フィッシュストーリー

2009年日本映画。
よく海外の翻訳本を読んでいて、訳が悪いなと感じることが結構ある。
時折、日本語になっていない文も見られる。
なかには学生アルバイトの仕事だったりすることもあるが、そうでないこともある。
実際、英語が普通にできる、とかではなく、芸術や科学、哲学等その分野の研究者が訳さなければ、意味を成さない。
詩になると、その作家の研究と同時に自らをかけた創造行為ともなる。
恐らくこんなに難しい作業はなかろう。
この物語、戦後の混乱期に、ズブの素人が訳した詩的散文を出版したはよいが、その直訳のお粗末さから全て回収の憂き目を見た「フィッシュストーリー」という本からはなしが生成され繋がってゆく。
この訳本、ここまでくればシュールレアリズムの本として、逆に面白いものであろう。
そこに何かを見出すポテンシャルを孕んだものだ。
その流れは、速く広く拡散するようなブロードバンドではなく、思いもかけないローカルなハブからハブに密かに伝わるナロウバンドの極地の繋がりである。
独立した幾つかのお話(御伽噺)が、放電しながら飛び飛びに繋がってゆき、最後に地球が破滅から救われるという何だか晴れやかな話なのである。
セックスピストルズデビュー一年前に、全く売れずに終わる元祖パンクバンド「逆鱗」が、上記の本から着想を得て作った最期のチューン”フィッシュストーリー”が、カルト的価値を帯び、一部で聴き継がれてゆく。
それは曲の良さから、と言うより間奏部分に1分間無音があることから、そこに女の悲鳴が聞こえるという都市伝説がマニアの間に広まったからであった。
しかしその無音部分で偶然女性の悲鳴を聞いた気の弱い大学生がいた。
女性が深夜襲われているところを彼は勇気を振り絞り、何とかそこを逃れる手助けをする。
その後、2人は結婚し、子供が授かった。
父はその子を「正義の味方」にするべく日夜特訓を重ね、来るべき時のため心身ともに万全の備えをさせる。
彼はパシリに使われていた頃、占いをする綺麗な女子大生から、あなたは一度でも何かに立ち向かったことがあるの?と聞かれ彼女の危機に際して怖気づき逃げてしまったことがずっと外傷経験として残っていたのか。彼女がわたしの前にいる人の中に、将来地球を救う人がいる、と言ったことばがずっと引っかかっていた為だろうか。
父は息子に兎も角、夢を託した。
修学旅行中遊覧船で眠ってしまったため、ひとり取り残された女子高生とその船でシェフとして働く長じた彼とが出逢う。
彼女は優秀な高校に通う生徒で、理数系の得意な少女である。
困っている彼女に、自分の父の事や特異な生い立ちを笑い話として聴かせる彼。
そんな時に、世の終わりを説く狂信的な集団に船はシージャックされる。
ピストルを構わず撃ちまくるキレた連中であったが、彼の拳法の前にみんななぎ倒され、女子高生は命を救われる。
2013年。彗星が地球に衝突し、地上は全て海に呑み込まれることが確実となった。
人々は皆、滅亡に狼狽え気休めに高い山に登って避難している状況である。
そんな時、誰もいない商店街の一軒のレコード屋が開いている。
そこに世紀末狂信集団崩れの神父が車椅子でやって来る。
店には、かつて「逆鱗」をプロデュースしていた店長と若い客が音楽は世界を救うという話を真面目にしている。
元神父は、彼らの話がまるで現実味がないことを嘲笑し現実を彼らに突き付けようと、音楽と理想の話にいちいちケチをつけていく。
彗星衝突まで後5時間というところで、ニュースからインドの核弾頭を積んだロケットが打ち上げられたことが報じられた。
その乗員は世界から5人集められたその道のエキスパートであるという。
店長と若者は、ゴレンジャーだ。やはり英雄が地球を救ってくれる、と喜ぶ。勿論神父は呆れて閉口する。
少し前にアメリカが破壊に失敗している。
今回、その時埋められた爆弾目掛けてミサイルを放ち、瀬戸際で接近する彗星を破壊する計画なのだ。
しかし、その軌道が複雑を極め、成功率はゼロに近いとアナウンサーは絶望を伝え、神父は嘲笑う。
だが、彗星は爆破された。
慌てて店の外に出る3人。
2人は空一面に広がる大きな花火を見て大はしゃぎ。やはり助かりたかったのだ。
一方神父は口を開いたきり、フリーズ状態。
何とそのインドのロケットには、あの優秀な女子高生の長じた姿があった。
彼女の軌道計算によって、ミサイルが正確に着弾したのである。
よって、地球は救われた。
チャンチャン。