黒い十人の女

Ten Dark Women
1961年
市川崑 監督
和田夏十 脚本
芥川也寸志 音楽
船越英二、、、風松吉(TVプロデューサー)
岸恵子、、、石ノ下市子(女優)
山本富士子、、、風双葉(風松吉の妻、レストラン「カチューシャ」経営)
宮城まり子、、、三輪子(台本印刷屋の経営、後半幽霊)
中村玉緒、、、四村塩(CMガール)
岸田今日子、、、後藤五夜子(TV局の演出担当)
宇野良子、、、虫子
村井千恵子、、、七重
有明マスミ、、、八代
紺野ユカ、、、櫛子
倉田マユミ、、、十糸子
森山加代子、、、百瀬桃子
永井智雄、、、本町芸能局長
そろそろKADOKAWAでも観なければ勿体ないと思い(貧乏性だな)、わけも分からず観てみた。
スタイリッシュな映画だ。構図に拘りを感じるが、、、。
女優が10人?出てくるが、若い人もいるのだが、雰囲気的に皆大人である。
何と言うか、今の同年齢の女優より大人の風格が窺えるのだ。
風という「ピーターパンのように影を持っていない、、、現代の機構が無ければ消えて無くなるような男」(市子)とその男を巡る10人の美女という設定(色々なタイプの女性がいるが)。
彼女らは、口々に風という男を何とも思っていない、いい加減な奴呼ばわりして非難しているが、彼のことが気になり関わらないではいられない。自分からまた寄って行ってしまう。
そういう関係なのだ。
この男に何とも言えない魅力を感じるのだが、自分のプライドから率直に認められないみたいな、、、。
風松吉はTVプロデューサーであり、いつも時間に関係なく、「忙しい」を口癖にしており、都合が悪くなると「そうだ、会社にいかなくちゃ」と言って時間関係なく深夜であろうと出かけてゆく。
必ずその時の女に突っ込まれて太刀打ち出来なくなるとそうやって逃げる。
だが、女の方も呆れたかと思ううと、後で追いかけるのだがら始末に悪い(笑。
しかし風松吉タイプの人間は増えていると思う。
深い人間関係を避ける回避型(愛着障害)は近年とても増加しているという。
(自閉症スペクトラムと共に)。
先に引いた市子は、このような男に対し「心と心を触れ合せることのできない生き物になってしまうのよ。女は男に求めるものはもうないのよ、、、」とまで言い放つ。実際そういうことになろう。だが、ほっとけない何かがあるのだ。

この風松吉は、時代的に言えばその先駆者的存在か。
TVプロデューサーという仕事からも現代人に近い生活スタイル~環境と謂えよう。
確かに仕事場を窺えば、秒刻みの動きで、大変神経も使い多忙を極める様子である。
だが、そのなかで風と謂えば、何の仕事を請け負っているのか皆目分からない。
一体何をやっているのか、見えてこないのだ。カツライスを黙々と食いながら、人の仕事ぶりを見ていたりしていたが。
こういう宙に浮いたような立場というのも、こんな職場にあるのか、と思う。
または、この男、女性関係だけでなく仕事もいい加減なのか。
確か自分が先方のプロジューサー?に連絡するのを忘れ、他の同僚に責任をなすり付けていたりしている。
だがこれで肩書のある仕事が成り立つのかと思うと、何となく全体としては回っているようなのだ。
抽象性の高い職種(箱を幾つ組み立てたとかいう労働に具体性のないもの)ほど、何もやっていなくてもやり手で通っていたりする。
もしかしたらいるだけで何らかの機能を果たす存在なのかも。
これがこの仕事~システムの何とも奇妙で面白いところか、、、。
女優石ノ下市子の洞察が光る。
風松吉は生理的に女性に好かれるタイプのようだ。
また、ちょとした寂しさとか不安とかを抱えた女性の懐にスッと入るのが自然に出来る、謂わばその路の天才なのかも。
独特のソフトで掴みどころのない雰囲気は、また浮気をされて血が上っている女性を空回りさせる。
何だか分からないが、また振出しに戻っていて、、、。
ちょっとしたマジックか?
軽快にシニカルに少しコミカルに展開するフランス映画みたいな質感だ。
10人が男を浜辺で取り囲み、毒殺して水に放り込む白昼夢も粋な映像であった。

愛人+妻の総勢10人の女性が集結し、このいい加減男(とは言え、植木等とはまた違うタイプ、向こうは猛烈仕事人)をどうするか、喧嘩腰になったり皮肉たっぷりに、またなだめ合ったりして語り合うが、結局殺すことに決めた(笑。
妻がこの男を殺したということで、残りの女性たちとの関係を清算しようという企みだ。
夫もそれに乗る。まあどうでもいいやと言うノリで。
TV局に出入りしていることから、この男がピストルを用意してくる(爆。
自宅にて女たちのいる前で、妻がこの旦那を撃ち殺して見せる。

ほかの女たちは解放されたように出て行き、三輪子は自殺する。何とも言えぬ未練があった為かこの世からの解放をも目論んだ。
だが、直ぐ空砲の狂言自殺だと謂うことが判明し(そりゃ、逮捕もなにもされていないし)、女たち皆で葉を責める。
そして結局、女優の市子がこの男を引き取ることに。
男は暇で退屈なことから会社に行きたいと駄々を捏ねるが、彼女はずっと隠遁暮らしをさせるという。
つまり二人とも体は生きながらえているも、男も辞表を出され女優をやめ財産だけで生きることを選んだ女もこれまでの社会からは抹殺された立場となる。
(わたしなら息苦しくて堪らなくなる。ブログでも書かないとやってられない(爆)。

久しぶりに、例のすっかりお友達になってしまった女たちの集まりに参加するが、四村塩などは結婚が決まったとかで、皆自分の人生を楽しんでいる様子であった。
皆に感謝される市子。本当なら妻であった葉がずっと面倒を見続けなければならぬところであろう。
どうなのか、市子は貧乏くじを引いていないのか。
最後の夜の車を運転する市子の表情が印象に残る、、、と言うか怖い。
船越英二は、こういう役をやったら右に出る人はいないと思える。
クレージーキャッツと伊丹十三にはニンマリした。
まあ、面白い映画ではあったが、わたしはSFが観たい(爆。
AmazonPrimeにて。

おまけ