最高の花婿

Qu'est-ce qu'on a fait au Bon Dieu ?
2017年
フランス
フィリップ・ドゥ・ショーヴロン監督・脚本
クリスチャン・クラヴィエ 、、、クロード・ヴェルヌイユ(父、カトリック教徒でドゴール主義者)
シャンタル・ロビー 、、、マリー・ヴァエルヌイユ(母)
アリ・アビタン 、、、ダヴィド・ヴェニシュ(次女の夫・ユダヤ人、失業中)
メディ・サドゥン 、、、ラシッド・ベナセム(長女の夫・アラブ人、国選弁護士)
フレデリック・チョー 、、、シャオ・リン(三女の夫、中国人、銀行の幹部)
ヌーム・ディアワラ 、、、シャルル・コフィ(四女の恋人、コートジボワール出身カトリック教徒、舞台俳優)
フレデリック・ベル 、、、イザベル・ヴェルヌイユ(長女、弁護士)
ジュリア・ピアトン 、、、オディル・ヴェルヌイユ(次女、歯科医)
エミリー・カン 、、、セゴレーヌ・ヴェルヌイユ(三女、画家)
エロディ・フォンタン 、、、ロール・ヴェルヌイユ(四女、テレビ局の法務部)
パスカル・ンゾンジ 、、、アンドレ・コフィ(シャルルの父、退役軍人)
サリマタ・カマテ 、、、マドレーヌ・コフィ(シャルルの母)
タチアナ・ロホ 、、、ヴィヴィアン・コフィ(シャルルの妹)
自分の娘4人がそれぞれアラブ人、ユダヤ人、中国人、最後にアフリカ人と結婚となり、混乱を極める裕福なフランス人家庭を描く。
アルビノの人も出て来たりして。(監獄の中で)。
差別対象になり得るであろう人たちが勢ぞろいである。
(確か昨日も怪物が勢ぞろいであった)。
移民の国フランスである。
この手の噺があっても可笑しくない。
4人娘が4人とも外国人と結婚というのはこの映画ならではの誇張としても。
ただし全員、フランス語を流暢に話し、教会(カトリック)で歌も唄う。
(しかし民族の誇りは高い。特に宗教問題は譲らない)。
とても忙しいコメディ作品であったが、軽快でリズムの好い楽しい映画であった。
キャストがとても良い。
葛藤しオロオロうろたえるヴェルヌイユ夫妻が特に面白いが、娘たちも個性・性格が分かり易く(特に画家の神経過敏な3女がナーバスで)やり取りが楽しい。婿たちのそれぞれの民族意識の張り合いといい加減さも、掛け合いも笑える。
それでいて、義理の両親に上手く取り入ろうともしている憎めない連中だ(言いたいことを主張し合った後、皆でフランス国家を唄い、義父を手なずけていたりする(笑)。
その辺のコミカルなタッチで魅せている部分はかなり大きい。

差別という問題にフォーカスすれば、かなり堅苦しいものになるだろう。
差別の場は別に人種とか宗教・信条、社会的階級などだけでは勿論ない。
僅かな価値観の違い、利害関係からも差別は生じる。
何処にでもどんな場にもそれは存在する。
そもそも差別のない状態というものが在り得るか?
つまり差別を生む権力関係は、基本的に人が二人出逢えば不可避的に生じてくる。
だが、極めて日常的な微細な場面での差別を描くのは、かなり困難であり、面白く描くのも大変だ。
コメディ化出来れば凄いが、、、そういうものも見てはみたいが、、、。
この映画は移民問題に何かと揺れるフランスの(ゆとりのある層の)一般家庭ヴァエルヌイユ家を舞台に人種の異なる娘婿とその親族との関わりを面白おかしく描いてゆく。
夫婦自慢の美しい娘たちの結婚相手がよりによって何で全て外国人なんだ、しかも白人は一人もいないとは、、、。
という差別意識~いや差別生理を婚姻問題に絡めて誇張して描くところにこの噺の面白さ~肝がある。
クロードとマリーの現実と何とか折り合いを付けようと努力する様が可笑しくもペーソスに溢れ、カトリックとドゴール主義のもとプライドを守ろうとしながらも迎合する父と精神分析医に通い、ネズミに対する恐怖を他者~外国人に投影してしまっているのだと自己分析し合理化と受け容れを図る母、、、本人たちにすればのっぴきならない駆け引きでもある。
1女から3女の婿たちが、自分たちの立場を守る為、四女の結婚を邪魔しようとするところなど、確かに現実味がある。
何とか、自分たちとの関係は上手く落ち着いてきて安堵した矢先に、四女がこともあろうに黒人と結婚しようというのだ。
婿がカトリックではあっても大波乱である。
両親はその受け入れを巡り離婚状態にまで至る。

さらに黒人の彼シャルルの父アンドレは、ドゴールのアフリカ政策に怒りを覚えている。
彼の方も白人を差別しており、大変な頑固者である。
当然の如く、クロードとアンドレは激しくぶつかり合う。
そして、両方ともに結婚に反対であることから、何とか協力して式をやめさせようと仲良く相談になる。
一緒に釣りをして大きな獲物を釣り上げたり、泥酔して入ったケーキ店で警察に捕まったり、留置場でアンドレがアルビノの人に過剰反応して切れたりするまでに、何度も二人の間際で差別が顕になってゆく。
しかし、もしそれなし(その要素を徹底排除した形)では、逆に何をどう描いた映画でもセリフなど成り立たなくなるだろう。

終盤になってコメディさの度合いが加速する。
あれだけ反目しあっていたクロードとアンドレが酒の勢いも手伝ったか意気投合し、一気に畳みかけてくる。
多分にコメディな映画であるが、最後に四女ロールが両親のことを思いシャルルに別れを告げパリ行き特急に乗っていってしまうところをオヤジ二人組で阻止する。
そのやり方がもうローワン・アトキンソン(ミスタービーン)の域なのだ。
そこまでやるか、、、しかし笑って許してといった強引な流れがすでに出来ている。

何なんだという全てが丸く収まる派手なハッピーエンドである。
皆仲良し、関係も修復、ファミリーこそ善という構図である。
兎も角、笑いながら観てしまった。
確かにキャストの演技が面白いので飽きるようなことはない。
わたしは、(病んだ表現主義みたいな)画家の彼女に妙に惹かれるところがあった。
(皆から作品を邪険にされていて、実家に帰る時だけ父が壁にかけておくところなど、ホントにリアルで面白い)。
観て損はない作品だと思う。