも手に掛けようとするが、すんでのところで、ビルと博士が助けに入り、蜂女はビルから転落死する。
博士もこの戦いで力尽きる。博士はかなりまともな研究者であった。薬の失敗を社長に伝えようと思っている時に運悪く自動車事故に遭ってしまったのだった。
「蜂女」の造形さえ何とかなっていればもっと緊張感はあっただろう。
ちょっと最後は呆気なかった。

基本がしっかり出来ている映画で特に破綻もなく、VFX以外は安心して観ることの出来るものであった。
パッケージ写真と題から連想してしまうような際物ではなく、普通に面白い映画である。




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*中古



黒い傷あとのブルース

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1961

野村孝 監督
山野良夫 原作
山崎巌、吉田憲二 脚本


小林旭、、、渡三郎(元堤組やくざ)
吉永小百合、、、小牧洋子(小牧の娘、バレエレッスンに通う)
大坂志郎、、、小牧龍造(大手スーパーの店長)
稲葉義男、、、木村(海辺の喫茶リンデンのマスター)
神山繁、、、茂原(クラブオーナー)
郷えい治、、、丈二(渡の弟分)
近藤宏、、、井田(茂原の部下)


今回も初っ端から歌だが、なかなか上手なので、気にならなかった。
初めての小林旭映画である。
喧嘩は滅法強く、トランペットに歌である。
何とかガイとか謂われていたはず。まあそれは追々。

と謂うより、吉永小百合が何故これほどの人気女優かがこれを観て分かった。
そりゃそうだ。これならな、という感じ(笑。
初っ端に列車の中で、小林と吉永が偶然出逢う。そこで面識をちょっとだけ持つのだが。
5年振りにシャバに出た渡三郎(小林)は血眼で恨み重なる仇の小牧を神戸中探しまくる。
が、手掛かりは、奴は横浜に行ったということくらいであった、、、。

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弟分と食事中、高級レストランで突然、洋子と再会。
「あなたわたしの恋人になってくれる?」「あなたさえよければ」で決まり。
いきなりかよ。帰りは急に降って来た雨で、相合傘。
かなりシュールな展開である。
(最初の密輸拳銃受け渡し場所で小牧に裏切られ、銃で撃たれたときも他の2人は死んで渡だけ軽傷なのに意識は全くなかった。そういうこともあるということにしておこう)。

そして場面転換で、高級クラブの歌姫の歌や踊りとくる。このパタンには慣れた。
自分を裏切りムショに送り、組も潰した小牧龍造を漸く探し当てたら、そこに何と洋子が。
「まあ。あなたお父様とお知り合いなの?」
渡三郎、仇を前に余裕の豪華お食事会。洋子はとても嬉しそう。
子煩悩の龍造の困惑と狼狽。娘が三郎に惹かれているとあっては、どうにも、、、。ピストル隠し持ってるけど。
500万も堤組長の遺族への慰謝料として請求されているし、小牧にとって渡は思い切り厄介な存在だ。
彼にとり、今の娘との家庭生活が最も大切なのである。

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さて、5年前小牧を使って組を潰させた奴を丈二と共に探す。
一体誰の差し金か。まずはスーパー立ち上げ資金の出所から探る。
娘に探りを入れるが、娘はウキウキデート気分。さしたることは聞き出せない。
そこに何かと洋子にしつこく付き纏う(黒幕の)茂原が現れる。はっきり怪しい。
その後、オヤジは娘に渡の過去を話し、二人の関係は一旦崩れる。しかし洋子は丈二から事の真相を聴かされる。
洋子は父親に愛想尽かし、自分の判断で銀行から500万を降ろし渡に渡してしまう。
彼は組長の遺族に渡しに行くが断られる。もうやくざは辞めたと。その世界からキッパリ足を洗ったのだ。
これで渡も丈二も吹っ切れた。復讐自体が不毛であったと。
しかし最後の野望を抱く茂原は、5年前と同様に小牧を利用し渡を消そうとする。
だが、それに背いた小牧は、茂原の手下に撃たれ死んでしまう。

洋子は自分の気持ちに正直に、将来を渡に賭ける。父の事を忘れて、、、。
(堤組の奥さんと息子は、洋子の店に勤めることになった。面白い治まり方である)。
リンデンのマスターは、渡に視野を広げる為、船に乗ることを勧めるが、洋子と共に暮らす選択もありだとする。
しかし渡は、平和な洋子の家庭を壊してしまったことに対する自責の念を強く抱いていた。
彼は、洋子がレストランで独り待つ姿をガラス越しにじっと見て去って行く。
(このパタン、かなりあるのね)。


