まったく同じ3人の他人

Three Identical Strangers
2018年
アメリカ
ティム・ウォードル監督
デヴィッド・ケルマン
エドワード・ガーランド
ボビー・シャフラン
ローレンス・ライト(ジャーナリスト)
薄くて軽い映画であった。出て来る三つ子もアメコミギャグアニメを地で行ったような、それはそれでグロテスクな迫力は感じたが。
1961年7月12日シングルマザーの元に三つ子が生まれた。
彼らをユダヤ系養子縁組機関と精神科医ピーター・B・ヌーバウアーの指示によりブルーカラー、中流層、富裕層の家庭に三つ子であることを伏せて、それぞれに養子に出し、研究チームがその後の生育状況を詳細に追跡しデータを蓄積していったらしい(しかしその研究データとその結果は長いこと閲覧禁止の機密事項であった)。
この映画は三つ子を追ったものだが、研究対象は双子を基本に、一人ごとに違う里親に出し、その後の成長状況を調べ研究するもので、何組の双子(三つ子)を対象に調べられたかはまだ明かされていない。恐らくかなりの数に上るはず。
彼らが19歳で大学の入学を機に3人が出逢うことになる(偶然か仕組まれたのかはともかく)。
それから、興味本位でマスコミ・TVに取り上げられてゆく中で、この問題の真相をジャーナリストのローレンス・ライトが資料や関係者を見つけて追ってゆくのだが、、、。
しかし1980年代に入らないと、本格的な双子研究・行動心理学は始まらない。
それ以前は、この映画のケースのように双子を別々に育てたらどうなるかが半ば秘密裏に研究されていたみたいだ。
別々に育っていれば、兎角似ているところに目が向き易い。
離れて育ったのに、そんなことまで同じだなんて、、、一卵性なら遺伝情報は100%同じなのだ。
当たり前だが似ているところにフォーカスして驚いてみたい。そしてやはり遺伝が決定要因なのだと、したくなるもの。
逆に一卵性が共に暮らしていれば、同じ遺伝子情報の下、同一環境下で全く同じになってしまうかと謂えば、そんなことはまずない。
両者のほんの僅かの差が殊更に取り上げられ、かえって大きな評価の差となって表れ当人たちに多大な影響を与える場合がある。
更に通常、年齢が上がって行けば、同じ家に住んでいようが生活環境が広がり複雑化するにつけ各自の経験に大きな違いが現れるのは当然で、住むところの違いでどうのという問題でもあるまい。
(確かに幼少期の影響は絶大である。その頃の親からの愛着関係で決まるところは大きいのだが)。
うちみたいに二卵性双生児であると遺伝的には50%くらいで、普通の姉妹と同レヴェルということになる。
一卵性と二卵性の双子を比較して研究しているところは多い。
遺伝情報の比率以外は同じ条件として見ることが出来る為。
ちなみにうちの双子は何から何まで異なる。性格、個性・特性、顔、体格も普通の歳の離れた姉妹より遥かに違う。
(ここでこれについて語り出すと大脱線になるのでやめるが、よい比較にはなると思う(爆)。
能力~才能を遺伝に重きを置き過ぎると優生学(Eugenics)みたいなものに繋がりそれを極端に推し進めればヒットラーのナチス党のような政策(人種政策)にも突き進んでしまう。まあ、このヌーバウアー博士もその流れをくんだ研究者である可能性は高い。
ただ、遺伝が大きく作用することは、DRD4遺伝子からも科学的(実体的)に裏付けされてゆくことになる。
ここでポイントは、親に何らかの精神疾患のある者を選んでいることだ。
(彼らの母が何と診断されていたか忘れたが、、、)。
どうしてわたしは、あの三つ子が不気味に思えて仕方なかったのか、、、。
それは、あの出逢った直後からずっと続く能天気なバカ騒ぎ振りである。
明らかに常軌を逸した燥ぎようには、引くしかない。
あの過剰な笑い顔にはやはり病的なものがしっかりと貼りついていた。
3人とも10代に精神を病み入院などの経験があったという。
これは、引き離されて育てられたことに関係するわけはない(当人も里親も知らぬことであり)。
まずは母の精神疾患が遺伝情報として彼らにも発現したととるべきであろう。
(更に成育環境による愛着障害なども洗わなくてはなるまい)。
単に明るい仲良し同士というものではなく、何をか隠した無意識的で過剰な演出であったのだ。
その無理が続かなくなり、一人が鬱症状のなかで自殺してしまう。
それ以前に、共同経営の店の運営に関する対立で一人が抜けてしまっていた。
映画の中では、里親のひとりが彼らが協調し妥協するような経験を積むことが出来なかったからだと言って、3人を分断した研究の弊害のように語っていたが、三つ子の件は事後的に分かった事実であり、何らかの適応障害に苦しんでいたとすれば、母からの精神疾患の遺伝によるものか、生育環境~愛着関係によるところのもの、またはその相乗作用によるものと考えられよう。
わたしは、もともと母譲りの精神気質をもった当人が里親との関係が上手く取り結べず成長する過程で症状が発現・悪化し不幸な結果を招いたのだと思う。
自殺したひとりの里親(父親)の教育姿勢からして、子供を操作し頭から道徳を押し付ける典型的な毒親であり、それに反抗するしなやかさを持ちえなかったところが発病に繋がったのだ。他の里親は、遺伝形質を発現させない安定した愛着を示していたようだ。つまり成育環境はとても大切なものだと言える。
母の精神疾患がどのようなかたちで発現するかという研究であったならば、預ける家族は単に経済~教育レベルの異なるパタンといよりどのような愛着パタンをもって育成出来る家庭かで分けるべきだろう。恐らくそこまで考察した上での里親選定であったようにも受け取れる。ある意味、起こったことは全て想定済みのものであったかも知れない。
