月~ほんの一時、月のことを想いましょう

さまざまな"月”の紹介
月はかつては観念の場所でした。いえ、自然と密着して生きていた頃の人々にとっては、月の満ち欠けや距離、合衝などのサイクルが生の様々なサイクルと連動している事は当たり前でした。そのため月は崇拝され、怖れられ、相談を持ちかけられてもいました。
今やアポロ宇宙飛行士が着陸して重力の弱い空間を跳ねて歩いてみせてから、金を払えば行くことの可能な高級リゾート地のような現実の場所になったかのようです。
とは言え(これって私の口癖ですね)、まだまだ月に軍事基地を建設した国とか、私有地を購入した(何処から購入するのか?)大金持ちの話は聞いていませんので、数歩人類が足跡を残したくらいで、月のもつ意味や魅力が薄れた分けではありません。
文学においてもジュール・ベルヌ的草創期の荒唐無稽なファンタジーは色褪せても、いまだ月はイマジネイティブな地下世界の探検譚と同質なイコンの場を守っています。相変わらず夢想の場であり続けています。ありえない場所を提供し続けています。
何をおいても月は昼間はほとんど見えない。トワイライトゾーンに朧気に現れて、夜にこそ力を発するところが良い。太陽の灼熱の光ではなく、冷光であること。現の領域にはなく、夢の領域に現れる。
これから月を巡って、月がどのように想われ、語られてきたか、文学書などから少しばかりご紹介していきます。この際、夥しくあるアロマと絡めたヒーリングものと占い関係は割愛します。
「魔物に憑かれて生ずる精神錯乱、おうおうとして楽しまない鬱病、月にうたれて生ずる。」
ミルトン
「月の軌道が狂ったのだ、いつもよりずっと地球に近づいたので、人間どもが狂いだしたのさ、」
シェイクスピア
「果てもなき 波の下
真珠産む わたつみの
洞穴より
生命生まれ 育ちぬ」
エラズマス・ダーウィン
「五億年前、月は、生命をその最初の住処である海より呼び出し、まだ誰もいない陸地へと導いた。月は原始の地球で、荒涼たる大陸から大陸へと潮を移動させたため、浅みにあった生物は、周期的に太陽と大気に晒される事になった。ほとんどの生物は滅びたが、あるものはこの厳しい環境の新変化に適応した、、、月ロケット発射のドラマがわれわれの心をつかんで離さないのも無理はない。上昇するロケットに魅せられるのは、理性というより、太古からの本能なのである。」
アーサー・C・クラーク
「月は太陽の夢なり」
ノヴァーリス
「カフェの開いた途端に月が出た。」
マリネッティ
「月よりも目が痛い」
ハンス・アルプ
「月は5°7′48″をのみこんでいる。」
まりの るうにい
「女は破れ窓の障子を開きて外面を見渡せば、向かいの軒端に月のぼりて、此処にさし入る影はいと白く、霜や添ひ来し身内もふるへて、寒気は肌にさすやうなるを、しばし何事も打わすれたる如く眺め入て、ほと長くつく息、月かげに煙をえがきぬ。」
樋口 一葉
「油絵のローデンバッハの夜に 黄色い窓から洩れるギターを聞いていると 時計の螺旋のもどける音がして チーンと鳴るかと思っていると
これは又! キネオラマの大きいお月さんが昇り出した 、、、」
「ある晩、お月さんがポケットへ自分を入れて歩いていた 坂路で靴の緒がほどけたので 結ぼうとうつむいたハズミに ポケットからお月さんが転げ出て 急雨に濡れたアスファルトの上をコロコロコロと転げ出した しまったと思ってお月さんは一生懸命に追っかけたが お月さんは加速度を増して転んで行くので お月さんとお月さんとの距離が次第に遠くなって行った そしてお月さんはとうとう ズーと下の青い霞の中へ自分を見失ってしまった」
稲垣足穂
「今宵 月は ひとしおものうげに夢みている 積み重ねた数々のクッションの上に横たわり 眠りに入る前に 放心の軽やかな手で 二つの乳房のふくらみを愛撫している美人のように
やわらかいなだれと見紛う繻子の肌の背を下にして 仰向けになり 月は息も絶え絶えに 咲きほこる花々のように蒼空の中に昇ってくる 真白い幻影を うっとりと眺めている
やるせない手持ちぶたさのつれづれに 時おりは 地球の上にひとしずく涙の露をひそかにこぼすと 睡眠を敵とみなす敬虔なひとりの詩人は
その手のくぼみに 猫目石のかけらのように虹色に きらめきわたる青白い月のかけらのように虹色に きらめきわたる青白い月の涙を受けとめて 太陽の目の届かない胸の底にしまいこむのだ」
ボードレール
「月が黒檀の櫛で髪を梳いていた。
丘を、野原を、木々を、蛍の雨で銀色にしていた。
、、、、、、」
アロイジウス・ベルトラン
「リュイザルト、ムーシャルド、ルリュイ・ド・ブリュヌ、カファルド、カルディナル、狼の太陽、大きい金貨、大きいレンズ豆、螢、的、時計の文字盤、移り気な女、シンバル、これらはいずれも隠語において月を指す言葉である。イギリスの泥棒は月をオリヴァーと呼ぶ。」
P・ボウスィエール

にほんブログ村
