セブン

"se7en"
Gluttony(大食)・Greed(強欲)・Sloth(怠惰)・Lust(肉欲)・Pride(高慢)・Envy(嫉妬)・Wrath(憤怒)
7つの大罪とモーガン・フリーマンの刑事が定年退職まで後、7日。
ともかく、7でいきましょ、ということで”7”なのか。
猟奇殺人事件を追う刑事物語であった。
ブラッド・ピットとモーガン・フリーマンのタッグである。
それだけで見る価値があると言えよう。
グウィネス・パルトロウも街に馴染めない悩める若奥様をチャーミングに演じている。
ミルトンの「失楽園」の言葉「地獄より光に至る道は長く厳しい。」を犯行現場に犯人が貼り紙する。
モーガンの刑事はすぐにこれは本好きな教養ある男だと睨む。
更にGluttony(大食)・Greed(強欲)あたりで、7つの大罪に準じて犯行を行っていることに気づいたため、後何人が犠牲になるかが想定可能になった。
彼がこの事件を担当していてよかったと言えよう。
ダンテの「神曲」やチョーサーの「カンタベリー物語」、骨のない1ポンドの肉の件が「ヴェニスの商人」からとかあったが、これらから犯人の読書傾向が分かり、FBIに頼み図書貸出データを手に入れる。
特に謎解きや物語の構造にそれらが深く組み込まれているわけではなかったが、読書傾向から見事に犯人を割り出すことが出来た。これは少し上手く行き過ぎた感がする。もう少し手間がかかると思っていた。
書物を参考にしていたからといって、必ずしもひとつの図書館で借りるとは限らないはず。
それにわたしは、まず本は借りない。必ず買う。ケースはもっといろいろある。
最後にはヘミングウェイが出てくる。
「この世は素晴らしい。戦う価値がある。」モーガン刑事は後半の部分だけを肯定する。
この映画を見てきて、前半に同意はできまい。
世界観が何故かモーガン刑事と犯人は似ている。
どちらも厭世的で意固地である。
そこも犯罪推理に役立ったところだ。
ブラピ刑事の方は、酒はビール派のようで、モーガン刑事のワイン派と少し相容れない。
文化的な感覚においても、単に性格的なものというより、階級的な枠である。
ブラピの方は、典型的な中産階級か。
彼の奥さんはモーガン刑事の方に感性は近いようで、相談ものってもらい頼りにしている。
さて、犯人は何をやりたかったのか?
最後に5人まで殺したところで、残りの死体を見せると言い、わざと捕まりその場所へとモーガンとブラピを案内する。
車の中では、滔々と自らの信条についてまくしたてる。
そしてしきりに、ブラピに絡む。
あなたに嫉妬する。あなたのようになりたかった、等々。
更に、あなたには絶対忘れられない事件になる、とも。
ブラピは彼の術中にまんまと乗っかりカリカリ頭に来る。
そして、そのまま衝撃の最後のシーンである。
犯人がEnvy(嫉妬)であり、ブラピはWrath(憤怒)となる。
全て犯人の筋書き通りということだ。
この犯人はハンニバルには似ていない。
ハンニバルは殺害対象は彼の趣味による。簡単に想定できない。
ハンニバルは彼自身を伝説と化してゆくのだが、この犯人はやはり事件をこそ歴史に刻み込みたいようだ。
こちらは、世の悪に対する憤慨がまずあり、それを選ばれたものとして裁くという姿勢である。
モーガン刑事と精神的な基調は近いのだが、彼の場合は出来る限り関わりたくない、と言う。
むしろこの犯人は、愚か者へ制裁を加えるという心情からも、アフターライフの葬儀屋に近いと言えよう。
しかし、犯人は何をやりたかったのか?
殺した相手もさほど有名な人物でもなく、世間に対するインパクトという点から考えても何か中途半端なものだ。
犯罪そのものは、大変趣向を凝らし芸術的ですらあり、用意周到で丁寧な仕上げであるが、ブラピ刑事が言っていたように、人々は2ヶ月で忘れてしまうレベルであろう。
ブラピ刑事にとっては、犯人の言うとおり、一生忘れることの出来ない事件となったが。
それから、分からない点であるが、何故最後にブラピ刑事が犯人を撃ち殺してはいけなかったのか?
犯人の目論見はともかく、あの状況ではどうにもなるまい。
そう、犯人の計算通りなのであろう。
ここで死ぬことで犯人に関すること全てが闇に葬られることとなった。
名前すら分からないまま。
とは言え、やはり犯人の目的がいまひとつ分からない。