マラソンマン

Marathon Man
1976年
アメリカ
ジョン・シュレシンジャー監督
ウィリアム・ゴールドマン原作・脚本
ダスティン・ホフマン、、、トーマス・バビントン・"ベーブ"・レヴィ
ローレンス・オリヴィエ、、、クリスティアン・ゼル博士
ロイ・シャイダー、、、ヘンリー・"ドク"・レヴィ
マルト・ケラー、、、エルザ・オペル
ウィリアム・ディヴェイン、、、ジェニウェイ
わたしのお気に入り映画の「真夜中のカーボーイ」の監督の作品である。
ウィリアム・ゴールドマンは「明日に向かって撃て」の原作者でもある。
ローレンス・オリヴィエのクリスティアン・ゼル博士は、ヨゼフ・メンゲルそのものか?
本当にこういう人なんだろうと思える役作り。
流石である。
「安全か?」というのは、わたしが直接銀行、宝石店に出向いても大丈夫か、ということか、、、?
確かに彼は、国際指名手配されている当人である。
そりゃ、聞いてもしょうがないわね。代役が死んでしまっていては。
収容所時代の彼を見知っている老人で、頭がまだはっきりしている人に出逢ってしまえば気づかれるだろうし、、、。
変装を念入りにしてみてはどうか?
そのままでは悪魔の殺人鬼だし。その印象はこころに深く焼き付いているはず。
街で出逢った老女があれは、ゼルよ!白い悪魔よ!と取り乱し叫ぶところは、よかった。
ここをもう少し大きなシーンにすればより印象深い作品になったような。
あの仕込みナイフで人を殺すところや、たくさんのダイヤに眺めいっての狂気の笑いなど、まさにサイコである。
(しかしローレンス・オリヴィエもよくこんな役を思い切って引き受けたものだ)。
ベーブの歯の拷問は、もう見るに耐えない痛い場面であった。
わたしのもっとも苦手な分野だ。
個人的に歯医者で苦労しているため、、、(痛。
ゼル博士の兄が、アウシュビッツのユダヤ人から命と引き換えに巻き上げたダイヤの運び屋と管理(鍵持ち)をしていたというが、そんな人物があんなじいさんの挑発に容易に乗って自動車事故まで引き起こすか?
仕事柄、如何なる時も冷静沈着であることを要求されるものだと、思うのだが、、、ちょっとおつむが弱すぎないか?
あれ自体、何らかの罠であったのか、、、例えばジェニウェイあたりがブツを横取りしようと企んだ、、、。
しかし、その後の動きが特になかった。
政府諜報機関員のベーブの兄ドクは、何度も命を狙われるが、特に夜に知り合いの女性に声をかけるも、彼女は気づかずそのまま漆黒の闇に消え、その方向から忽然とサッカーボールが転がってくるところなど、非常に不気味で神秘的な演出であった。
こういった上手さが随所に見られる。
音楽もなかなかよく、シーンに溶け込んでいた。
実弾に見せかけた空砲や刺せば引っ込むナイフなどの扱い等も面白かったナイフについては子供の頃それで随分遊んだが。
殺されたはずの敵が生きていたこと、味方とばかり思っていたジェニウェイがもっとも悪辣な奴だと知った時のベーブの絶望はよく伝わった。
エルサがドクから送られたスパイであるというのは、ちょっと納得しがたいものであった。
ベーブの方からかなり厚かましく強引に迫って付き合うようになった訳であるし、不自然さは感じる。
流石に兄はその仕事柄、彼女は怪しいということにすぐ気づくが。
エルザ自身の心情(また、その変化)の描写がいまひとつ薄い。
ゼルはドクにナチ戦犯の情報を垂れ込む見返りに、アウシュビッツ時代に巻き上げたダイヤを彼を経由してせしめていたらしいが、どうやらドクが余りに大きく出過ぎたため、ゼルは危機感を持って殺したようだ。
やはり兄が不慮の事故で死んで、運び屋に対する疑心暗鬼も増したと言えるか。
ドクも独自にゼルの知らない場での取引をしていたようだし、横領を疑っていた。
とは言え、息絶える直前の兄と接触したことで、何か聞き出したはずと、あれ程に拷問をされてはたまったものではない。
はっきり言って、ダスティン・ホフマンやられっぱなしではないか、、、。
それから気になったのは、ドクもベイブも命を狙われているのは明白なのに、異様に呑気で自衛手段を具体的に講じない。
これがとても不思議で、ベイブなど今夜、ゼルの手下が襲ってくると言われていたのに、その夜バスタブでぼんやり湯に漬かっているではないか、、、わたしなら銃器を幾つも部屋に装備して、入ってきたら蜂の巣にする準備をしていると思うのだが。
最後に、ゼルの前で彼の鞄からベイブがダイヤを排水処理上の水にブチまけるところは、カタストロフィを充分感じるものである。
ダイヤを飲め、と言われたらわたしなら飲めるだけ飲んで逃げるが、ゼルの場合プライドが許さなかったのか。
最後は鞄を拾おうと階段から落ち、自分の必殺仕込みナイフで自分の胸を突いて死ぬ。
自業自得そのものであった。あ~Sir Laurence Kerr Olivier、、、
ベイブはそもそも歴史上における弾圧に関する研究をしている大学院生であったはず。
戦犯として自殺に及んだ父親の潔白を晴らしたいというある種のトラウマを抱えていたようだが。
マラソンを趣味としているにしても、「マラソンマン」という映画の題はどういう意図でつけたのかどうも理解し難い。
ジェニウェイたち追手から逃げる時に確かに役に立ったが、時折出るアベベ選手へのオマージュみたいなものとどう關係してるのか、さしたる意味もないのか、、、ともかく題が意味不明、であった。
登場人物の熱演の割に特に惹かれるところはなかった。
