地球最後の男

The Last Man on Earth
1964年
アメリカ、イタリア
ウバルド・ラゴーナ、シドニー・サルコウ監督
フリオ・M・メノッティ、ウバルド・ラゴナ、ウィリアム・レイセスター、リチャード・マシスン脚本
リチャード・マシスン"I Am Legend" 原作
邦訳の度に、『吸血鬼』、『地球最後の男〈人類SOS〉』、『地球最後の男』、『アイ・アム・レジェンド』という題になっている。
尚、この原作の他の映画に、『地球最後の男オメガマン』(The Omega Man)と『アイ・アム・レジェンド』(I Am Legend)があるようだ。
機会があれば観てみたい。
ヴィンセント・プライス、、、ロバート・モーガン(生物学者)
フランカ・ベットーヤ、、、ルース・コリンズ(新人類の女性)
エマ・ダニエリ、、、ヴァージニア・モーガン(ロバートの妻)
ジャコモ・ロッシ=スチュアート、、、ベン・コルトマン(ロバートの同僚、若手の研究者)
クリスティ・コートランド、、、キャシー・モーガン(ロバートの娘)
原作がかなりよく出来たSF小説に思える。
それが十全に映画化されたかどうかは疑問。
この物語の真意を伝えるには至らなかったと謂える。かなり脚本、演出的に弱い。
監督の問題か。
ここからゾンビ映画が溢れ出てきたことはよく分かる記念碑的ムービーであるには違いない。

全世界で生き残った人間が、主人公のモーガンただ一人。
全世界レベルでウイルスが猛威を振るい、、、
密を避けたり、衛生面を徹底したり、外出自粛など生活上の制限も虚しく、誰もがなすすべなく感染してしまった(どこかで聴いたことある噺だ。そうこの原作のエピゴーネンが沢山出回ることとなり、いまや現実界にも広まる(苦)。
感染者は、公衆焼却場で次々と焼き捨てられてきたが、やがて焼く役人たちもいなくなる。昼間の路上にはゴロゴロと幾らでも転がっている始末。
その埋葬はもはや彼に残された仕事~責任となり、心臓に木の杭を打ってとどめを刺した上で死体を焼却してゆく。
独りでは大変だ。直ぐに日も暮れたしまう(そうしたら吸血鬼に取り巻かれてしまう)。
日中あちこち探しまわるが、どうやら生存者は見当たらない。
世界に向けて3年間に渡りSOSを発してきたが電波を返してくる者もいなかった。
孤独を極める。
吸血たちは夜な夜な「モーガン出てこい、殺してやる」とか言ってこぞってやって来るが、かなり非力で大したことは無い。
陽の光の下では倒れて動けなくなる、鏡を怖がる、ニンニクを嫌がる、この辺は従来の吸血鬼?と同じ特性である。
また、生前の記憶や知性、そこそこの運動能力、言語能力も保持していることでゾンビとは異なる。
モーガンは、日中は“吸血鬼り”と、周辺の探査も行いチェックした範囲を地図に示し、陽が落ちたら家に立てこもり、音楽などを聴いて過ごす。時には家族のビデオを観て過去の思いに耽る。だがかなり嫌気がさしている。

だがある日のこと、生きた犬に出逢い、久々に希望に胸を躍らせる。
しかしその犬も調べてみるとウイルス感染しており、処理することとなり大いに落胆するのだった。
その埋葬をしたとき、遠くに歩く女性をみとめる。
今度こそと思ったらその通り、生きた女性であった。感染していたとしても今現在はしっかり生きているのだ。
彼女はニンニクを嫌うことなどから、モーガン博士としては感染を疑うものであるが、まだ何とかなる状態と踏んだ。
そこで、彼の血液から作ったワクチンを接種すると、見事に彼女は吸血鬼特性が消え去る。
ここで長年の博士の研究が実を結んだことになり、大変な成果ではないか。
彼の仮説では、パナマで働いていたときに感染した吸血コウモリに噛まれたことが原因で免疫が出来たに違いないと。
ホントはここから新人類への集団接種とかそちらへの展開だってあり得たはずだが、もう流れは決まっていた。
彼女は、実は新人類の共同体からモーガンのスパイとして送り込まれた来た女性であり、ワクチンで昼間に何とか動けるようになっていた。しかしそれは持続性が短い(進行を遅らせている)のだ。博士のワクチンは大変重要なはず。
彼女はモーガンに感謝し、しかし味方が命を狙い襲って来ることを伝え、逃げるように諭す。
新人類は夜しか動けないが、死んで吸血鬼になったわけではなく、飽くまでも人間なのだ。
かなりの人数がおり、新しい共同体を形成している。動きも人間そのものだ。
モーガンに対しては、昼間の間に同胞が沢山葬られており、吸血鬼同様、彼のような旧人類も粛清の対象となっており今回の襲撃となった。

この映画、最後の大切な詰めが実に弱い。
モーガンという旧人類こそが、新人類の眠る最中に彼らを殺戮して行く悪鬼というかLegend Maになっていたということである。
最後に視座が急転するのだ。
多勢に無勢でモーガンは追い詰められてゆく。ルースが彼は敵ではないことを伝えようとするが同胞にそれを聴く耳はない。
最後に逃げ込んだ教会で、モーガンは「貴様らは皆怪物fだ!わたしこそが地球最後の人間だ!」と叫んだところを槍で胸を刺され絶命する。
そして新人類たちが恐るべき旧人類と吸血鬼を倒し、地上の夜の支配者となってゆく噺である。
ただし、ルース・コリンズだけは新人類でありながら昼間も平気というマルチな人となっているはず。
この視座が一気に新人類側に移り、旧人類こそが切り裂きジャックみたいな殺戮魔となっていたという転換が強調されなければならないはずが、とても弱いのだ。
ルース・コリンズのモーガンが殺される時、そして彼の死後における仲間とのやりとり如何でその新たな世界観が示唆されるはずが、何をどう狙っているのかはっきりしない。
有耶無耶な締めであった。
勿体ない。