大坂志郎は名演であった。
歌が何度も入るが、気にならなかった。
小林旭、歌上手い。

何ともむず痒くも面白い映画であった。



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女子寮祭

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1957

斎藤武市 監督
若杉光夫 脚本
岩橋邦枝 原作

轟夕起子、、、大西雪枝(寮監)
渡辺美佐子、、、篠崎ルミ(反抗的女学生)
高田敏江、、、島弘子(貧しい女学生)
安井昌二、、、田村正一(苦学生、弘子の彼氏)
青山恭二、、、津田一男(金持ちの不良学生、ルミの遊び友達)
三島耕、、、笠原助教授
清水千代子、、、北川園子(女学生)


非常に疲れがたまってしまって、こんなときにセリフの多いサスペンス物は一番避けたい。
それぞれの微妙なセリフを注意深く捉えておかないと、やられてしまう(爆。
古い邦画の学生ものらしき映画を選ぶことに、、、。しっかし、えらく暗くて重いものだった(苦。

大学の女子寮(白百合寮)が舞台。
篠崎ルミという頭は良いが悉く校則を破る反抗的女子学生と寮監大西との対決を描くのか、、、
対応に苦慮し学生のデーターにあたると、篠崎真一郎長女とあった。
うむ、もしかしてわたしの娘かも?って、これまた凄い設定で来ますな。

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そのつもりで観てゆくことに、、、。
授業サボって麻雀やってラーメン食べようとしている。その後スケートに行くが、津田の不良仲間に絡まれる。
こんなルミの生活振りと苦学生と付き合う貧しいが真面目な女子学生、弘子を対比的に描く。
皆、行動はともかく、言葉使いが良い。寮の方も別に理不尽だったり無慈悲なわけではない。
寧ろ大西寮監など仏のような慈悲深い人である。教育方針も決して高圧的な押しつけはせず主体性や個別性を重んじている。

そんなルミも、笠原助教授には気があり下宿に酒を持って遊びに行くが相手にされない(そりゃそうだ)。
それでまた不良学生たちと交わり遊びまくる。
(他の寮生も規律に縛られる生活には不満を溜め「わたしたち修道院にいるんじゃないわ」などと甘いことをぬかしている)。
ルミはドライブに行くが、不良の魂胆など直ぐに観抜くところは頼もしい。だが危なっかしい生活は続く。

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ついにルミは、賭け麻雀で警察に挙げられる。
大西は警察から彼女を引き取るが、食事に誘うくらいで、叱ろうとしない。
それに業を煮やし大西に当たり散らし彼女は、また不良の元へ。
この不良とは完全に共依存関係~嗜癖になっている。
(好きな男性は笠原助教授だが、この男とはあらゆる面から不利益しか生まないのに付き合うことがやめられない。その関係に逃げ込んでしまう)。
これは何とかしないと、、、。まずいパタンでしかない。原因は何か。

ナイトクラブでは、不良とおふくろの噺になる。
やはりルミは本当の母のいないことで荒れているようだ。
不良の謂うように、いたらいたで、どんなおふくろかという問題もあろうに。毒母だったらどうする?
でも淋しいのだ。そうなんだ。それで屁理屈を言って突っ張っている。甘過ぎる。

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篠崎ルミに、いよいよ退学処分が下ろうとする。さてどうなる?
実家から送られた授業料など全て使い込み、大学には全く金も収めていないらしい。
その上に貧しい友達弘子のお金をくすねて競馬に行ってしまう。もうここまで堕落するものか、、、。
そしてその彼女の苦学生の彼氏が無理のし過ぎで結核となり、治療費もままならぬ状況で故郷に帰ることに。
自分の不満の捌け口をこうした人に向けることは、悍ましい限り。
弘子は自分の血を売るしかなくなり、倒れてしまう。

ドンドン重くなり、ついに寮監である大西が生みの親であることを告白する。
何を今更という流れで更に重くなる。厳然とある溝はどうにもならない。
そして苦学生の彼氏も、弘子が駆けつけた時はもう亡くなっていた。
ルミも不良の彼氏に騙され悪党に売られ、乱暴したその男を刺してしまう。
どん底。

どうまとめるのか、、、まとめようもない。
どん底に着地であった。
田村正一の今際の手記がせめてもの救いか。
「生きるということはまったく素晴らしいことだ。人間の心の美しさを信じながら、、、、
親切で善意に充ちた隣人がいて、島君という恋人までいる。それを想うと僕ほど幸せな人間はいない。何故だろう自分でも不思議なくらい僕の心は明るいのだ、、、」最期に書くのだから本心だろう。



