祈るひと

1959年
滝沢英輔 監督
田宮虎彦 原作
三木克巳 脚本
月丘夢路、、、三沢吉枝(母)
芦川いづみ、、、三沢暁子(娘)
金子信雄、、、庫木申一郎(不動産屋、母の愛人)
小高雄二、、、蓮池弘志(官庁勤めのお見合い相手)
下元勉、、、三沢恭介(父、国文学者)
宇野重吉 、、、佐々木教授(父の親友の国文学者)
木浦佑三 、、、佐々木篤(佐々木教授の息子、医者)
沢本忠雄、、、赤木秀夫(学友)
高田敏江 、、、西島喜代(暁子の親友)
香月美奈子 、、、白石ミツ(暁子の親友)
信欣三 、、、三沢浩介(父の叔父の医者)
東恵美子 、、、三沢たか子(病死する三沢の妻)
奈良岡 朋子、、、清水看護婦(伯父浩介のもとで働く)
内藤武敏 、、、小久保先生(学校の恩師)
「いのちの朝」をつい先ごろ見たばかりであるが、また芦川いづみ主演映画である。「いのち、、、」のほうでは、芦川いづみと宇野重吉は愛娘と頑固な画家の父の関係であったが、こちらでは父の友人の国文学者であり彼女はその先生のところでバイトをしている、というもの。
宇野さん国文学者がまたピッタリなのだ。本当に本の友達感が半端ではない。
こちらはとても愛想の良い学者である。
こういう何というか、良い雰囲気をもった人は色々な面で得だと思う。
いずれにせよ、悪くは取られない。
この先生のところでバイトなんて素敵である。わたしがやりたい。

当時の学生は喫茶店、いや「歌声喫茶」というものか、に行くと皆で意気揚々と唄い出すことも分かった。
(この年代の映画をいくつも見て来てのことだが)。
凄い歌を唄うので、圧倒される。
ここでは、「カッコウ」(先生のお宅の集会での歓迎の曲)や「カチューシャ」など、他の映画では「青い山脈」とか、「私も唄うわ」とか言って輪唱で歌ったりする。
とっても元気が出たわ、と言うんだから、よいと思う。
確かにとても新鮮でパワーを感じる。生々しいのだ。
今度、何かでこれ使ってみたい。
かなりのインパクトだ。勿論、協力者(賛同者)なしにはできない芸当であるが。
サンプリングやリミックスを多用したシーケンサーによるハウスミュージックにさして魅力を覚えなくなってきた今日この頃(もはや環境音だが)、どんなものだろう。
ともかく、カラオケでなければよい。

高名な国文学者を父に持つ大きな屋敷に住む娘であるが幸せを感じることは少なかったようだ。
家庭そのものに愛情がなかったのだ。
噺の内容的には芦川いづみが出ずっぱりなのだが、、、
短い尺なのにかなりの分量で回想シーンが入って来る。
幼い時期からの様々な人との関係性が描かれるのだが、かなりの割合なのだ。
戦争の終わりごろ、医者の叔父のところに疎開するが、親元を離れて過ごすこの地が唯一楽しい記憶として残ると謂う。
彼女は周りの人達にはかなり恵まれていたことは分かる。だが充分に孤独で寂しいことは察せられる。
大人になってからは、暇で趣味の縁談をしょっちゅう持ってくる叔母も大変ウザい。
回想に出てくるのは小学生時代だから代りの子役だ。この子も必然的に出番が多かった。
(子役独特の優等生的演技が目立った)。
「郭公ともず」という父のエッセイはすごみがあったが、結婚当初の誤解を一生引き摺って生きてゆくというのも、夫婦もそうだが娘としたらたまったものではない。とても冷え切った家庭生活であったようだが、娘が可哀そうだ。
父が登山が大好きでしょっちゅう学生を連れて行ったということなどずっと知りもしなかった。
お互いの想いを打ち明け相談し合い思いやるような空間はなかったのだ。居場所が無いとは、これを指す。
夫婦でぶっちゃけた対話をするには、お互いにプライドが高すぎたか。
芦川いづみによる娘の両親に対する反感と葛藤が品よく表現されていた。
小鳥の死んでゆくシーンが比喩的にも描写されてゆくが、これも「郭公ともず」に持ってゆくには必然的な線であったか。
(最初、小鳥を出すのはちょっと安易な感もあったが)。

しかし国文学者の父がずっと実の娘を他人の子と思い込んだまま死んでいったというのは、、、
ひとつの思いを動かすことの難しさというものをしみじみ感じさせる。
そう、いったん思い込んだら動かしがたいモノなのだ。
こころとは、厄介なものである。
小高雄二扮する横柄で自己中な見合い相手と、もうすんでのところで結婚してしまおうと思いつめたのも、実に厄介だ、こころというものは。
これは今の場所からの逃避、そして親への当てつけ以外の何ものでもない。だがそれを合理化、正当化もしてしまうのだ。
ここは、宇野先生の医者である息子とその婚約者のアドバイスは大きい。それで軌道修正し自分を見出す。

結局、友に恵まれたこの娘は強い精神を持ち、逞しく自立して行く。
学友の男友達や父の友人の医者や学者、そして同じ年頃の暖かい女性の友達など周囲の支えは、とても大きい。
「理解しあい、愛しあい、それがお互いを高めあっていくような人」
今ならこういう相手にも引き寄せられるだろう。
「明るい灯を点せる家庭」か、、、。
雑踏の中、凛々しく歩いてゆく姿が頼もしい。
吉永小百合を少し儚げにしたような素敵なヒロインだと思う。
AmazonPrimeにて
