モンパルナスの灯

Les amants de Montparnasse
1958年
フランス
ジャック・ベッケル監督・脚本
ポール・ミスラキ音楽
ジェラール・フィリップ、、、アメデオ・モディリアーニ
アヌーク・エーメ、、、ジャンヌ・エビュテルヌ(モジリアニの妻)
ジェラール・セティ、、、レオポルド・ズボロフスキー(専属契約した親友のポーランド人画商)
リノ・ヴァンチュラ、、、モレル(冷酷な画商)
リリー・パルマー、、、ベアトリス・ヘイスティングス(英国女性、モジリアニの交際相手)
これもフランス映画らしさが際立つ良い映画であった。とても暗いが。

モディリアーニは元々肺結核を患っていたが、貧困と大量の飲酒、不摂生が祟り結核性髄膜炎により35歳で死亡。
彼を見事に演じたジェラール・フィリップ(フランスの知性美の象徴)も36歳肝臓癌で世を去っている。
どちらも女性に大変モテたところも似ている。
ただし、ジェラール・フィリップ自身は、退廃的な生活とは縁はない。
何においても非常にエレガントな人であったという。
ゴッホもそうだが、画家にとって絵が売れないことは、致命的だ。
絵さえ売れていれば、相当違う生涯を送ったことだろう。
才能が時代に受け入れられるかどうか、これはプロデュースの力も大きい。
(売り出し方で大受けすることも結構ある)。
プロデューサーがこの場合、画商である。
親友の画商はかなり頑張ったが、モディリアーニにも譲れないプライドがある。
自分の納得のいく形で売りたい。
結局、夜の街頭で倒れて野垂れ死である。
彼の妻もこの映画では描かれていないが2日後に部屋の窓から身を投げ自殺している。
お腹には二人目の子供がいたという。

結局、モレル(映画で加えられた架空の画商か)という冷酷非情な守銭奴画商の謂う通り、彼の死後、絵は急騰する。
その後も、ずっと上がり続けていたが、今また彼のブームで物凄い高値がついている状況だ。
モレルの謂うように死が価値となるところはある。
だが、この映画では、モレルが恰も死神のように、焦燥しきって息絶え絶えなモディリアーニの後をついて歩き、彼が倒れたことを確認すると、直ぐに彼の妻の待つアパートに行き、絵を漁りまくるというこの上ないエゲツナイ行動をとる。
ずっと夫の帰りを待つ妻に対して、彼の死を告げることもせず、今のうちに絵を全て押さえてしまおうというものだ。
値の上がる前に買い漁る。
ここまで非情に徹することが出来れば、相当な金儲けも出来たことだろう。
(勿論、フィクションであるにせよ、これに近い状況があったことは、推測できる)。
映画ではあまりアトリエで絵を描いたり彫刻を制作するシーンがなかった。
描いた絵や彫刻もほとんど並んでいないし、呑んでフラフラしているシーンばかりが目立つ。
彼はピカソをはじめ、詩人のギヨーム・アポリネール、乳白色の魔術師である藤田嗣治、呑み仲間でもあったはずのモーリス・ユトリロ、彫刻家コンスタンティン・ブランクーシらとも特に親交が深かった。この辺のやり取りもあったらもっとモディリアーニの厚みが出たと思われる。セザンヌの件がほんのちょっと出ていたが、セザンヌの存在も彼にとっては大きい。
小説家であり美術評論家であるマックス・ジャコブとも関わっており、この人の動きでまたかなり違う波も起きたのでは、、、
このあたりの交流なども実は見てみたいところなのだが。
女性たちとズボロフスキー以外の関係が描かれないのは寂しい。
以前観た「モディリアーニ 真実の愛」では、かなりお友達が出ていてそれらとの絡み~特にピカソとの交流~が描かれていた。
だが、内容的にはこの映画よりマッチョな出来であった。

余りに孤独な画家で悲惨な面ばかりが際立つものであった。
だが、基本的にこの流れであったと思う。自堕落な生活姿勢はかなり正確に描かれていたと思うし。
これ程の大画家が個展は生涯一度切りしかやっておらず、3,4枚売れたとか言っていたが本当のところどうなのか。
警察とも表に裸婦像を飾ったことからもめることになり散々な結果であった。
病が進行し体調が相当悪くなり、転地療養でニースに行くが、映画ではこの土地では、何か表情も良い。
恐らく、ここにいた方が長生き出来たのではないか。
確かこの地で長女ジャンヌが生まれたはず。奥さんと同じ名であった。
映画では、赤ちゃんは一切登場していない。
この子は両親を極幼いうちに亡くしその後どう育てられたのか。
(何であれ愛着関係においては厳しい状況に置かれて育ったはず)。
長じて著名な美術史家になり、父の厳密な批判的研究書を著しているが。
映画では彼の生涯を、貧困と病と酒と女に絞り浮き彫りにしようとしている。
それだけでもジェラール・フィリップの熱演により、モディリアーニという存在が異様な説得力を持って描かれていた。
ここは鬼気迫るもので「アラビアのロレンス」のピーター・オトゥールを想いうかべてしまう。
ジャンヌ・エビュテルヌの女優は、本作も「モディリアーニ 真実の愛」も互角の素晴らしさであった。
ちなみに「~真実の愛」のモディリアーニも本人にそっくりさんでとても入り込めた。妻もそっくりさんである。
主役はどちらも文句なしである。ジェラール・フィリップの方が知的で繊細ではあるが。

ゴッホにしろ、このひとにせよ、もっと何とかならなかったのか、、、と思う。