ルミは大西雪枝の後姿を窓越しに眺め、独り警察の車へ。
夜の女子寮祭で締めくくられる。


この大西雪枝先生誰かに似ていると思って観ていたが、、、。
卓球のアイちゃんに似ているのだ。彼女が年輩の女性になったら恐らくこんな感じ(笑。




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お嬢さんの散歩道

The Stolen Kiss001

The Stolen Kiss
1960

堀池清 監督
関屋清 浦山桐郎 脚本

笹森礼子、、、まり子(女中)
沢本忠雄、、、石川宏平(まり子の彼氏)
松尾嘉代、、、靖子(華子の姪)
伊藤孝雄、、、青野(大学生、靖子の彼氏)
宮城千賀子、、、里見華子(創作舞踊の師匠)
清水将夫、、、里見英輔(華子の夫、競馬好き)


今日は特にやることが多く、一時間映画ということで、これを選ぶ。
笹森礼子ヒロイン映画の中でも特に彼女が際立つものであった。
もう爽やかファンタジー以外の何者でもない。
歌が最初の頃に要所要所に入るので、ずっとこの調子かと思ったら中盤から普通の映画になる。
ホッとして観ることが出来た(笑。

The Stolen Kiss002

ともかく笹森礼子の為の映画である。
何でも素早く熟し非常に機転の利く聡明なスーパーお女中なのだ。
気難しい女主の細かい注文を全て完璧にやり遂げ、姪の靖子の悩みも聴いて適切なアドバイスをし、、、
英輔の妻に内緒の趣味、競馬のダービーで大儲けもさせてしまう。
(鱈とトマトが苦手な彼に、その食材を使った料理を作り、こんなに美味いもの食ったことないと完食させる)。
そして競馬はこの位にして家庭に目を向けてくださいと諭す。

いつしか彼女の噺なら誰もが耳を傾けるようになっている、、、。
どこぞの企業のOLになれば、出世間違いなし。
周りの誰をも明るく前向きにさせ、自分の味方にしてしまう魅力に溢れている。
これを笹森礼子が演じると納得してしまうところが凄い。

The Stolen Kiss003

靖子は、好きな人のいることをずっと隠していて、叔母の組んだ良家の縁談話をすっぽかす。
ここでもまり子が活躍するが、英輔も誰もがバラバラで大事な事を話し合い共有して来なかったことを反省する。
その縁談話の青年が何と石川宏平であった。
この男とまり子は里見家の犬の散歩中、偶然出逢い、彼の猛烈アタックで、何度かデートはしていた。
しかしまり子は決して深入りしないように身分も明かすことなく節度を守る。
とは言え、宏平が夢中になって惚れ込んでいる事は充分分かっていたはず。
ここが彼女にとっても大変なところ、、、直ぐに誰からも好かれてしまうのだ。
そういう悩みもある。

宏平はひそかに彼女の後を付けており、まり子が例のお相手だと思っていたのだ。
その見合い相手が靖子であったことを知り驚くが、彼女にはずっと意中の男性、青山がいた。
彼はまだ職もない大学生であるが、、、
まり子は、この男性と叔父叔母との顔合わせのタイミングもしっかり窺い上手く成功させる。
靖子は青山と晴れて堂々と付き合うことが出来るようになった。
宏平には、もう何の邪魔もなく、まり子にアタック、なのだが、、、。
まり子がそっと里見家の裏口を出たところを後を追って走ってゆくというラブコメ。

The Stolen Kiss004

こんなに美味い噺があろうものか、という噺でも笹森礼子ヒロインならすんなり観ることが出来る。
誰をも解放してしまう魅力である。
(家柄やら何やら柵の意識から解かれてスッキリした顔になっている華子など特に)。
妙に暗かったりシリアスなものよりずっとこういったものの方が合っているのでは。
彼女は、ファンタジーラブコメにうってつけの女優であった。




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空飛ぶ生首

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TORMENTED
1960
アメリカ

バート・I・ゴードン 監督・原案・製作
ジョージ・ワーシング・イエーツ脚本

リチャード・カールソン、、、トム・スチュアート(ジャズピアニスト)
スーザン・ゴードン、、、サンディ・ハバード(メグの9歳の妹)
リュージェン・サンダース、、、メグ・ハバード(金持ちのトムの婚約者)
ジュリー・レディング、、、ヴァイ(歌手~お化け)
ジョー・ターケル、、、ニック(脅迫者の船員)
リリアン・アダムス、、、エリス夫人(目が不自由)
ハリー・フリアー、、、フランク・ハバード(メグの父)


