カリキュレーター

Vychislitel
2014年
ロシア
ドミトリー・グラチョフ監督
アレクサンダー・グローモフ 、ドミトリー・グラチョフ 、アンドレイ・クツザ脚本
エブゲーニイ・ミローノフ、、、エルヴィン(造反した総統顧問官)
アンナ・シポスカヤ、、、クリスティ(受刑者)
ビニー・ジョーンズ、、、ユスト・バン・ボルグ(受刑者)
ニキータ・パンフィーロフ、、、マタイヤス(大尉)
キリル・コザコブ、、、総統

以前にもロシアSFは観たことがあるが、タルコフスキーの「ソラリス」は別として、それ以外のどれよりも面白かった。
地球人が他の惑星に住み着いた遥か未来の御話。惑星XT-59が舞台。
「システム」が徹底管理支配する居住区に人々は生活している。
システムの命令に従わねば、そこでは造反罪として処罰される。
ここに出てくる8人の囚人も皆、同様の罪で終身刑を言い渡された者たち。
その罰が、居住地の外、危険極まりない生物の生息する沼地に放り出されるというもの。
実質、残酷な処刑に等しい。

「幸福の島」を目指し300キロを無事に踏破すれば、命が助かると謂うが、その島の所在を知る者はいない。
実際、囚人の間でもその島の存在を信じない者がほとんど。
しかし今回、外に放り出された者たちもは選択の余地なく、ひたすらその島に向け歩き続けるしかない。
(途中の旧刑務所に取り敢えず行くことになるが)。
最初から二手~エルヴィンとクリスティ組と残り全部の組に分かれ、途中仲間割れしたりしながら進むが、鉱物の質感の植物とも動物とも取れる(高電圧の電流まで流れるような)奇怪で獰猛な捕食生物に囚人たちは襲われてゆく、サバイバルサスペンス。
エルヴィンが何故、クリスティだけを相棒にして、集団行動を避けたのか、理由がハッキリする。
集団であると地下に潜む極めて敏感で危険な生物に察知され易いのだ。
二人でのコンパクトな移動の方が小回りも効き安全に進める。
エルヴィンが知る人の限られる沼についての情報をかなりもっていることが分かるところ。
ユストも以前、沼を罪人として渡った経験があるという(どうやって生きて帰ったのか)。
(この二人は未経験の他の受刑者と違い、勝手を色々と知っている)。

沼地の生物だけで十二分に危ういのに、そこに総統の追っ手がエルヴィンらを殺しにやって来る。
絶体絶命のピンチであり、充分にハラハラさせる。
VFXも実に巧みに仕掛けられている(ロシアSFは、どれをとってもVFX~CG技術はとても高度だ。装置や飛行艇のデザインも含め)。
そして特に裂け目もなく、展開も流れも良い。
特に終盤の自分が書き換えたコードでシステムを一時停止させ敵の戦闘機を沼に沈め安堵した矢先に巨大な滝に呑まれることが分かったところなど、結構驚かせる。
山場が適所に設定された上手い作りだ。

但し、エルヴィンの相棒のクリスティが彼の忠告をいちいち無視して危険を招くところは、イラつかせるが。
ちなみに、”カリキュレーター”とは、クリスティがエルヴィンの理詰めのまるで計算機のように思考~行動する姿勢に対して付けた綽名みたいなものだ。
二人は、予想通り身を守るのに利用できた金属の箱と引き換えに、食料をユスト組に渡してしまうが、ゴキブリのような虫(フナ虫?)を生で食して生きながらえる。
何でも喰わねば300キロなど移動できない。苦行を共にすれば打ち解けても来るものだ。
エルヴィンはクリスティに自らの正体を明かす。
彼は元体制側の人間で、総統の顧問官であったがこのシステムが人道上非常に問題があることを危惧し人々に内情を暴露しようとしたが捉えられ機密情報漏えい罪に問われたという。
しかし彼はシステムに彼しか解くコードを知らないウイルスを忍ばせて来ていた。
そのままにしておけば、システム全体がシャットダウンをするのだ。

色々と難所が続き、人間同士ももつれあいながら、結局最後にエルヴィンとクリスティの2人だけ生き残る。
この辺は、こういったパニックサスペンスものの定石か。
そして「幸福の島」に辿り着いたはずであったが、そこは総督の軍事基地であった。
そこには脱出用ジェットが格納されているが、解除コードの下一桁をエルヴィンは知らなかった。
ここでクリスティが初めて機転を利かせ、最後の一桁をそれを総督と彼とが決めたときの経緯から推測する。
見事その数字が当たり、格納庫の扉が開くが、そのジェットは一人乗りであった。
ごたごたするも、ふたりで何とか窮屈なところを乗り込み、無事脱出を果たす。
10年後、その惑星はより非情なシステムにより管理されたという後日談が騙れれ終わり、、、。
一口に言えば、ロシア製のデストピア映画である。
湿り気と独特の重さと暗さをもったロシアらしい雰囲気のある映画であった。
AmazonPrimeにて。