パプリカ

2006年
筒井康隆『パプリカ』原作
今敏 監督
平沢進 音楽
パプリカ/千葉敦子(サイコセラピスト、DCミニ開発チーム副主任)
乾精次郎(理事長)
時田浩作(肥満の天才、DCミニの発明者)
粉川利美(刑事)
小山内守雄(千葉の助手)
噺は「時をかける少女」より面白かった。
わたしは絶対自分の夢をヒトに見られるのも触れられるのもゴメンだ。
それこそプライバシーも何もあったものじゃない。
わたしという存在の根幹に関わるものではないか、、、。
(日々わたしもそこから歴史的な自己を探り続けている)。
夢と現。
他者と自分の潜在意識~夢。
その「境界」がとっぱらわれたらどうなるか、、、。
あらゆる軛から解かれた意識は何処へゆく(漂いだす)のか?
DCミニ(シナプス伝達型の通信方式による潜在意識共有装置)によって夢を共有する。
千葉敦子はパプリカ(コードネームか?)として、クライアントの夢(潜在意識)にダイブし障害(トラウマ)の元を突き止め、精神治療を行う。
これは医療行為である。
だが、使いようによっては、その装置はサイバーテロにも利用可能である。
ここでは実際、盗まれたDCミニを使った夢の乗っ取りにより、まさにサイバーテロへと繋がってゆく。
他者の夢に、ある意図(悪意)を持って突然無断で入り込む。
その人間の意識を丸ごと呑み込む程に悪夢は増殖する。
(謂わば、この映画のほとんどはその悪夢の描写に尽きるといえよう)。
様々な玩具や日本人形や家電製品が一斉に噴き出してパレードが始まる!
発狂した夢。
混沌の世界。
巨大な妄想がダイナミックに増幅してゆく。
浮遊感と時間の連続性も速度も覚束無い。
パプリカが救援に飛び回るが、、、謂わば相手―敵の掌の中で戦うような状況となる。
変幻自在な相手に対し変身しつつその元を探ろうとするが、、、
またそんなときの曲が素晴らしかった。
無論、テーマ音楽も。総合的に見てかなり実験性も高い。
この作品は、なかなか実写で再現は難しいものだと思う。
ちょっと、テリー・ギリアム監督なら挑むかも知れない世界に想えるが、、、。
夢の快楽原則と悪夢の不安と苦痛をパプリカが変身を繰り返しながら飛び回り横断する姿はかなり気持ち良い。
パプリカ―夢とその本体千葉敦子の個性がかなり違うところも、面白い。
素直で明朗快活なパプリカとシニカルで冷静沈着、知的な千葉。
人の現のペルソナと夢のそれとは異なる。
容姿―身体イメージがほぼ別人でしかも別人格。
心理学的にみても存在学(オントロジー)的にみても、、、
きっと、そういうものなのだろう。
別のアイデンティティは誰もが密かにもつものである。
大概、正反対のパーソナリティをもっていたりするもの。
パプリカの人格が次第に強度を増し自立の度合いを高め始める。
千葉敦子に意見し従わなくなり、結局千葉自身を変えてゆくが、、、。
実はそれが、彼女が真になりたいがなれないでいた自分であることが多い。
時田浩作の才能豊かな幼児振りもその超肥満な身体共に傑作であった。
比較的よく観る(読む)天才科学者タイプの典型ではある。
演出が度肝を抜くとまでは謂わないが、かなりデヴィッド・クローネンバーグのマンマシーン的表現が目立った。
特に小山内がパプリカから彼女の皮を剥ぎ取るようにして、恋愛の情を抱く千葉をその中から取り出すところには唖然とした。
夢の接触が幾つも起き、その集合体のグロテスクな様は見応えがある。
そして夢から別の夢への逃亡と攻防。
どこまでが誰の夢の領域なのかも判然としなくなり、戻るべき現実すらあやふやになる。
幾つもの夢に侵犯された意識は、荒らされて修復不能に陥る。
夢と現の境を崩すそのエネルギーはそもそもどこから発生しているのか、、、。
この力はどうやら発明者の時田すら想定し得ていなかったものらしい。
そして夢が現を侵犯してくる。
夢で粉川に撃たれた小山内が現実の世界で死ぬ。
夢が現実を破壊しブラックホールの如く吸い込み始める場所―時空に、粉川達は恐れ戦く。
巨大化した黒幕であった理事長がまるでプリキュアの最後の敵のような様相で暴れている。(ここは既視感あり。プリキュアが真似ているのだろうが)。
最後は夢から覚めたように収束する。
パプリカがこの事態を引き起こした理事長をその想念もろとも吸い込んでしまった。
彼女は童女から悪夢を吸い込む毎に成長してゆき、大人の女性になったところで全てを吸い込み消えてしまう。
(彼女こそがブラックホールか)。
そして助けられてベッドに横たわる時田浩作とそれを見舞う千葉敦子、、、。
穏やかな日常の再来。
もう少し夢の時間性―深さの度合いの描写がなされても良かったと思う。
夢の時間は、その層や場所によって進む速度は一様ではない。
ここらへんは、「インセプション」の方が精緻に描いている。
じっくり見られる映画であるが、子供と一緒には難しい。
完全に大人のアニメーションであった。
