田舎司祭の日記

LE JOURNAL D'UN CURE DE CAMPAGNE
1950年
フランス
ロベール・ブレッソン監督・脚本
ジョルジュ・ベルナノス原作
ジャン=ジャック・グリューネンヴァルト音楽
クロード・レデュ 、、、司祭
ジャン・リヴィエール 、、、領主
ニコル・ラドラミル 、、、シャンタル(領主の娘)
ニコル・モーリー 、、、ルイーズ(シャンタルの家庭教師、領主の愛人)
レイチェル・ベーレント、、、領主の妻
アンドレ・ギグベール、、、トルシーの司祭
アントワーヌ・バルペトレ 、、、デルバンド(医者)
マルティーヌ・ルメール、、、セラフィタ(司祭の教義問答の生徒)
「バルタザールどこへ行く」、「スリ」、「ブローニュの森の貴婦人たち」は観ているが、まだ肝心な何作かは観ていない(「ジャンヌ・ダルク裁判」、「少女ムシェット」、「湖のランスロ」も、やはり観ておかないと、勿体ないだろう)、ロベール・ブレッソン監督の初期の作品である。
この作品、わが敬愛するタルコフスキーの最高のお気に入りだそうで、心して鑑賞したが、間もなく何度か睡魔に襲われる。
(懺悔せねばなるまい、、、この信仰の不可能性を突き詰めた映画で、不謹慎な)。
「ジャンヌ・ダルク」は、リック・ベンソンのミラ・ジョヴォヴィッチ主演では観ているが、かなり違うだろうな(これもかなり良かったが)。
彼はシネマトグラフと自身の映画を呼び、役者をモデルと言う。
今回もほぼ素人を使い、過剰な意味が帯びてしまうことを防いでいる。確かに自分の好きな役者が出たりすれば、その役者の演技を楽しみたいなどと言う鑑賞を許すことになる。
不純物は出来る限り取り払いたい。
純粋なテクストの提示、それが可能なら。
潔癖な人なのだ。
この主人公も同様に潔癖だろう。
彼は会う人みんなから、体の調子が悪そうだ。気をつけ給え、みたいな事を言われる。
(坂口安吾が聞いたらきっと羨ましがるに違いない),
この青白い主人公は、自らの使命の遂行のため、病を隠し通す。
言い訳をしない。
誤解も解かない。
全てを周りの(悪意ある)人々に委ねる。
これが司祭というものか、潔いのか、諦観もあるのか、ちょっと独特な宗教的な自閉性を感じる。
(シュルレアリストなら承知しない(爆)。

彼の初めての教区は、閉塞的で悪意に満ちた「バルタザール〜」でも印象深い共同体である。
そして結局、バルタザールと同じように、自分の意志などと関係なく、若くして生を取り上げられてしまう。
もう一つ共通に感じられることが、女性の裏切りと喪失である。
飼い主の裏切り、一目置き信じた女性〜少女の悪意である。
この辺、監督の原体験〜女性観なども感じてしまうところだ。
セラフィタはバルザックをちょっと意識してはいないか。ちょっと聖性を感じる少女ではあったが、悪魔だった、ような。
物語の展開の仕方はこれまで見たブレッソンのどれとも異なり、「日常の出来事を率直に書いた」日記にそくしてそれを読みつつその情景を描いてゆくタッチである。
(本当に虚飾のない表現もない素直な感情が書き記されてゆく)。
その文面が余りににシンプルなもので、それに従い展開する物語もミニマルである。
とても淡々とした干乾びた不毛の日々が反復される。
その間、胃の痛みは増してゆき、当初から肉・野菜が食べれず、ずっと安物の砂糖を入れた赤ワインとパンだけで過ごす。
これでは胃癌も進行するばかりだろう。度々倒れるが無理もない。
派手に吐血もする。
彼の教区の人間は彼を蔑み、ベテランのトルシーの司祭などは、教区の人間を蔑む。
根拠のない悪意と噂話に全く的外れな忠告。
これではコミュニケーション意欲も消失しよう。
彼らとのやり取りを経て、次第に信仰に対する懐疑心が大きく育ってゆく。
やはり一方的な癌の進行にも伴いか。
そして祈れなくなる。不眠に陥る。だが「仕事」は続ける。
内省と思索が迷いを深めてゆく。
不信感は募り、懐疑が頭をもたげる。
書くことは確かに優れた方法である。
自殺や激しく生々しい憎悪の告白が彼(の生)を揺り動かす。
音楽の入り方も禁欲的で良い。
領主の妻を導く、かなりの尺を使った件がかなりシンドイ。
ある意味、ここが真骨頂なのかも知れぬが、ここでのやり取りに関しては、わたしは蚊帳の外であった。
タルコフスキーのような宗教者(神学者)でないとついては行けないだろう。
ここを頭で理解しても意味はない。平穏なこころを見出し夫人は自殺する。

自転車による移動はみぞおちに来たが、オートバイに乗って疾走したとき、初めて危うい生の快感を知る。
ここが素晴らしい。ここでの彼の歳相応の明るく爽やかな笑顔に共感する。
こちらまで救われる思いがした。
死と隣り合わせで、バイクで飛ばすことは生の快感に直結するのだ。
彼はここで、違う生の可能性にも想いを馳せる。
だが時すでに遅すぎた。
死ぬ間際に彼が言い放ったという、、、
「それがどうした、すべては、神の思し召しだ!」
、、、実にカッコよい捨て台詞だ。
強烈な皮肉でもあり不信感の表明でもある。
クロード・レデュはとても優れた役者だと思う。そして他のキャストも申し分ない。
ロベール・ブレッソンの意図は充分に達せられているはず。
暗いディテールを見るならこちらBlu-rayか。
しかしわたしはDVDでも問題は感じなかった。
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