愛・アマチュア Amateur

「この男を知っているか?」
「はい、知っています。」「よく知っています。」
出逢ったばかりの記憶を失った自分のことすら分からない男に対して
こう答えきる確信がとても素敵だ。
信仰心のような。
修道院の扉を開いたとたん、警察に誤って銃殺された記憶を失った男。
そこに駆け寄るイザベル(イザベル・ユベール)。
「知っている」とは「信じている」
ということか?
イザベルは、修道院を出て、書いたものはことごとく詩となってしまうポルノ小説家。
書く文は編集長に全く受け入れられない。謂わばキャリアは白紙状態。
イザベルは彼女特有の霊感からひょんな事で出逢った記憶喪失の男を助け匿う。
彼から逃れようとして彼を窓から街路へ突き落とした情婦とも出会い、イザベルは啓示を受ける。
彼女を救わなければならないと。
男はどうやらかつて裏組織にいた危険人物らしいことは知るに至る。
今や彼はその裏組織から狙われる身。
彼の情婦も組織から不正会計のデータを手に入れ組織をゆすろうとしたことから狙われる。
組織の会計係の男も情婦と手を組んだことから組織に狙われ拷問にもかけられる。
危うく逃げ出すが、保護された警察で警官を撃ち、組織から送られてきた暗殺者も撃ち殺し、警察に追われている。
そうして彼らは合流する。
奇妙な逃避行が始まる。
イザベルの霊感から
合ってはならない男と女が再び出逢ってしまう。
舞台はニューヨークというが、ヨーロッパの雰囲気である。
イザベル・ユベールのせいか?
情婦のエリナ・レーベンソンもまるでモンマルトルのキキのようだ。
20世紀初頭のフランスを感じさせる。
彼女の髪型もそれを思わせる。
良い色調だ。
物語の終盤、イザベルのかつていた修道院に彼らは皆で逃げ込む。
彼女はそこで彼の過去をイザベルに伝える。
イザベルは15年間修道院で”神のお告げ”を待っていた修道女である。
彼女は霊感を信じて行動してきた。
記憶喪失の男を助けること。
その男のかつての情婦を救うこと。
それに彼も従った。
僅かな日数であるが、イザベルと男は確かな時間を積み上げ共有してきた。
真っ新な者同士。
お互いに、これまでの歴史は無いに等しい。
まさに何もない時点に出逢ったところからふたりの物語は始まったのだ。
1995年はフロッピーディスクがまだ珍しいものであったか。
そこですでに情報はすべて外部ストレージに記憶された。
本体は空っぽでよい。
お告げ-情報は外からやってくる。
男は空っぽであっても、過去の情報(事情)は別の人間が握っていても、知っている=信じているは別次元のことなのだ。
感じる時には、確かに感じられることなのだ。
天啓のように。
「わたしは知っています。」
この言葉がこれほど重く響くことはない。