インフェルノ

Inferno
ロン・ハワード監督
デヴィッド・コープ脚本
ダン・ブラウン『インフェルノ』原作
トム・ハンクス、、、ロバート・ラングドン(ハーバード大学宗教象徴学教授)
フェリシティ・ジョーンズ、、、シエナ・ブルックス(医師)
オマール・シー、、、クリストフ・ブシャール
ベン・フォスター、、、バートランド・ゾブリスト(天才生化学者)
イルファーン・カーン、、、ハリー・シムズ
シセ・バベット・クヌッセン、、、エリザベス・シンスキー(WHO医学博士)
「スプラッシュ」の頃からみると随分高齢の大ベテランとなったトムであるが、かなり体を張った好演である。
(わたしとしては、彼の派手な主演作品より「ブリッジ・オブ・スパイ」のような渋いものが好きなのだが)。
天才生化学者バートランド・ゾブリストは人類の半数を滅ぼすウイルスの拡散を計画した。
人類を救うには、人口の制御が必要だと。そこで疫病を作り出し、世界に蔓延させる。
確かに人口爆発への懸念は以前からある。何らかの有効な手を打つ必要はあるにせよ。
(この映画では、そのまま放置しておけば、100年後には人類は滅亡してしまうという)。
天才科学者と言う割には、発想がシンプル極まりないところが謎だが。
(ただのバイオテロリストではないか)。
演説が得意で、その扇動力により信奉者が多く、ある種のカリスマであり大変な富豪でもあった。
基本、人を説得して集められ、金があれば自分の思うことを達成できる可能性は高いものとなる。
例によって、謎解きサスペンスである。
ダンテの叙事詩「神曲」の「地獄篇」に隠した謎の解明を巡るサスペンス。
ボッティチェッリの「地獄の見取り図」が鍵となる。
ボッティチェッリの象徴性や秘められた寓意などは、謎解きにはうってつけだろう。
(ボッティチェッリの特集もやりたくなった(笑)。
しかし今回はさほどそれを丹念にするというほどでもなく、ダンテの詩の方に偏っていった。
「人類こそが病そのものであり、インフェルノはその治療法だ。」
『ダ・ヴィンチ・コード』、『天使と悪魔』に継ぐ第三弾。(前二作に比べると少々稠密さに欠ける印象があるが、執拗な絵の分析などの集中度が薄いせいか?)
インディージョーンズと趣を異にするラングドン教授シリーズである。
ちょっと、「アウトブレイク」的な切迫感もあるか。
芸術・考古学の知識を縦横に発揮して謎を解いてゆく、スリルも充分である。
フィレンツェ、ヴェネツィア、イスタンブールと今回も飛ぶ。
ベッキオ宮殿、サン・ジョバンニ洗礼堂、トルコ・イスタンブールの地下宮殿も舞台であり、このシリーズならではの楽しみである。
ダンテのデスマスクもしっかり拝めた(笑。
然も今回のラングドン教授は拉致され記憶を消す注射を打たれ、頭も負傷しのっけから劣勢に立たされたところからスタートを切る。
ラングドンの命を狙い、追い詰める追手達も手強い。
ドローン偵察機も出てくる。
だが、一番の驚きはヒロインと思って安心して寄り添ってきたシエナがバートランド・ゾブリストの恋人で、彼の遺志を受け継ぎその人口削減計画を実行せんとする戦士に変貌するところだ。
それまで危険をものともせず、果敢にラングトンと行動を共にしてきたのには、彼女の秘めたる使命感があったからだった。
(それにしても医者が何でこんなに芸術や考古学や語学・文学に詳しいのかちょっと出来過ぎに思えたが、どうやら特殊な人であったのだ)。
最終的にゾブリストがウイルスを隠した場所が分かった時点で、彼女はこころを決めたのだ。
彼女のラングドンを見る表情が三段階に意味ありげに変わったときに、何?と思ったがまさかである。
これは謎解きの展開よりもサスペンスを高める。
三部作最大のどんでん返しであったか、、、。
しかしもうひと捻り彼女の変貌があるかと期待していたがそのまま突っ走って終わりであった。ちょっと残念な気もした。

終盤は、ロバートはエリザベス・シンスキー博士とのタッグで、とりあえず目先の人類の危機を救う。
どうも前二作ほどのインパクトがなく、観終わってから残るものが余りなかった。
音楽はシーンによく合っていた。エンドロールでも締めくくっていた。
ゾブリストは、何故自分でさっさとウイルス撒いて死ななかったのかが謎でもあった、、、。
(あのような形となった経緯など、プロットの説得力がいまひとつ弱い感じがした)。