勝手にふるえてろ

Tremble All You Want
2017年
大九明子 監督・脚本
綿矢りさ 『勝手にふるえてろ』原作
黒猫チェルシー「ベイビーユー」主題歌
松岡茉優、、、江藤 良香(彼氏のいないOL)
北村匠海、、、イチ:一宮( ヨシカの中学時代からの片思いの相手)
渡辺大知、、、 ニ:霧島(ヨシカと同期入社の社員、営業二課)
石橋杏奈、、、月島 来留美(ヨシカと同期入社の経理課の同僚)
古舘寛治、、、釣りおじさん(ヨシカの話し相手になっている、いつも釣りをしているおじさん)
片桐はいり、、、オカリナ(いつもオカリナを吹いているアパートの隣人)
趣里、、、金髪店員(ヨシカが通うハンバーガーショップの店員)
前野朋哉、、、最寄り駅の駅員
池田鉄洋、、、整体師
稲川実代子、、、編み物おばさん
柳俊太郎、、、コンビニ店員
これから2日で一本にしようかどうか、、、暫く試してみたい。
(絵の方は進んでいない)。
この映画も、他者と自分、自分と自分との間の距離~身体性を微分的に描く綿矢りさの小説から起こされている。
脳内で漠然と超自我と語るというより、自分の気になる特定の対象にそれを投影して対話するというこれまた楽しい試みだ。
この本も持っていないのだが、「私をくいとめて」と同様の線で行くのね(同じ原作者と監督コンビで)。
(綿矢りさの小説は軒並み映画化されているみたい。距離感の織り成すドラマである為、心理空間の表現は映画として活きる)。
繊細で微妙な狂気を孕む「ふるえ」というかヒリツキががたっぷりと味わえた。
自分の殻からもんどりうって外に這い出し新たな距離感~身体性を獲得しようとするく絶滅危惧種ヨシカの笑えぬコミカルドラマである。
片桐はいりと前野朋哉がここでもよいアクセントとなっていた。
充分に絵的にも面白い。映画的な(緩急ある演出の効く)噺でもあり。



会社の隣の席の同僚の仲良し月島とアパートの隣の部屋のオカリナさん、それから強引に言い寄る”二”とは、実際に話をして付き合いがあるようだが、それ以外の朝夕決まって同じところで釣りを楽しむ男性、常連で行くハンバーガーショップのウェイトレス、最寄り駅の駅員、通勤バスでいつも隣り合う編み物好きな初老の女性、毎晩のように通うコンビニの店員、との小気味よい会話は全て自分を鼓舞する都合よい妄想である。
まるでミュージカルの軽快なノリで弾むように進むが何とも虚しい。
そして片思いの相手イチを想像で過去から召喚し今の自分を慰める毎日。
全体としてはどんよりとした停滞感で澱んでいる。

そんな自分を投影するような過去の絶滅生物を図鑑で調べたり、それを取り寄せ身近に飾っていた。
大きなアンモナイトもその一つだ。
その渦巻構造に惹かれるのは分かる。
絶滅に自らの拘りで進んで行くものへの絶望的共感。
出口のない立派なオタク趣味である。

その趣味も(不思議に~不自然なくらい)ピッタリ合い、あれだけ噺も弾み良い雰囲気になったのに、イチが自分の名前を憶えていなかったことで激しく幻滅する。取り乱す。こちらも余りに話が合い過ぎ、これも幻想なのかと疑ってしまったが、、、
とは言え、今二人がとても良い感じなら、ここから出発できないものか?
勿体ない気がした。
イチとの再会を同窓会を利用し自ら企てそれにまんまと成功したのに。
妄想に逃避していた日常から一歩足を果敢に踏み出し、せっかく主体的に行動を起こしたことを無駄にしてしまうものだろうか。
何とも言えない脆弱性(と破滅衝動)を感じる。
「痛くなかったら死にたい」と自暴自棄に、、、
その辺の複雑な感情の揺れが見事に演じられていたが。
あの絶滅種の話はホントに二人でしたのか?
(幻想と現実をほとんどシームレスに移動している為、彼が同窓会の女性を寝かせに連れて行った後に直ぐに戻って来ていたのかどうかも怪しくなってくる)。

確かに彼女が勝手に会話を捏造して楽しんでいた、よく出逢う市井の人々の名前も知らない。
自分もイチにとっては、自分の中で自問自答しているような名のない相手~存在であったものか、、、
しかしこれまでの在り方に落胆するにせよ、今現在の場から切り開けないか?
ここでイチに見切りをつけ、二に行くというのも、どうしたものか。
元々乗り気でない相手なのに。

最後にヨシカは二に心を許す。というより決心するのだ。
あれだけ惹かれていたイチを上書きして。
二とヨシカの間に立って取り持っていた月島に自分の秘密(24年間彼氏のいないこと)をばらされ彼女とも絶交してしまう。
脆弱な潔癖症~プライドが許さず会社を(辞めると謂ったが止められ)休み、周りには妊娠したと嘘をつき立ち往生する。
ヤケクソで自宅籠城しているところに二がやって来て懐柔されるのだが、、、。
二の熱弁は、経験も積んだ大人の噺で説得力はあるのだが、好き嫌いという「感覚」は理屈ではない。
熱意に押されて感情が揺り動かされたとか言うレベルとはまた違うはずだが、、、。

ヨシカの日頃の心性にはかなり共感出来るものがあったが、あれでは好きでもない対象に無理やり妥協したようにも映る。
恐らく、外界との距離の更新を図る為、半ば脳内彼氏ではない生身で存在する他者を必要としたのだ、と思う。
固執する理想像~前提を捨て、外に出たのだ。
これは飛躍だ。
生き残る為の。
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