誘う女

To Die For
1995年
アメリカ
ガス・ヴァン・サント監督
バック・ヘンリー脚本
ジョイス・メイナード『誘惑』原作
ニコール・キッドマン 、、、スザーン・ストーン(TV局のお天気キャスター)
マット・ディロン 、、、ラリー・マレット(スザーンの夫、イタリアレストラン経営)
ホアキン・フェニックス 、、、ジミー・エメット(スザーンに操られる高校生)
ケイシー・アフレック 、、、ラッセル・ハインズ (スザーンに操られる高校生)
アリソン・フォランド 、、、リディア・マーツ(スザーンに操られる高校生)
イリアナ・ダグラス 、、、ジャニス・マレット(ラリーの姉、フィギュアスケーター)
実話を下敷きにした物語だという。
女の魔性をフルに描いた映画であろう。
面白い映画であるし、悪女のニコール・キッドマンの魅力もタップリ堪能できる。
TVドキュメンタリー調に展開するところが観易く、コメディタッチでもある。
TVに出て有名人に成ることを至上目的に掲げその為には手段を選ばぬ女の噺だ。
だが、ひとつネックもある。
果たして夫を殺害するほどの状況であったか?
基本的に彼女をTVに売り出すところでは彼も同意していたはずだ。
夫も店に大物ミュージシャンを呼び、録画映像をスザーンにTVで紹介させることで彼女を有名にしようと提案していた。
同時に店をPRして盛り上げることを意図しているが、それも経済的に不可欠なことである。
夫が邪魔になり殺害する動機が弱いというか曖昧なのだ。
(敢えて探せば子供を欲しがっていたことくらい、、、)。
それに夫は、人としてとても良い人ではないか。
今は大物俳優のホアキン・フェニックスが何とも頼りない高校生でニコール・キッドマンに良いように翻弄される。
たぶらかされる頭の弱くお人よしの男子学生を巧みに演じていた。
(ホアキン・フェニックスの演技は特筆ものであった)。

何と謂うか、スザーンの有名になろうと色々企画を立てて頑張る過程はとてもまともである。
周りを全く見てはいないにしても、上の人がしっかりサポートしてプロジュースできればものになる可能性はある。
だが、何故だか夫が鬱陶しくなったのか、殺害を思いつき、、、別れるのではなくいきなり発想が飛躍し、、、その実行犯にお頭の足りない3人を選んで、ほぼ勝手にやらせる。
普通、クライム映画などでは緻密な計画・準備・人選のもとに犯行を企てるが、ここではいい加減で行き当たりばったりの証拠も残しまくりのお粗末さ、、、仕方ない、彼らは何も考えず急かされて、細かい指示も与えられずに、ただスザーンに気に入られたい一心でやってしまうのだ。

しかし現実の犯罪なんて、どちらかというと、こういうパタンの方が多いと思う。
これは、スザーンに恋焦がれているジミーと彼女に憧れ信じ切っているリディアの思春期のふたりがとても瑞々しくも痛々しい姿を晒す(演じる)ことで余計に説得力を増す。ラッセルはよく付き合ったなと思うが、捕まって直ぐに全て自白したのは彼であった。
リアルな生々しさはとても伝わるものだ。
これに比べると綿密な計算で遂行される完全犯罪など平板で非現実的な絵空事に思えてしまう。
そう、匂い立つような思春期の欲動と自己中心の欲望が絡んで思慮を一切欠いた短絡的な犯行がなされた。
だから、バレるのも容易い。そもそもバレずにやろうという意思すら感じられない。
ただ、スザーンに忠誠を誓っていることを示したかったのだ。
結局、少女リディアのお腹に警察の付けたマイクでスザーンの指示による夫殺害であることが捕まれる。
(いじらしい程にスザーンを崇拝していた割にさっさと警察に協力している)。
勿論、スザーンは弁護士を立て真っ向から対立はするが。
取り敢えず、この時点で彼女は全国レベルで有名人となったことは間違いない。
ある意味、目的達成か。
その後のインタビューで、彼女はありもせぬ亡き夫の薬物疑惑などをでっち上げたのが命取りとなる。
高校生3人を薬の売人に仕立て、取り引きのトラブルで夫は殺されたのだと。
これに激怒した夫の父(義父)はイタリア系マフィアともつながっている。
TV業界のプロモーターのような風情で現れた男に打ち合わせということで雪原~氷原のなかに連れて行かれ、、、
氷のなかでスザーンは凍結することに。
ラリーの結婚に大反対であった姉はフィギュアのスケーターである。
彼女はスザーンをずっと冷たい女と批判していた。
皮肉なものである。

ニコール・キッドマンの究極的に薄っぺらな自己中女も、素敵であった。
演技派ホアキン・フェニックスとダイエットプログラムをクビになっているリディア役アリソン・フォランドのリアルなボーダー上の学生演技は見応えがあって、面白かった。