この監督の独特な興味深い作品「マッドボンバー」は既に観ている。
こちらは、幽霊ものである。
主人公のトムがこれでもかという具合に苦しめられる。

この映画、ピアニストであるトムの内省~独白で進むところが多い。
舞台は、或る島。
夜の灯台で、ヴァイという付き纏う二流歌手との別れ話の最中、彼女は不慮の事故で海に落ちてしまう。
翌朝、ヴァイの死骸を海藻とも間違えるなど、パニック時の心理描写も良い。
拾った彼女の時計を海に投げたら海鳥が鳴いて渡って行くなど演出も分かり易い。
しかし海辺を歩くメグとトムの2人の後を足跡だけが追ってゆくというのは、ちょっと安易。
ひょいと現れる手にしてもそう。コメディ漫画みたい。
だが足跡が多いぞというトムの指摘を直ぐに打ち寄せた波が綺麗に消し去るところなど細やかである。
そう、向こうの幽霊にはしっかり足があるのだ。
香水の匂いも必ずするので、来た時分かり易い。

まあ、よく出て来るおしゃまなメグの妹。
しかし幽霊の事ばかり気になるトムに邪険にされる。
セリフも多いし姉の婚約者であるメグより出番が多く目立っているくらい。
だがこれと謂った魅力は感じないところが何とも、、、。
微妙な子役なのだ。

幽霊の方も婚約者のウエディングドレスに海藻を巻き付けて嫌がらせである。
その前にトムから彼女に渡す結婚指輪も奪っている。こちらの方が質が悪いか。
心霊写真(トムの幻視か)にも写って来るし、余裕の嫌がらせだ。サンディにも自分の腕アクセサリーを付けさせたりして。
エリス夫人が、ヴァイがトムにしつこく嫌がらせを続けていることを知り、わざわざ灯台まで犬と共に忠告しに行く。
(トムがよく灯台に行くことは皆に知れている。これでは愛人に逢いに来てるみたいではないか)。
犬は怖がって灯台に入らないが彼女は独りで上って行き、堂々と幽霊と対峙する。
ここは、夫人が灯台から落とされないかとてもハラハラさせられるところ。
演出が上手い為、ダレずに魅せる。VFXにはいちいち注文は付けない。

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それにしてもトムはビクビクし過ぎでどんどん深みに嵌ってゆくばかり、、、。
幻視や幻聴にも苦しむ(ヴァイが声を取り戻す)。良心の呵責か。ついに首だけしっかり出て来て言いたい放題。
しかし宙を飛ぶことは無かったが、、、棚の上に乗っかってペラペラ話す(こういう映画は他にも見ている)。
あれは事故だし、霊能者でも雇って悪霊退散とかしてもらえばよいものを。
(むこうにそういう人いたかどうか)。
終盤は、ヴァイに金を貸し島まで送った船頭のニックが出て来ていよいよトムはパニックである。

ヴァイの言いなりにニックを手に掛け、その場をサンディに見られ、、、信奉者を失う。
結局、ヴァイがもう一つの自我になってしまっている。袖にした女に乗っ取られたも同じ。
こうなるともう身の破滅。と謂うより共依存的。
式は予定通り挙げるが、突然教会に入って来て花を全て枯らす。そして神父の聖書を死者の埋葬のページに。
「ヴァイ、君の勝ちだ」と敗北を認める。もう最初からこの流れは決まっていた。自分に潜んでいた殺意が罪悪感を高めるばかりであった。それが敗因である。
最後は浜辺に、ヴァイと仲良く死体として引き上げられる。
彼女の指には結婚指輪が、、、。

しっかりまとめられた作品。

Joe Turkel

ジョー・ターケルは「ブレードランナー」では、タイレル社の社長を演じていた。
(この映画では随分若いが)。
歳を取ってから凄みを増すタイプ。





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白い記憶の女

THE GIRL IN A SWING001

THE GIRL IN A SWING
1988
イギリス

ゴードン・ヘスラー 監督、脚本
リチャード・アダムズ 原作

メグ・ティリー、、、カリン(秘書、謎のドイツ人女性)
ルパート・フレイザー、、、アラン(骨董品バイヤー、イギリス人)
エルスペット・グレイ
リンジー・バクスター
ニコラス・レ・プレヴォスト


