レイク・マンゴー ~アリス・パーマーの最期の3日間~

LAKE MUNGO
2008年
オーストラリア
ジョエル・アンダーソン監督
デヴィッド・パターソン音楽
タリア・ザッカー、、、アリス・パーマー(女子高生)
ロージー・トレイナー、、、ジューン(アリスの母)
マーティン・シャープ、、、マシュー(アリスの兄)
デヴィッド・プレッジャー、、、ラッセル(アリスの父)
スティーヴ・ジョドレル、、、レイ・カメニー(霊能者)
ドキュメンタリーを装って作られたホラー映画
インタビューを録りながら進めてゆくニュース3面記事的なノリで事件への臨場感を高める(演出する)。
結局、幽霊の存在を主張する霊能者側の立場に立った映画となっていた。
まず、アリス・パーマーが溺死したところから始まる。
不在の少女を巡る物語である。
ただし、父が事務的な検死に立ち会うが、その時の溺死体がはっきり鮮明に映し出される。
これは通常お茶の間ニュースでは人権などの配慮もあり映されることはない。
ドキュメントとしての表現からは、はみ出ている。
彼女の死後、パーマー家で不可解な事が起きる。
夜、家のなか、特に彼女の部屋で物音がする。
この音は父も母も兄もはっきりと聴いており、家族中が不安と恐怖に駆られてゆく。
家の点検も含め色々な角度から調べるが、原因は分からない。
母が霊能者レイのカウンセリングを受ける。
彼の提案もあり、兄が3か所ほど家の中のポイントになる場所にビデオを据え付ける。
もの音のする深夜の様子を掴みたいのだ。
するとそのビデオにアリスらしき人物が映り込んでくる。
(ちょいとお手軽な感じを受けたのだが)。
もしかしたらアリスは生きているのではないかという疑念が家族に生じ、墓を掘り起こしてDNA鑑定をすることとなる。
しかし結果はアリスに間違いないと言うものであった。
すると映っているアリスは、、、彼女の幽霊なのではないか、、、。
ここでアリスの彼氏が面白いことを語る。
「何故、幽霊が必要なのか理解できない。幽霊が人の喪失感を埋めてくれるのか?」
喪失感に対応して現れるもの(用意されるもの)が幽霊なのか、、、。
この認識はある意味、的を得ていると思われる。
深夜父が気配を感じ、アリスの部屋で座っているとアリスに実際に遭う。
これは決定的なことだ。
彼女は気づかない様子であったが、はっきり父は彼女を見た(という)。
彼がベッドの端か、何処かに触れて音を出したため彼女が彼に気づき、そこを出て行ってと激しく叫ばれる。
父は居間に行きさめざめと泣いているところを母に目撃された。
仕事に逃げていた(追い詰められた)父の深層心理において幽霊が実体化してきたのか?
しかしその後、兄のマシューが写真やビデオに映った妹の画像は全て自分が合成したものだと告白する。
家族は混乱する。
この兄は何を考えているのか?
これも兄の心的動揺~混乱による脅迫的な行為によるものか?
アリス存命のうちに録ったスマフォの動画や他人の家で撮られたビデオやらが色々なところから出て来て、秘密主義であったアリスの生前の人となりや思わぬ側面や抱え持ってきたものなどが浮上して来る(当然誰でも少なからずそういうものだろうが)。
そして、レイに死の5か月前にのっぴきならない理由でアリスはカウンセリングを受けていた。
このことが今更明るみに出たことで、パーマー家はレイに対する信頼感を失う。
そして、レイク・マンゴーに高校のキャンプで行ったときに、彼女が楽しく燥ぎ回るクラスメイトから距離を置き、別行動をとっていることが分かった。ここがもっともショッキングな場面であったが、彼女がその時に失くしたと家族に語った時計とブレスレットと携帯を彼女自身が埋めていたのだ。親友が撮ったスマフォ映像を手掛かりにその場所に行き、掘り起こしてバッテリーの僅かに残った携帯の動画を見てみると、そこにはアリスの溺死した時の顔が映っていたではないか。
恐らくこれが自分に降りかかる近い将来の災厄であることを直感し、恐らくは避けられない不幸とその恐怖に慄きレイのところに助けを求めに行ったことが推測できるのだった。
予めそういった運命が分かってしまう~分かったと確信してしまうことの恐怖と不安は尋常なものではないだろう。
母親からも秘密主義と言われていたアリスは、結局家族のだれにも相談せず独り抱え持ったままでダムの事故を受け容れたのか?
レイには相談したとはいえ、守ってはもらえなかったことになる。

レイク・マンゴーから戻ってからある意味、パーマー家は前より家族としてのまとまりが強固なものとなっていた。
さらに距離が出来ていたレイとも和解を果たす。
そして残った家族で引っ越しをすることにしたのだ。
パーマー家は、アリスの存在~霊の存在をはっきり認識することなく、引っ越してゆく。
最後にアリスが母が部屋に入って来るのを見守るが母は彼女に気づくことなく家を出て行ってしまう。
兄が合成した映像の他の部分や写真にアリスが映っていることには誰も気づかず仕舞いであった。
もはやパーマー家にとって、霊は必要なものではなくなっていた。

よくあるホラー映画にはない、とても物悲し気で内省的な音楽が印象的であった。
ショッキングに煽る映像や効果音も余り目立たなかった。
トワイライトゾーンの風景に郷愁を覚える。
わたしにとって、幽霊の役目について考える機会となった。