シンプルプラン

A Simple Plan
1,998年
アメリカ
サム・ライミ監督
スコット・スミス原作・脚本
ビル・パクストン 、、、 ハンク・ミッチェル
ブリジット・フォンダ 、、、サラ・ミッチェル(ハンクの妻)
ビリー・ボブ・ソーントン 、、、ジェイコブ・ミッチェル(ハンクの兄)
ブレント・ブリスコー 、、、、ルー・チェンバース (ハンクの親友)
ゲイリー・コール 、、、ニール・バクスター(FBIのフリをする敵)
チェルシー・ロス 、、、カール・ジェンキンス保安官
ジャック・ウォルシュ 、、、トム・バトラー
ベッキー・アン・ベイカー 、、、ナンシー・チャンバース
ファーゴ同様、一面の雪原が絵になる程、美しい。
大晦日のどこかお祭り気分にいるときに、偶然に雪山で墜落した金を積んだ飛行機を見つけたところから、悪夢が襲いかかかる。
大金(440万ドル)に目が眩んだ3人の男は、金をくすね、探している者がいなければ山分けすることに決めた。(それにしても札番号の控えなどを気にしていないのが呑気なところだ)。
物語は空虚な欲望に取り憑かれた人間が後戻り出来ずに加速度的に転げ落ちてゆく顛末が描かれてゆく。
しかも人間というものは、いとも容易く殺人が出来てしまい、ひとり殺れば後は何人でも、、、となるもののようだ。
それはまさに、ファーゴがそうであった。
一度境界を跨いでしまうと感覚の閾値が一気に低くなるのか。
道徳的な善悪(常識)から最初は金の盗み(山分け)を主人公は断るのであるが、欲丸出しの仲間の思慮のないオネダリに容易く押し切られてしまう。
結局、見つからなければ何をやっても基本的に大丈夫だというところにすぐに行き着く。(それはまた目撃されたら躊躇わずに殺す、に繋がる)。
これは、認識的に飛躍のようで、そうではないらしい。
プラトンのソクラテスの対話にまさにこれと同様の内容のものがあった。
人間の属性と言えるか。
兄のジェイコブ(ビリー・ボブ・ソートン)は、とても笑顔の目立つ少年のような純粋さと他人に共感でき思いやりのある人物であるが、主人公の弟を気遣いながら罪を重ねるにつけ、不安と罪悪感に苛まれ消耗し追い込まれてゆく。
最初は無邪気に何も考えず金の山分けを主張するが、基本的にヒトを殺すようなことには耐えられない。
度重なる殺人とそれを隠す口裏合わせに彼は疲れ果て、精神がボロボロになってゆく。
この過程の変化を実に細やかに表現するソートンの演技力には痺れる。
弟のハンクはプライドは高いが頭が硬く、その場を繕う知恵だけで渡ってきた人間で、他者の心情を理解しようなどという精神はもち得なかった。
しかし、兄のジェイコブに事件を機に深く接することで他者のこころの痛みを少しづつ共感するようなる。
ハンクの妻役ブリジット・フォンダであるが、清楚でまともな女性に見えて狂気を隠し持っている役がとても似合う。
ここでも、事態をどんどん狂わせる頭脳となる。
金を見るまでは常識人であったのが、静かに豹変している。
スイッチが入ると徹底して冷徹で明晰である。
完全にボタンをかけ間違っているが、論理的には正しい判断を下す。
こういう女性が1番怖い。
またファーゴでは、事件を解決する女性警官が妊婦であったが、こちらでは行き着くところまで傷口を広げる触媒となる主人公の妻が妊婦である。身籠った女性はやはり、どんな意味でも守りを大切にする。
彼女の提示するプランをハンクが次々に受け入れることで、極めて単純なプランが複雑化し混迷を増してゆく。
雪が何度痕跡を消しても、元に戻るわけではない。
何も書き換えられない。
傷は深まるばかりである。
最後にハンクも兄や仲間のことを思い、妻に逆らい事態の収拾を目指そうとするが、もう制御不可能な構造を流れ落ちるしかなかった。
すでに行き着くところまで行くしかないのだ。
このComplex Planは、最悪の結果を招くしかなかった。
雪の中に、ここまで全てを失ってしまう物語もないだろう。