村上ロックを聴く季節

怪奇現象みたいな暑さで、こんな時は怪談でもと思うが、白い服の女がトンネルで後ろ向きに走って追いかけて来た、みたいな話を聞いても微妙なだけであり、もっと骨のある話をじっくり聴いてみたい。
ということいで、村上ロック氏の話をまた聴いてみることにする。
わたしにとって村上ロックとは、「怪奇蒐集者 黄泉がたり 村上ロックより抜粋」で紹介した噺が極みであるが、この他にも味わい深いものが幾つもある。後を引く。というか、つまらぬものはない。
とても優れた怪奇蒐集者であり卓越した語り部である。
他の怪談師も10人程は聴いているが、この人の右に出る者はいない。
圧巻の語りであり内容である。
彼の特徴は、語り口が滑らかで淀みがない。過剰な演出などの鬱陶しい要素が全くない。
いつも噺が、すうっとはいってくる。ともかく変な癖がないところが良い。
特に噺が映像として極めて鮮明にイメージ出来ること。
これについては他の話者もそういった技術には長けているが、村上の場合、そのVFXが強烈なのだ。
そうまさにVFXである。これを映画などで実写版にするとなれば、相当高度なVFX技術を要するものになる。
こちらとしては、彼の語りによって脳内に強烈なイメージが形成されている分、ヘボな特撮をかましたら糞みそに叩かれることになろう。
そして何より、怖さの質~次元が他の話者とはまるで違う。
必ず通常の思考の枠を揺るがす驚きがあり、物理的~哲学的な思考を呼び込む強度がそこにはある。
怖いというより驚異で揺さぶる怪奇譚なのだ。

「村上ロック2」を聴いてみたが、これもまた唖然とする。
「雪女」で、父の5歳のころの親友の死を巡る怪奇現象を息子がそのまま追体験する話にはギョっとさせられた。
息子は自分の5歳の時に親友との雪の中での遊びと急に現れた美しい顔をした女の子に対する激しい違和感、その娘と遊ぶことにした親友が恐ろしい力で連れ去られたことを場面ごとに切り貼りされたような記憶として鮮明に覚えている。
個々の場面を繋ぐ(関連付ける)地の部分の記憶はない。非連続的な場面を異様に生き生きと記憶に持っているのだ。
雪女とは記憶をコピーペーストする能力を持つ者か。父子の間で(言葉によらず)記憶が引き継がれるはずはない。
(勿論、精神科医であれば、遺伝的にではなく幼少期に聴いて埋もれていた記憶~話が呼び覚まされると謂うところだが、ここでは全く父は彼に話はしていない)。
そして父のときの彼女は童女で今の息子に対しては大人の女性となって改めて現れるというのは、彼女なりの個有時を示している。
彼女ならではの文脈を持っている。彼女は何をしたいのか、どういう存在なのか。雪女とは、、、。
いずれにせよ、生々しい事象としてこんな風に語られると、伝承されている怪奇譚の色が変わってしまうではないか。
そんな説得力を帯びた語りなのだ。

まだ他にもたくさんあるが、特に「お笑い番組」、「黄色い目」、「怪奇列車」なども凄まじく面白い。
しかし何よりも「今いる世界」は空前絶後の噺だと思う。
村上ロックとは何者かと思う方は、是非これをお勧めしたい。
(いやこれを最初に聴いてしまうのも、余りに勿体ないか)。
何にしても、どれでも面白いこと請け合いである。
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