「サイコ2」から6年経ったときのメグ・ティリーの主演映画。確かに女優として脂の乗った時期か。
SWING、、、全裸でブランコに乗るところが象徴的である。
彼女の弾くピアノも印象に残り、、、
何とも謎めいたエキゾチックな美女であることは確か。
この謎な部分に人は特に弱い。
ここに登場するお金持ちのイギリス紳士などが引っ掛かり易いか。
基本、この二人の心理劇みたいな作品。
確かにこの身を情熱的に任せて来ると思えばすっと醒めて引いてしまうところなど、魔女的に魅了するところである。
とは言え、彼女の人となりなど最後まで分からず仕舞いなのだ。
(入院した病院で、身体の状況からその痛ましさが窺えたが)。


彼女はいくらタクシーで送ると言っても、いつものバスで帰るという、、、何故?
凄く忙しそうなのに、結局しっかり逢えるようにする、、、大丈夫?
公園で朝、見かけた時に子供がいたが、、、誰?
如何にも過去に何かあり気だが、アランはそれが恐ろしくて聞けない、、、分る気はする。
暗闇を恐れ寝付くまで傍にいてくれとは、どういう状態、、、やはり気になる。
ミドリガメのクッションの幻想(幻視)で何故あれほどヒステリックになるのか、、、何かあるな?
わたしは教会では式を挙げられないの、、、どうしてなの?
結局、カレンの親族は独りとして現れない。結婚のときも、その後も、、、この辺でちょっと旦那も動かないか?
更に教会でワインを口にする時に卒倒してしまう(「ご聖体」も手に持っていて口にしていなかった)、、、神に背くことでもしたの?
外から姿なき子どもの泣く声、不思議な子供からの電話、、、これってホラーだったの?
事ある毎に不安定に泣き叫び怯え、もう逃げないことにすると誓ったりする、、、どれだけ追い詰められてるの?何から?
終盤の波打ち際の沖からやって来たアレ!、、、何なの?宗教劇みたいな、、、
病院に運ばれ、何と言うこと、、、そんな状態だったの?でも、、、

THE GIRL IN A SWING02

あからさまに会話の中などで真実を明かしてゆかず、旦那のアランも打ち明けようとする彼女に対し、過去のことなど謂わなくて良いと遮り、お陰でとても精神不安定な彼女に旦那と共にこちらも振り回されるだけで、何も定かにならぬまま、不穏な空気の中で緊張しながら寄り添ってゆく感じであった。
これを監督は狙って作ったのだろうが、もう少し謎を段階的に明かす形で進行した方が入りやすくなると思うが。
何とも言えない居心地の悪さを覚えながらの鑑賞となったものだ。

ずっとモヤモヤ続きでホントに最後の方でそう言うことなの?であった。
でもスッキリしたわけでもない。
幻想譚~ファンタジーめいた部分も多く、最後に現れたフードを深く被ったカリンみたいな女性は何しに来たの?
幻想だったにせよ、、、。
不敵な面持ちで、アランの証言が終わると身を翻しスーパーヒロインみたいに立ち去ってしまう。
その後のアランの号泣。


確かに独特な雰囲気を湛えた映画であった。
これがイギリスモノか。
そうフランス映画とは違うテイストだ。
面白いかどうか、、、メグ・ティリーファンなら問答無用で観るべき映画であろう。





セルDVDにて
お出かけ先の大きなレコード屋で購入。










”Bon voyage.”



金沢国立工芸館「ポケモン×工芸展」6月11日まで。人間国宝の実力派作家たちが新たな解釈でポケモンを創造。

金沢城公園、兼六園、金沢城、ひがし茶屋街、近江市場も直ぐ近く。
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モンスターズ 地球外生命体
クロニクル
ガタカ GATTACA
チャッピー
パシフィック・リム
ザ・ミスト
オートマタ
スターシップ9
モーガン プロトタイプL-9
ロスト・エモーション
スローターハウス5
ザ・ドア 交差する世界
メランコリア
アルファヴィル
アンダー・ザ・スキン
不思議の国のアリス
イーオン・フラックス
サリュート7
アポロ13号
シルバー・グローブ/銀の惑星
イカリエ-XB1
アイアン・ジャイアント
アンドロメダ
地球の静止する日
地球が静止する日
宇宙戦争
トランス・ワールド
ロボット
ヴィデオドローム
イグジステンズ
マイノリティ・リポート
フローズン・タイム
マザーハウス 恐怖の使者
EVA
ベイマックス
ファースト・コンタクト
ファースト・マン
13F~サーティーン・フロア
あやつり糸の世界